大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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2,015 / 2,022
外伝

機人の行方

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彼女が長い間様々な情報からシャットアウトされていた一年の間に、様々な変化が訪れていた。
たとえば領土の増減、軍の拡張、魔法の進歩……いくつもあったが、その中で最も彼女を驚かせた、いや、国民すら驚いたニュースがあった。
「あぁん?機人との和平条約?」
「はい。降伏ではなく和平です」
朝早くに武器庫へ行って、装備を整えてから一昨日行こうと思った森へ機人の残党狩りをしに行こうとした所で、黒鎧用の武器庫の鍵はアベルに預けている事を思いだした彼女が彼の所を訪ねた時に言われた言葉だ。
「なんでまた和平条約なんか?」
「機人の主要都市を四つ落されたからでしょう。結果、機人の戦力は大幅に低下し、魔族との戦争は拮抗から魔族優位に変化。かと言って機人を滅ぼしきれるほどヒトに戦力がある訳ではありません」
「なるほど?向こうかこっちか、どっちかは分からないが、ともかく和平条約で一時的に手を取り合い、魔族対ヒト対機人の図から魔族対ヒト、機人の状態にして拮抗しよう、と?」
「はい、つまりはそういう事かと。実際、昨日隊長に見せたメッセージの魔法、未だ開発途上ではありますが、機人との合同研究によりひとまず実用段階には至った魔法の一つです」
「まぁ、機人は元々魔法の扱いは異常に上手いしな」
強大な魔力を保有しつつも、複雑な魔法は使えない魔族。
全く魔力を保有出来ないが、恐ろしく複雑な魔法を組み上げる機人。
多少の魔力を持ちつつ、少しは複雑な魔法を使えるヒト。
機人からすれば本来出来ないような実験が出来るチャンスであり、ヒトからすれば高度な技術を盗むチャンスでもある。もっとも、互いに相手にもそのチャンスを与える事が分かっているであろうし、つい一年前まで戦争をしていたのだ。すぐさま技術が進歩したりはしないだろうが……
『という事は、近くに機人がいるのか?殺しに行こう』
『まだ分からんぞ。昨日のパレードじゃおらんかったものな』
『けど、少なくとも研究者はいると思うわ。何人ぐらいかしら?十人前後?暗殺は出来る?』
(あぁ。やかましい)
問題なのは頭の中の声。
殺せ。殺せ。殺せ。頭の中では様々な声が様々な内容で一つの結論を出し続けている。
その声達から逃げるように頭を振り、別の話を探す。
「しかしそんな中、よく俺のパレードだの何だのをやったな」
「はい?」
「俺って機人の都市を落としたから《勇者》なんて呼ばれてる訳だろう?その俺を機人と和平条約を結んだ上で『よくやった』って言ってるんだろ?それ喧嘩売ってるようなモンじゃ」
「はい。……隊長、よく分かりましたね」
「お前常々思ってたけど、俺を馬鹿だと思い過ぎじゃないか?」
鉄製の右腕で拳をつくり、軽く持ち上げるとアベルが焦って謝る。
「とは言え、もしかしたらそう言うことかもしれませんね」
「ん?」
「つまり、機人を挑発しているのかも知れません」
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