大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

自身と分身

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「………。」
俺とそっくり似た、しかし女の外見アバターをしたそれは、肩より先が、腿より先が消えていた。
起き上がることも、立って逃げる事も出来ないその姿を晒しつつ、マキナが唯一まともに動く顔を動かす。
『マスターにこの姿だけは見て欲しくなかった。だからこんなものを作りはしましたが……やはり私は私。マスターに危害を加えることは出来ませんでしたか』
顔を背けてそんな事を言うマキナ。
だが俺の意識はその言葉を無視し、マキナの無くなった手足に注がれていた。
「どこに行った?」
『申し訳ありません。質問をもう少し絞っていただけますか』
「お前の手足だ。どこに行った?」
マキナは生物ではない。あえて冷たく端的に言ってしまえばモノだ。
だが、あの鎧の特殊さ故に壊れるということがほとんどない。もしも壊れたということがあるとすれば、マキナが狂ったということに他ならない。
物理的に壊れるということは想定外。だが、これは──
『私が認識不能なレベルで粉砕され、そのまま消えました』
消滅。
あの拳に触れただけでか。
じっと観察してみると、確かに手足は捥ぎとられたという風な傷跡ではない。
肩口や脚を見ても痛々しい感じはせず、ボロボロに風化して取れた。そんな印象を与える。
本体はあれだけ消し飛ばされておきながら、中核の意識自体はそこまでダメージを負っていない。
四肢が吹き飛ばされていて、見るからにダメージが大きい?いいや、違う。
本体の九割以上が消え去ったのに、制御者マキナには殆ど問題がない。
「お前の制御自体は問題ないんだな?」
『新しい身体さえあれば、同じ《千変》として機能するでしょう』
ならば何故。
一度その言葉を飲み込み、再度質問をする。
「いつから意識があった?」
確認の質問は。
『最初から。私の意識が途切れたことはありません』
肯定で返された。
そうだろう。あの鉄片のような姿になっても、双刃のサポートは出来ていた。
「ならなんでベルが追加した分を吸収しない?」
『マスターレィア。私では貴方に不相応です』
「あ?」
思わずそう言うと、マキナはようやく背けていた顔をこちらに向けて話した。
『私のサポートでは貴方を守りきれない。生かしきれない。ずっと側にいて見て、学習して、必死に追いすがりましたが、貴方は何度も突然、飛翔するように前へと進む。それは私の予測を超えた進化で、私がどれだけサポートしても足りない。それどころか、今も私という存在にかまけているせいで、修行の時間を減らしています。結果、私は貴方の足枷になろうとしています。それは私の最も望まないことです』
「……つまりなんだ、俺が強くて、お前が弱いから俺の足を引っ張りたくない、って事だな?」
そう言うと、マキナは少しだけ考えて『はい』と頷いた。
「なら簡単だ。お前も強くなればいい。それで解決だ」
『それが出来ないから、いっそ捨ててもらおうとしているのです』
──あぁ、そういう理由か。
「馬鹿かテメェ」
抵抗できないマキナの胸ぐらを掴み、ぐいと引き寄せる。
俺の額がマキナの硬い額とぶつかり、額が割れて何かが流れる。僅かな痛みを感じるが気にしない。
今の俺は猛烈に怒っている。
「よく聞けマキナ。俺はお前じゃないが、お前は俺だ。血を分けた覚えはないが、血よりも濃い物を分けた。その俺が今ヘタってる姿、それそのものが、お前が俺にしてる最大級の侮辱だと思え」
『しかし』
「確かに俺は他のヒトには無いものを得てる。スキルとか努力、偶然のひらめき、そういうモンが噛み合った結果、連戦技アーツ・コネクトだの《始眼》だのを手に入れた。『努力しろ、結果は後からやってくる』『結果が出てる奴は必ず努力してる』そんな言葉を言うつもりはない。『諦めるな』とかそんな安い言葉を言うつもりも、お前に向かって優しい言葉をかけることもしない。だから俺がやるのはただ一つ。俺はお前を捨てない」
『………。』
「この先どんな鎧があっても、どんな魔導具を使っても、お前を捨てることは絶対にしない。もしもお前が力の無さを嘆いても、俺は気にしない。お前を纏って前に行く。お前の分だけ前に行く。その果てでお前が消えたのなら、俺はお前に別れを告げる。その時までは絶対に、俺からお前を捨てることは無い」
そう言ってマキナを突き放す。
「だから捨ててくれ、なんてのは絶対に断る。誰が自分を見捨てるかよ」
鼻を一度フン、と鳴らし、背を向ける。
「それでも自分の弱さが嫌なら、歯ァ食いしばって強くなるしかねぇだろ」
十分はとっくの昔に過ぎているだろう。きっと、じきに向こうに戻らされる。そう思った途端、案の定視界が歪む。こうやって送られてたのか。
『マスター!!』
マキナが俺を呼ぶ。
それに反応して振り返るが、俺の視界はマキナを映すより先に現実世界へと戻ることとなった。
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