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第四章ー王都ー

夜会②

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「今日は一段と落ち着きが無いなぁ…」

神殿地下に拘束しているフェンリルの様子が変だと聞き、私─クレイル─が夜会の前にと地下まで様子を見にやって来た。
私がその部屋に入ると、珍しくフェンリルが私を一瞥した。その後は、確かに、落ち着きなく常に耳がピクピク動いている。何なら…喉がグルグルと鳴ってないか?

ーちょっと可愛く見えるのは…私が疲れているからだろう。そうに違いないー

本当に、ここ最近は気の休まる暇もなかった。

のせいでー

と、思考の波に囚われそうになり、ハッと我に返る。ふぅー…と一息吐き、もう一度フェンリルを見る。
落ち着きはないが、暴れる様子も殺気を放つ様子も無い。今日は今から聖女様の御披露目の夜会が開かれる。何事もなければ良いが…。

「フェンリル、頼むから…今夜はおとなしくしておいてくれよ?」

と、聞いてはいないだろうし理解もしていないだろうが、私はフェンリルにそう声を掛けてからその部屋を後にした。



そのフェンリルが、私の後ろ姿を見ていたなんて、気付きもせずに─。








*****


「カテリーナ様、ティモスです。入っても宜しいですか?」

控え室で、用意されていた軽食をつまみながらカテリーナ様とお話していると、ティモスさんがやって来た。

「どうぞ」

と言いながら、ドアを開けティモスさんを招き入れる。

「そろそろ聖女様の御披露目が始まるので、お迎えにあがりました。」

「分かったわ。」

ティモスさんには少し外で待ってもらって、カテリーナ様のドレスを整える。そして、2人とも自分で自分のお化粧直しをして、立ち上がる。

「では─ルディ、宜しくお願いしますね。」

「承知致しました。カテリーナ様。」


ー大丈夫。私は“ルディ”。誰も私には…気付かない。大丈夫ー

そう自分に言い聞かせながら、カテリーナ様と大広間に向かった。











ーふわぁ~本当に凄い世界だなぁー

今日、初めて夜会に参加したハル─改めルディです。キラキラし過ぎていて…目が痛いです。本当に凄いです。凄いとしか言えない…。

大広間に入った途端、カテリーナ様はレオン様に腰を抱き寄せられて連れ去られました。その後を私とティモスさんで追い掛けてます。

「いつもの事だから。」

と、ティモスさんがコッソリ私に耳打ちして来た。

本当に、レオン様はカテリーナ様が好きだよね。あれだけくっついているなら、ある意味カテリーナ様も安全だよね。

レオン様とカテリーナ様を、ティモスさんと私の2人で見守りながら、ティモスさんと軽く言葉を交わしていると、流れていた生演奏の音楽がピタリと鳴り止んだ。それと同時に、大広間が静まり返り、ピリリッと空気が張り詰めた。

「国王陛下、王妃陛下がご入場されます。」

宰相様の声に、玉座の奥にある大きな扉が開かれ、王様と王妃様が入場し、そのまま玉座に腰を下ろした。

王様も、宰相様も元気そうだ。

「今宵、ここに集まってくれた事を感謝する。前以て知らせてあった通り、新たな聖女様が。皆の者にも御披露目を兼ねて紹介したい。そして、祝ってもらいたい。」

王様がそう言うと、再び玉座の奥にある大きな扉が開かれ─


王太子様が、聖女様をエスコートしながら入場して来た。


ーあの子が…あの女の子が…新たな聖女様ー


黒い髪に黒い瞳。目にした瞬間判った。あの子は“日本人”だ。おそらく、私より若い。高校生位だろうか?あんなに若いのに…取り乱す事なく、この状況を受け入れてるなんて…凄いよね…。いや、お姉さん達もある意味凄かったけど。

「ルディ、大丈夫か?」

また、すぐ横に居たティモスさんに心配されてしまった。

「ふふっ。大丈夫ですよ。ティモスさんは、心配し過ぎですよ。でも…いつも、ありがとうございます。」

コッソリとティモスさんにお礼を言うと、ティモスさんも笑ってくれた。

そして、もう一度聖女様に視線を戻す。

名前はカオル=ミヤシタ。17歳。

ーまさかの“宮”繋がりー

あれ?だよね?大丈夫なのかなぁ?ダルシニアン様が居るなら…大丈夫なのかな?あの魔導師長も、流石に聖女様には手を出さない…よね?

目がクリッとして可愛らしい。お姉さん達とは違って、守ってあげたくなる雰囲気の子だ。ひょっとして…これこそが乙女ゲームの“ザ・ヒロイン”なんだろうか?ここにお姉さん達が居たら、きっと盛り上がっただろうな…と思うと、自然と笑ってしまった。

兎に角、新たな聖女が日本人だと言う事は判ったけど、知り合いではなかった。聞いていた通り、彼女が取り乱したり病んでいる様な事もなさそうだ。もし、取り乱したり辛そうなら…と、私も色々と考えてはいたけど…。そうではないのなら…これから先、私から彼女に関わる事はないだろう。

王太子様と聖女様の挨拶が終わると、2人が大広間の中央まで進み、音楽が流れ出すと、2人はダンスを踊り出した。







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