上 下
33 / 158
第3章

3 交流②

しおりを挟む
 俺はスマホのメールを開いた。
 あれから毎日、優子さんにメールを書きかけては消し、書きかけては消し、スマホと睨めっこする時間がとにかく長い。
 でもウザいと思われたくないから結局一度も送信できずにいる。
 平日は優子さんも疲れているかもしれないと思うと迷惑かけられないし、もし返事が来なかったらいつ来るか気になって何も手につかないかもしれないと思うと、ますます迂闊に送れない。

 そもそもメールって何を書けばいいんだっけ。
 ずっと受け身で、届いたメールに返信するかしないかだったから、話題を振るということができない。
 会うと嘘みたいに次々言葉が出るけど、あれは優子さんのおかげだと思う。
 優子さんからは不思議と、必ず受け止めてくれるという安心感が溢れているのだ。
 それを信じてメールも気楽に送れたらいいのに、顔が見えないだけで不安になる。
 わざわざメールするならそれなりの緊急性というか、必要性がないと、例えば俺の指が今書きかけている"こんばんは! 今日は残業して疲れました。優子さんに会いたいです"みたいなメールは、突然送ってもドン引きさせるだけだろう。

 本当はもっと自然な会話で距離を縮めたいのに、どうすれば自然になるのかわからない。
 優子さんからは何も連絡がないし、俺と積極的にメールする気はないんだろうと思うと、そんな相手に返事をしてもらえるようなメールを送るって、ハードルが高すぎる。
 何かいい話題がないかな。優子さんが聞きたいような、喜ぶような。

 その時ふと、先日優子さんに勧めてもらって買ったドキュメントケースのことを思い出した。
 それだ――!
 今週はデスクに張り付きで外出しなかったから、まだケースを使ってみていない。
 さすがに使ってもいないのに感想を言うわけにはいかないだろう。
 でも、明日はクライアントに資料を持って行く。
 ということは、明日の夜にはメールする口実があるってことだ! それに気づいた俺は大満足してベッドに寝ころんだ。我慢は今日までだ。

 書き掛けていたメールを消して、もう一度優子さんとのやり取りを読み返した。
 "またゆっくり会いましょう"と書いてある。
 ゆっくり会うってどういうこと?
 一日デートしてくれるってこと?
 それとも食事に行こうってこと?
 会ってくれる意思があるなら、メールしても嫌がられない?

 優子さんはどうして俺とつき合えないんだろう。
 今さらだけど、遮らずに理由くらい聞いとけば良かったかもしれない。
 好感は持ってくれているはずだけど、今も恋愛対象には見られそうにないんだろうか。
 この八年の間に他の誰かとつき合ったりしたのかな。
 だとしたら、その人が良くて俺がダメな理由は?
 何をどうすれば好きになってもらえるんだろう。
 わからないことだらけだ。

 もっともっと優子さんのことを知りたい。
 知ったらもっと好きになるのか、諦めがつくのか、それとも気持ちが冷めるのか、わからないけど。
 いや、ないでしょ。冷めるなんて絶対ない。ないない。

 翌日、午前中にケースを使ったら、バッグの中はもたつかないし、資料は真っすぐなままだし、出しやすいし、すごく便利だった。
 アイテム一つ使うだけでこんなにストレスが無くなるのかとビックリした。
 それで、すぐにでも優子さんに感想を伝えたかったけど、文面を悩んでいるうちに昼休みが終わってしまった。
 夜は夜で、土日に出なくて済むようにと急ぎの仕事を全部終えてから時計を見たら、もう二三時を回っていた。
 降りていくエレベーターの中でスマホと睨めっこしながら、さすがに夜遅くは失礼かと思い、断念した。

 はぁーっと、大きなため息が出た。
 縁がないのだろうか。疲れも相俟あいまって暗い気持ちになる。
 いや、とにかく明日晃輝と話して、まずは気分を盛り上げよう。
 俺は今日もまたコンビニに寄って、適当に酒とつまみを選んで買って帰った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

処理中です...