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第3章

2 驚き④

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 そろそろ出ようか、と伝票を取ろうとした時だった。
 亮弥くんがパッと手を伸ばし、一瞬早く伝票を取り上げた。
「ここは、俺が」
「えっ、何言ってるの、バレンタインの分だって言ったじゃん」
「いや、俺につき合ってもらったんだし、バレンタインの分はもう、これで。充分なんで」
 とスマホを見せる亮弥くん。
「だって、自分が奢るつもりで高いとこ連れてきたのに」
「大丈夫です、俺、それなりに稼いでるし、仕事忙しくてあんまり使う暇ないんで」
「でも……」
「いいですって」
 亮弥くんはサッサと席を立って、会計に行ってしまった。
 私はコートを羽織って後を追いかけた。
「じゃあさ、亮弥くん、ここは甘えさせてもらって、お土産にチョコ買ってあげる。それでチャラにしよ?」
「えっ、却って出費に……」
「大丈夫、小さいのにするから」

 私は五個入りの小さなギフトを買って、お店を出てから亮弥くんに手渡した。
「ありがとう、ごちそうさま」
「こ、こちらこそ、ありがとうございます……」
 亮弥くんは両手で受け取り、頬を赤くして嬉しそうにショップバッグを見つめた。
 可愛いな。こんなことで喜んでくれるなら、たまには二人で出掛けてもいいかも。
「優子さんって、本当に素敵な人ですよね……」
「えっ何が?」
「何って、何もかもが。本当に、今日会えて良かったです」
「よくわかんないけど、私も会えて良かった。亮弥くんがすごく大人になってて感動しちゃった」
「えっ、ほんとですか?」
「うん。その分私も年取ったってことだよね、あはは。亮弥くん帰りは?」
「あ、俺、JRなんです。会社の近くに部屋借りてて」
「あっ、そうなの。実家出たんだねー。大井町って言ったっけ? 近いから通えばいいのに」
「いや、大人になるには家を出ないとと……」
「あはは、エラい」

 大通りに出て、立ち止まって亮弥くんを見上げた。
 ちょうど日が落ちるくらいの時分。
 西の空が放つ夕焼けを背に、淋しそうな顔が私を見ている。
「それじゃ、私は銀座線だから、ここで」
「はい。あの……、メールして、いいですか? できるだけ負担にならないようにするんで……」
「わかりました」
 亮弥くんのホッとした顔を見届けてから、私は軽く手を振って駅へと歩き出した。
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