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真夜中の訪問

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 変な夢を見て、リシャール様が戻ってきた事まで夢だったのでは…そんな思いに駆られてリシャール様の部屋のドアをノックしてしまった私でしたが、想定外にリシャール様が起きていた事に、私はパニックになっていました。

(ど、どどどどうしよう…)

 目の前には正に本物のリシャール様がいらっしゃいます。目的は達成できましたが、想定外のご本人登場に私は固まってしまいました。

(ラ、ラフォン家の者が…か、固まってはいけませんのに…)

 しかも頭に浮かぶのは、今言うべき事とは全く関係のない的外れな内容です。私はどうやらポンコツなのですわね…こ、これでこの侯爵家を継いで大丈夫なのでしょうか…

「レティ、どうしました?」

 ドアを開けたままのリシャール様が、そっと私の手を取られました。

(ひゃぁ!て、手が…)
「こんなに冷やして…身体を冷やしてはいけませんよ。早くお部屋に…」
「あ、あの!だ、大丈夫です。た、ただ…本当にお戻りだと、ご無事だと確かめたかっただけで…す…」

 かけられた言葉と、思った以上に温かい手に、私はしどろもどろになりながらもここに来た理由を答えました。でも、本当にご無事だと、お戻りになったと確かめたかったのですが…リシャール様こそ、何日も拘束されてお疲れでしょうに、お眠りになれなかったのでしょうか…も、もしかして…

「リシャール様こそ…どうなさったのです?まさか、どこか具合が…」

 そうです、目立った怪我はありませんでしたが…それは表面だけの事です。拘束されている間に精神的に甚振られた…と言う可能性もあったのです。

「いえ、どこも何ともありませんよ」
「ほ、本当にですか?」
「ええ。多分…まだ気が高ぶっているのでしょうね。眠っても直ぐに目が覚めてしまって…」
「わ、私も、です…」

 思わずそう答えてしまいましたが…私などリシャール様の経験された事に比べたら蚊に刺されたようなものです。同じと言うには烏滸がましいですわね…

「…少し、お話しませんか?」
「え?」
「勿論、ドアは少し開けておきますが…」

 少し考えるそぶりをしたリシャール様からの提案に、私は胸がとくんと鳴るのを感じました。そ、それは…令嬢としてはダメですが、私個人としては嬉しいお誘いです。お話するだけなのですから。

「よ、よろしいので、しょうか…」
「ただお話するだけです。こんなに体が冷えては眠れないでしょう?眠れるように、温かいお茶をお入れしましょう」

 そう言われてしまえば、断る理由などありません。私はドアを少し開けたまま、リシャール様の手に促されて部屋に踏み込みました。お邪魔しますと心の中で呟きましたが…本当にいいのでしょうか…
 ソファに座らされると、リシャール様はお茶の準備を始めました。この客間には控室があって、そこには小さなコンロがあるのですよね。お湯を沸かしている間にリシャール様は毛布を持ってきて、私に掛けて下さいました。ほんのり温かいそれは、ついさっきまでリシャール様が使っていらっしゃったものでしょうか。何となくリシャール様の匂いがする気がして、思わずそれをぎゅっと握りしめてしまいました。


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