異世界で俺だけレベルが上がらない！ だけど努力したら最強になれるらしいです？

連載

業火

　炎上する屋敷へと走りながら倉野は現在の状況を整理する。
　オランディの王位継承を奪おうとするノワール家が第二王子を暗殺し、さらには他の王子をも殺害しようとしていた。
　ノワール家を裁くには確固たる証拠が必要である。確固たる証拠があれば、王の権限でノワール家を裁くことが可能になるのだ。
　本来ならば証拠を集めることに集中したいのだが、ノワール家は次の行動を進めている。それが他の王子の殺害。
　まずその行動を阻止しなければ、証拠を集める前にノワール家が王位継承権を手に入れてしまう。
　そうなればノワール家を裁けるものはいなくなってしまうのだ。
　だが、残っている王子たちが狙われるであろうことを予測したレインたちオランディ国軍は可能な限りの護衛を用意している。
　王子たちを一箇所に集め、オランディ最強の剣士を配置した。
　オランディ最強の剣士フォルテはスキル読心を所持しており、周囲の人間の心を読むことが出来る。
　悪意や敵意、殺意を読み取り、王子の命を狙うものを察知。
　仮に近づくことがあっても、排除することが出来るというわけだ。
　だが、そのフォルテのスキルを潜り抜けられる者がいる。
　それがバジル・インフェルノだ。
　彼はスキル無効化というスキルを所持しており全てのスキルを無効化させる。
　そしてノワール家の使いが彼を連れてオランディに向かっていた。
　言い換えるならば、バジルが到着するまで王子たちの安全は守られている。
　はずだった。

「バジルの到着まではまだ数日かかるはず・・・・・・屋敷に攻撃を仕掛けられる人間なんて・・・・・・」

　状況を整理した倉野がそう呟く。
　すると、何かを感じたノエルがレインに問いかけた。

「レイン。この炎は事故的な火事じゃないわよね」
「ああ、おそらく魔法によるものだろうな。魔力の放出を感じる」

　そうレインが答えると、倉野は一つの仮説にたどり着く。

「絶対安全だと思っていた王子たち・・・・・・でもそれは一つの前提条件に支えられていましたよね。フォルテという最強の剣士が味方だって前提条件に」
「何が言いたいんだ、クラノ」

　奥歯を噛みしめるように言葉を吐き出すレイン。
　どうやらレインにも倉野と同じ仮説が浮かんでいるようだった。
　倉野はさらに問いかける。

「レインさん。フォルテが使える魔法の属性を知っていますか？」
「フォルテには幾つかの二つ名がある。オランディ最強の剣士、読心鬼、剣聖・・・・・・そして業火。フォルテが使うのは・・・・・・炎属性の魔法さ」

　核心へと近づくレインの言葉。

「それじゃあ・・・・・・まさか」

　ノエルが驚きの言葉を口にした瞬間だった。
　屋敷の方角から炎の塊が猛スピードで近づいてくる。

「避けろ！」

　いち早く気づいたレインがそう叫びながら、右側に大きく飛んだ。
　声に反応した倉野とノエルは右側に飛んで、炎を回避する。
　着地した三人は体勢を整えてから屋敷の方を睨みつけた。

「フォルテ・・・・・・！」

　怒りと憎しみを込めた言葉を発するレイン。
　その視線の先には右目に眼帯をつけた赤髪の男が剣を構えて立っていた。