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第六章

地下室での目覚め

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 ぴちゃんっと顔に何かが落ちてくる――――――その滴が頬を伝って唇に到達し、その刺激で目が覚めてきた。


 ここは…………真っ暗だわ。

 私は確か、レジーナ嬢と屋敷の周りの植物について話していて…………庭園は屋敷の裏側だからと案内されて、イザベルと一緒にテーブルに案内された。


 まだそこには私達以外は誰もいなかった。


 招待状には誰が来るというのは書いていなかったけど、ブランカ嬢はいるはずなのに…………何かおかしいと思いながらも、出されたお茶を飲みながら待とうとしたはず。


 それから………………それからの記憶がない。


 恐らくお茶に何か入っていたのね。それでここまで運ばれてきてしまった、と推察した。

 せっかくこの小説の世界でのバッドエンドを回避する為に一生懸命生きてきたのに……やっぱりバッドエンドを迎える結末だったというの?


 私はやりきれない気持ちになりつつも、まずは自分がどういう状況なのか、ここはどんな場所なのかを探ってみようと考え直した。


 ひとまず口に猿ぐつわはされていない。腕は……後ろに縄で拘束されているわね。足には何もされていない。そして体もどこも痛くないわ…………眠らされてここに連れて来られて放置されているって感じかしら。


 そして少し暗闇に目が慣れてきたので、体を起こして周りを見てみる――――目は慣れてきたけどハッキリは見えないわね。

 何か壁に青白いものが少し光っているような…………


 「オリビア様…………」

 「イザベル?そこにいるの?」


 誰が聞いているか分からないので、出来る限り小声でイザベルの声に応えた。


 「も、申し訳ございません……私がついていながら、このような事態になってしまうなんて…………」

 「……イザベルは何も悪くないわよ。こんな事、誰も想像できないんだから。それにしてもここって…………凄く寒いわね……」


 今さら気付いた。ここはとても寒い…………今は初夏だけど子爵領は北に位置しているし、肌は出さないドレスを着てきたおかげであまり寒さを感じなくて済んでいる。夜会に着るような首元や腕が大きくあいたドレスなら凍えていたでしょうね。


 「オリビア様、私のドレスの右腰の部分に小さなナイフがあるのです。これを何とか取ってもらえませんか?暗いので難しいと思いますが……」

 「…………分かったわ」


 暗くて本当に何も見えない。でもイザベルは私の左側にいる事は気配と黒い物体で認識出来たので、足で存在を確かめながら近寄る……イザベルを確認すると右腰のナイフを目視で探した。


 「…………………………あ、この少し光っている物体かしら?」

 「そうだと思います。ドレスの模様に同化して見えるような作りなので」

 「ちょっと待ってて……………………」


 手が後ろで拘束されているのでイザベルに後ろを向くような形で、ナイフを手探りで探した。ドレスのモチーフなのかナイフなのか分からないわね……これかな?

 ナイフの柄のような部分を見つけて引き抜くと、刃の部分がキラリと光ったのだった。


 「これで合ってる?」

 「それです!ありがとうございます。手の拘束を解きたいので、私の手に乗せてください」

 「分かったわ」


 イザベルの手にそのナイフを乗せようとした時、遠くからカツン、カツンと足音が聞こえてきた。誰かがこの部屋にやってくる――――――素早くイザベルの手に乗せると入口の方に向き直った。


 ゆっくりと扉が開かれて入ってきたのは、火を点したキャンドルスタンドを持った小柄で頭の毛が薄くなっている中年の男性と、その後ろにはレジーナ嬢がいる。

 この2人がボゾン家の人間って事かしら。


 2人は自身の持っているキャンドルスタンドで、この部屋の壁かけキャンドルスタンドに火を点け始めた。それでもまだ薄暗い……そして、こちらに振り返るとゆっくりと近づいてきて、私とイザベルの前で立ち止まった。


 「お初にお目にかかります、かな?オリビア・クラレンス公爵令嬢……あなたのお父上とは顔見知りだが、あなたと言葉を交わしたのは初めてになりますな。イザベル嬢とは以前お会いした事がありますな。お久しぶりとでも言っておきましょうかな。ほっほっ」


 人を拘束しておいて悠長に話している姿に激しい嫌悪感を覚えるわね。まるで何も悪いと思っていないかのような……


 「お二人ともお目覚めでしたのね。ちょうど良かったですわ。これからあなた達を使って試したい事があったので」
 

 私たちを使って試す?人を物のように言いながら歪んだ笑みを浮かべるレジーナ嬢に、背筋に寒気が走る。この人達はどこか狂っている感じがする。


 「レジーナ様…………どうしてあなたがこのような事をなさるのです?王妃殿下のお気に入りの令嬢かと思っておりましたのに……」

 「…………そう、私は王妃殿下のお気に入り。あの馬鹿な女のお気に入りになりたくてなったわけじゃないけど、それなりに利用価値はありましたわね。王太子殿下のお姿を拝見するには学園か王宮に行かなくてはお目にかかれませんでしたから。一生懸命気に入られる為に頑張ったの」

 「レジーナ嬢、あなたの目的って…………」


 歪んだ笑みを浮かべたレジーナは、一歩一歩ゆっくりとこちらに近づき、私の頭部の髪の毛を鷲掴みにして顔を上に向かせ、その歪んだ笑みを私に見せつけるように近づけてきた。

 キャンドルスタンドの火を顔に近づけられ、彼女の恍惚とした表情がより一層はっきりと浮かび上がり、恐怖を際立たせる。

 
 「ずーっと、あなたが邪魔で仕方なかった。私から王子様を……全てを奪った盗人に裁きを与える時がきたわ」


 
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