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第四章「ディープな関係!?」

25 ディープな(二回目)

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「ななななっ!!」
「お別れの挨拶だよ、キトリー」

 アシュカはいたずらっ子のようにくすっと笑った。しかし衆目の前でキスされた俺は口を戦慄かせる。

「あばっあばっ!」
「じゃあ、そろそろ行くよ。またね」

 アシュカは爽やかな顔で言うと、早々に馬車に乗り込んだ。そして全てを見ていたデンゼルさんはあんぐりと開けた口をハッと閉じて、慌てて頭を下げる。

「で、では、我々は失礼いたしますっ」

 そう言うとデンゼルさんも馬車に乗り込み「出発してください」と御者に声をかけた。そうすれば馬車は動き始め、アシュカは笑顔で馬車の中から手を振る。
 しかしキスされた俺と言えば、ぷるぷると震え、去って行くアシュカに叫んだ。

「やっぱ、もう二度とくんなーッ!」

 その声は山向こうまで響く。
 だが、馬車は颯爽と去って行き、残されたのは俺と後ろに控えるレノやお爺達。

 ……ふ、振り向くのが怖いし、めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど!!

 どうしよう、と俺は悶々と考える。だが、迷っている内にレノにガシッと肩を掴まれ、俺は恐る恐る振り返る。そうすればそこには今までにないほどお怒りスマイルを見せるレノがいた。
 おかげで俺のお尻がぷるりっと縮み上がる。

「れ、レノきゅん。い、今のは、不可抗力と、いうやつでぇ。だからぁ……うわっ!?」

 俺はいい訳を口にしたが、その途中でレノに胸倉を掴まれた。そして驚いている内に、むっちゅぅーっとレノの唇によって俺の唇は塞がれる。大分激しめに。

「んぐーッ!?」

 俺は驚きのあまり目をかっぴらく。おかげでみんなが驚いている姿もバッチリ目撃ー☆

 ……イッヤァーーーーっ! 恥ずかしすぎるぅッ!!

 なので俺はレノから離れようとする。だが、レノはがっちり俺を掴んで離さない。この隠れマッチョめ!
 けど段々酸欠になり始め、俺が意識を失う前にレノはようやく手を離した。

「んふっ! ……プハッ! ハァーハァーッ!! ……ッ、レノ、何すんだ!」

 ……こんなみんなの目があるところで! 恥ずかしいじゃろがいっ!

 俺が顔を真っ赤にして抗議すれば、レノは冷ややかな目で俺を見た。

「消毒ですよ。どっかのおまぬけさんがキスされるから」
「誰がおまぬけじゃ!!」
「アナタですよ。一度ならず二度までも……三度目されようものなら」

 レノはそこまで言うと俺を赤い瞳でじっと見つめた。その目には怒りが宿っている。マジで切れる五秒前って感じ。なので俺は身を震わせて謝る。

「ごめんちゃい」
「次はありません。いいですね?」
「ひゃいっ」

 俺は小さく答える。しかしお爺達に視線を向けると、なんだか生温かい目でみんな俺を見てくる。特にヒューゴなんて口に手を当てて、微笑んでる。

 ……ぐぅぅっ、恥ずかしい。なんで俺がこんな羞恥プレイを。アシュカめ、今度あったら覚えてろよーっ!!

 俺は心の中で叫ぶのだった。





 ――そして、その頃のアシュカと言えば。

「全く。神聖国についたら、キトリー様にはお詫びのお手紙を書かなければなりませんね」

 デンゼルは向かいに座るアシュカを呆れた目で見つめて言った。

「えー、なんでお詫び?」
「どの口が言うんですか、どの口が!」
「アハハッ、冗談だよ。でも仕方ないじゃない? キトリーが可愛い事言うんだもん」
「アシュカ様がキトリー様を恋い慕っているのは存じていますが、手を出し過ぎるとあちらの従者に何をされるか。さきほどもすごい剣幕で見つめていましたよ?」

 デンゼルはため息交じりに言った。

「あれぐらい構わないさ、こっちは見向きもされてないんだから。少しぐらい意趣返ししたっていいだろう」

 アシュカは悪びれもなく言った。そんなアシュカにデンゼルは呆れたため息を吐く。

「知りませんからね、どうなっても。……けれど、アシュカ様がそんなにもキトリー様を好いているとは思っていませんでしたよ」
「それはそうだよ。キトリーは元々バルト帝国皇太子の婚約者だったんだよ? 聖人である僕が手を出せば、否が応でも噂になる。それはキトリーにとって良くない」
「だから婚約破棄され、郊外にいる今、会いに行かれたと?」
「まぁねー」

 アシュカは返事をしながら馬車の窓から外を眺めた。

 ……まあ、婚約者だった時に告白してもキトリーは僕には靡いてくれなかっただろうけれど。いつだって傍にレノがいたし……キトリーは気がついてなかったけど、きっとキトリーはレノの事。

 二人の姿を思い浮かべれば、アシュカの胸はツキリと痛む。でも痛む胸をそっと抑えた。

 ……仕方ない、好きな気持ちは変えられないんだから。……にしても厄介な人を好きになっちゃったよなぁ。僕が聖人でも全然かまわないんだもの。僕の唯一のアピールポイントなのに。

 アシュカは心の中でため息を吐く。でも聖人ではなく、一個人として相手をしてくれるキトリーだからこそ好きになったのだ。
 バルト帝国とリトロール王国の国境の町で初めて会った時、アシュカはキトリーに聖人であることを隠していた。聖人であれば、それだけで人と隔たりが出来てしまうから。

 でも魔獣が出て、正体を知られた時もキトリーは揺るぎなかった。

『聖人だからって、アシュカ一人で魔獣を倒しに行く理由なんてない。俺も一緒に行くぞ。お前だけに背負わせるもんか!』

 ……聖人だから魔獣を倒して当たり前。ほとんどの人がそう思うのに、キトリーはそうじゃなかった。聖人として孤独を感じていた僕にあの言葉がどれほど響いたか……キトリーは知らないんだろうな。キトリーがいてくれただけで救われたって事も。

 アシュカはくすっと笑いながら、三人の子狐達を思い出す。自分と同じように救われたであろう彼らを。

「本当、キトリーは聖人より聖人らしいよ」

 アシュカは小さく呟いた。だが、その言葉はデンゼルには聞こえず。

「何か言いましたか?」
「いーや、なんでもないさ。次はいつ会いに行こうかな」
「……勝手に抜け出すのは許しませんからね」

 デンゼルはジロッとアシュカを見て言ったが、アシュカは素知らぬ顔を見せるだけだった。


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