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本編
灰色と棘
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それは余りにも突然の事で、全く反応できなかった。
熱で頭がやられていたのもあるだろうが、魔法返しが発動しなかったのは何故だろう。という思考が出来るようになった時には、既にそこはあの地獄のような熱とは無縁の灰色の世界だった。
「なんだここ」
空も大地もその果ても、ただただ広くそして灰色。濃淡で分けられただけ空と地面をじっと見つめ、改めて「なんだここ」と呟く。
辺りを見渡してみるが、細長いトゲトゲとしたなにかの残骸のような物があちこちに散らばっているだけ。
サイズは……結構大きい。俺の腰ぐらいまであるか。材質は金属っぽいが、それぐらいしか分からない。万が一これの先端に手をつこうものなら、容易く甲まで貫通するだろう。そう確信できるような、鋭い先。
「……まさか、これが残ったマキナだなんて言わねぇよな?」
と言ってみるが、反応してくれる声はひとつもない。一応持ち運べはするだろうが……まぁいい。地面に刺さっているのか、埋まっているのかも分からないが、とりあえずやってみればわかるだろう。
そう思って一番近い棘に触れて引っこ抜こうとした瞬間、その金属らしい何かは崩れ落ちた。
「……は?」
何が起きた?もう一度残った金属に触れようとすると、再度金属が消えるように崩れる。
そして崩れた金属は砂のようになったまま、再度寄り集まって新しい棘となる。
「……マジでなんなんだ?」
もう何度か繰り返してもそれは変わらない。俺が触れようとした瞬間、崩れて新しい棘が出来るだけだ。
諦めて立ち上がり、ふと再度周りを見る。
景色は変わらない。だが、何となくだが違和感を持った。
「……あぁ、なるほどな」
その答えはあっさり出た。
「棘が全部同じ方向いてんのな」
触ろうとしていた棘も、周りに落ちていた棘も、今新しく出来た棘も、全て同じ方を向いている。
そっちに行け、という意味なのか。それともそちらの方から何かが来るから棘を向けているのか。
「あっちか」
最終的に俺が目を向けたのは棘の向きとは真逆の方向。
理由は単純、そっちの方が棘の密度が濃い。
半ば当て感のようなものだが、そう決めてそっちの方へと歩き始め、すぐに走り出す。
「十分、か……」
ここに来る直前、ベルがさらりと言ったことを思い出す。
夢のように時間が伸びていればいいのだが、それを祈りつつ、のんびりと手掛かりを探す訳にはいかない。そもそも、何をどうすればマキナの意識が戻るか全くわかっていないのだ。
走って進めば進む程、棘の量は増え、サイズも数も増える。
さらに鋭さも増し、うっかり触れようものなら確実に皮膚は切り裂かれるだろう。
だがそれでも速度は下げない。増える棘に比例してマキナの気配を感じたからだ。
しかし、それは余りにも薄く、儚い。そんな気配。
そして遂に「ここにいる」という確信を持って、一際大きな棘の塊の中に手を突っ込んだ。
棘は俺に触れる寸前、逃げるように崩れて道をひらく。
するとその棘の奥、確かにマキナの姿があった。
『あぁ、マスター。来てしまったのですか』
そう言うマキナは四肢を捥がれ、ただ横たわる事しか出来ない姿となっていた。
熱で頭がやられていたのもあるだろうが、魔法返しが発動しなかったのは何故だろう。という思考が出来るようになった時には、既にそこはあの地獄のような熱とは無縁の灰色の世界だった。
「なんだここ」
空も大地もその果ても、ただただ広くそして灰色。濃淡で分けられただけ空と地面をじっと見つめ、改めて「なんだここ」と呟く。
辺りを見渡してみるが、細長いトゲトゲとしたなにかの残骸のような物があちこちに散らばっているだけ。
サイズは……結構大きい。俺の腰ぐらいまであるか。材質は金属っぽいが、それぐらいしか分からない。万が一これの先端に手をつこうものなら、容易く甲まで貫通するだろう。そう確信できるような、鋭い先。
「……まさか、これが残ったマキナだなんて言わねぇよな?」
と言ってみるが、反応してくれる声はひとつもない。一応持ち運べはするだろうが……まぁいい。地面に刺さっているのか、埋まっているのかも分からないが、とりあえずやってみればわかるだろう。
そう思って一番近い棘に触れて引っこ抜こうとした瞬間、その金属らしい何かは崩れ落ちた。
「……は?」
何が起きた?もう一度残った金属に触れようとすると、再度金属が消えるように崩れる。
そして崩れた金属は砂のようになったまま、再度寄り集まって新しい棘となる。
「……マジでなんなんだ?」
もう何度か繰り返してもそれは変わらない。俺が触れようとした瞬間、崩れて新しい棘が出来るだけだ。
諦めて立ち上がり、ふと再度周りを見る。
景色は変わらない。だが、何となくだが違和感を持った。
「……あぁ、なるほどな」
その答えはあっさり出た。
「棘が全部同じ方向いてんのな」
触ろうとしていた棘も、周りに落ちていた棘も、今新しく出来た棘も、全て同じ方を向いている。
そっちに行け、という意味なのか。それともそちらの方から何かが来るから棘を向けているのか。
「あっちか」
最終的に俺が目を向けたのは棘の向きとは真逆の方向。
理由は単純、そっちの方が棘の密度が濃い。
半ば当て感のようなものだが、そう決めてそっちの方へと歩き始め、すぐに走り出す。
「十分、か……」
ここに来る直前、ベルがさらりと言ったことを思い出す。
夢のように時間が伸びていればいいのだが、それを祈りつつ、のんびりと手掛かりを探す訳にはいかない。そもそも、何をどうすればマキナの意識が戻るか全くわかっていないのだ。
走って進めば進む程、棘の量は増え、サイズも数も増える。
さらに鋭さも増し、うっかり触れようものなら確実に皮膚は切り裂かれるだろう。
だがそれでも速度は下げない。増える棘に比例してマキナの気配を感じたからだ。
しかし、それは余りにも薄く、儚い。そんな気配。
そして遂に「ここにいる」という確信を持って、一際大きな棘の塊の中に手を突っ込んだ。
棘は俺に触れる寸前、逃げるように崩れて道をひらく。
するとその棘の奥、確かにマキナの姿があった。
『あぁ、マスター。来てしまったのですか』
そう言うマキナは四肢を捥がれ、ただ横たわる事しか出来ない姿となっていた。
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