大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

馬と空

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パタパタと地面に赤茶色のシミを作る血と、地面に転がる気絶したニケを見下ろす。
額が少しばかり割れた以外は大丈夫そうだな。
『大丈夫か?』
「ん?あぁ、これぐらいなら」
その顔はどこか満足気で、やり切ったが負けた、悔いはないと言わんばかりの顔だった。
ニケを倒し、辺りの警備隊に睨みを効かせると、警備隊の間に動揺が走る。一部は腰すら抜かしている。
ようやく状況を察した様だ。
「アーネ!準備はいいか!」
「もちろんですわ!」
銀剣を片付けていると、ばん!と勢いよく戸が開き、アーネと囚われていた彼女が出てくる。
「行くぞ!目的地はプクナイムの防壁まで!」
「了解ですわ!」
馬車を放棄し、元からまとめてあった荷物を馬に縛り付けると、馬に跨って即座に走らせる。
腰が抜けた警備兵達は俺達が逃げようとしているのを見て、応援を呼ぼうとしているらしい。が、潰すのも手間だ。放置する。
俺が先に走り、後ろをアーネが追いかけるようにして走る。
保護対象の彼女は、俺の腕の中だ。
リズミカルな蹄の音を聞きながら、俺は彼女に最後の確認を取る。
「なぁ、おい」
「……?」
何かと俺を見上げる彼女。
「その、俺達は聖学っていう学校に所属しててな。行くアテもないだろうし。俺達の所に来ないか?…まぁ、断られると少し困るんだが…っと!」
急に彼女が抱きついてきた。危うく落馬する所だった。
「……い、く!」
…大丈夫そうだな。
「よし、確認も取れたし。もう少しで防壁に──」
「ちょっと貴女!血が!」
「うん?あぁこれ?」
アーネが言ってるのは俺の手のひらから垂れているものだ。
どうやら、風に煽られてその血がアーネの顔に当たったらしい。頬に血を拭った跡がある。
「その怪我!どうしたんですの!?」
「別に?《超加速》使ったニケの額を銀剣の柄でぶん殴っただけ」
戦技アーツ付きでな。
結果、ぶつかった衝撃でも手を離さなかった手の皮がズルッ、となってしまった訳だが。
「すぐ治しますわ!早くこちらへ!」
「馬鹿抜かせ!馬を走らせながら回復魔法とか危険だろうが!事故起こすわ!」
確かに痛い。手綱握ながらだから尚更。
けどまぁ、我慢出来ない訳じゃないし。
ぎゃいぎゃい騒ぐアーネを無視し、ようやく防壁の辺りまで着いた。
が、警備隊もいた。
「やっばぁ……」
「ちょっと!どうするんですの!あれじゃあ外に出られませんわよ!」
アーネがそう言うが、俺が言ったヤバいってのはそっちじゃなくて…。
まぁいっか。
馬を止めて銀剣を取り出し、大きく円を描くようにして回す。
…これで多分、分かってくれるだろ。
「アーネ、お前って高い所、大丈夫だっけ?」
「はい?言ってる意味が…」
んー…。
「おーけい、言い方変えようか」
上を見上げると、空からが降りてくるのが見えたので、振り返ってアーネを見据える。
竜種ドラゴンに乗った事ある?」
背後では、上空から降りてきた竜が着地して「何か」を踏み潰した音がした。
「こんな贅沢、一生に一回有るか無いかだ。空の旅、楽しもうぜ」
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