32 / 158
第3章
3 交流①
しおりを挟む
「青山、この前の資料どのくらい出来た?」
「えっと、八割方出来てますけど、もう少しデータ入れて説得力持たせたいとこあって……」
「先方から明日の午前中にリスケしたいって言われたんだけどイケる?」
「あー……、今夜がんばれば、なんとか」
「悪いね、よろしく」
優子さんと過ごした時間は夢だったみたいに遠のいて、仕事に追われる日々。
今夜も残業が決まって、一息入れようと自販機にコーヒーを買いに出た。
外の空気を吸いながら熱いコーヒーを飲み、ポケットを探ってスマホを取り出して、メールを開く。
そこには優子さんとやり取りしたスレッドが、企業メールに混ざって残っていた。
"青山亮弥"で始まったスレッドは、その後"今日はありがとうございました。たくさん話せてよかったです"という特に中身もない俺の二通目のメールに続いている。
それに対して、"こちらこそ、楽しかったです。声かけてくれてありがとう。またゆっくり会いましょう"と優子さんからの返事。"はい!"と俺。
それから四日、後には何も続いていない。
毎日、たったこれだけのやり取りを読み返しては、ニヤニヤして、今日もがんばるぞ、と生きる活力にしている。
さて、チャッチャと済ませるか。
飲みかけの缶を片手に、急ぎ足でオフィスに戻った。
資料作成が終わり、共有フォルダに入れて上司にメールした。
時計を見たら二一時十分。思ったより早く仕上がった。
オフィスにはまだ四、五人、同じように残業している奴らがいたが、一足先に帰り支度をして外に出た。
夜遅くなると薄手のトレンチでは寒さを凌げない季節になってきたな、と思いながら駅の方へと歩き、通り沿いの飲食店の看板をチラチラと眺めていたが、疲れたから早く家に帰ろうと思い直してコンビニで弁当と缶ビールを買った。
自宅は会社から駅を挟んで反対側に十分ほど歩いたところにあるワンルームのマンションで、もう四年半住んでいる。
平日はほとんど帰って寝るだけの状態だから、基本的には雑然としている。
ごはんを食べながらスマホを見ていたら、晃輝から電話が来た。
「はい」
「おーおつかれさん。土曜日あかりが友達と買い物行くらしいから、俺暇だけど」
「マジで!? じゃウチ来いよ!」
「お前んち遠いわ」
「遠くないわ」
「遠いわ。乗り換えなきゃ行けねぇじゃん」
「乗り換え嫌がってたらどこにも行けねーでしょ」
「乗り換えは一回までって決めてんの俺は」
「とにかくアホほどノロケたいからマジで家に来て。お願い」
「それはレアだからやっぱ行くわ」
「じゃ適当に来て。なんか食べたいもんあったら買ってこいよ、俺金出すから」
「わかった特上の寿司買ってく」
「渋すぎだろ。じゃあな」
「おう」
優子さんと会ってから、この興奮と幸せを誰かに話したくて悶え苦しんでいた。
八年前のことを知っている姉ちゃんに話そうかと思ったが、わざわざ電話したことが万一優子さんにバレたら恥ずかしいので踏みとどまった。
親友の晃輝は、結婚してから以前ほど気軽に呼び出すわけにいかなくなっていた。
でも他に話せる人もいないので、ダメ元で昨日連絡してみたら、今この電話が来たという状況だ。
明日いっぱいまで我慢すれば、明後日の土曜日には優子さんがどんなに可愛くてどんなに最高だったか存分に話せる。
そう思っただけで嬉しくてワクワクして、なんなら優子さんにメールでこの高揚を伝えたいくらいだった。
「えっと、八割方出来てますけど、もう少しデータ入れて説得力持たせたいとこあって……」
「先方から明日の午前中にリスケしたいって言われたんだけどイケる?」
「あー……、今夜がんばれば、なんとか」
「悪いね、よろしく」
優子さんと過ごした時間は夢だったみたいに遠のいて、仕事に追われる日々。
今夜も残業が決まって、一息入れようと自販機にコーヒーを買いに出た。
外の空気を吸いながら熱いコーヒーを飲み、ポケットを探ってスマホを取り出して、メールを開く。
そこには優子さんとやり取りしたスレッドが、企業メールに混ざって残っていた。
"青山亮弥"で始まったスレッドは、その後"今日はありがとうございました。たくさん話せてよかったです"という特に中身もない俺の二通目のメールに続いている。
それに対して、"こちらこそ、楽しかったです。声かけてくれてありがとう。またゆっくり会いましょう"と優子さんからの返事。"はい!"と俺。
それから四日、後には何も続いていない。
毎日、たったこれだけのやり取りを読み返しては、ニヤニヤして、今日もがんばるぞ、と生きる活力にしている。
さて、チャッチャと済ませるか。
飲みかけの缶を片手に、急ぎ足でオフィスに戻った。
資料作成が終わり、共有フォルダに入れて上司にメールした。
時計を見たら二一時十分。思ったより早く仕上がった。
オフィスにはまだ四、五人、同じように残業している奴らがいたが、一足先に帰り支度をして外に出た。
夜遅くなると薄手のトレンチでは寒さを凌げない季節になってきたな、と思いながら駅の方へと歩き、通り沿いの飲食店の看板をチラチラと眺めていたが、疲れたから早く家に帰ろうと思い直してコンビニで弁当と缶ビールを買った。
自宅は会社から駅を挟んで反対側に十分ほど歩いたところにあるワンルームのマンションで、もう四年半住んでいる。
平日はほとんど帰って寝るだけの状態だから、基本的には雑然としている。
ごはんを食べながらスマホを見ていたら、晃輝から電話が来た。
「はい」
「おーおつかれさん。土曜日あかりが友達と買い物行くらしいから、俺暇だけど」
「マジで!? じゃウチ来いよ!」
「お前んち遠いわ」
「遠くないわ」
「遠いわ。乗り換えなきゃ行けねぇじゃん」
「乗り換え嫌がってたらどこにも行けねーでしょ」
「乗り換えは一回までって決めてんの俺は」
「とにかくアホほどノロケたいからマジで家に来て。お願い」
「それはレアだからやっぱ行くわ」
「じゃ適当に来て。なんか食べたいもんあったら買ってこいよ、俺金出すから」
「わかった特上の寿司買ってく」
「渋すぎだろ。じゃあな」
「おう」
優子さんと会ってから、この興奮と幸せを誰かに話したくて悶え苦しんでいた。
八年前のことを知っている姉ちゃんに話そうかと思ったが、わざわざ電話したことが万一優子さんにバレたら恥ずかしいので踏みとどまった。
親友の晃輝は、結婚してから以前ほど気軽に呼び出すわけにいかなくなっていた。
でも他に話せる人もいないので、ダメ元で昨日連絡してみたら、今この電話が来たという状況だ。
明日いっぱいまで我慢すれば、明後日の土曜日には優子さんがどんなに可愛くてどんなに最高だったか存分に話せる。
そう思っただけで嬉しくてワクワクして、なんなら優子さんにメールでこの高揚を伝えたいくらいだった。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
亡くなった王太子妃
沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。
侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。
王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。
なぜなら彼女は死んでしまったのだから。
セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】
remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。
干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。
と思っていたら、
初めての相手に再会した。
柚木 紘弥。
忘れられない、初めての1度だけの彼。
【完結】ありがとうございました‼
離縁の脅威、恐怖の日々
月食ぱんな
恋愛
貴族同士は結婚して三年。二人の間に子が出来なければ離縁、もしくは夫が愛人を持つ事が許されている。そんな中、公爵家に嫁いで結婚四年目。二十歳になったリディアは子どもが出来す、離縁に怯えていた。夫であるフェリクスは昔と変わらず、リディアに優しく接してくれているように見える。けれど彼のちょっとした言動が、「完璧な妻ではない」と、まるで自分を責めているように思えてしまい、リディアはどんどん病んでいくのであった。題名はホラーですがほのぼのです。
※物語の設定上、不妊に悩む女性に対し、心無い発言に思われる部分もあるかと思います。フィクションだと割り切ってお読み頂けると幸いです。
※なろう様、ノベマ!様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる