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第六章 宿題への回答
第56話 仲間と共に支え合えば
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私はカリンの愚かな回答に声を荒げた。
なぜならば、彼女は自身にとって最も大事な物を捨てようとしたからだ。
私の声に驚き、心を止める彼女へそれを伝える。
「君には夢がある。多くの人々に忌み嫌われ続けた影の民である君には夢がある。居場所のない人々に居場所を作るという夢が。そしてそれは、自分の存在が許される場所を作ると言う意味でもある」
「そうだけど……」
「君は、その夢を、たかが一人の小娘のために捨てる気なのか!?」
「たかがってそんなひど――」
「いや、たかがだ! 君の御両親はリディの罪の犠牲にするために君を生かしたのか? 違うだろ!」
「そ、それは……」
「たとえ御両親の命が人間に奪われても、君は人間への復讐を選ばず、自分の居場所を求める夢を選んだ。その夢を捨てる気なのか?」
「そんな気はないよ!」
「ならば、軽々しく命を捨てるなどと言うな!!」
「――――っ!」
私は目を剥き出しにして彼女を睨みつける。
その瞳から逃れるようと、カリンは顔を背ける、
地面を見つめ続けるカリンへ、私は感情と言葉を抑えて、緩やかに語り掛ける。
「私は君の決断に物申す気はない。君の思想や考え方を変えようとも思わない。だが、夢を捨てようとする行為だけは看過できない。何故ならば、私は君が見る夢に協力しているからだ」
地面を見ていたカリンはちらりと私を見る。
私は黒色の前髪の隙間から見える青の瞳を見つめ、問う。我ながら甘い言葉を交え……。
「君は自分でこう言った。すでに自分の手は汚れていると……では、もう一度問う。断罪者が現れたらどうするつもりだ、カリン? リディを渡すのか? 自分が犠牲になるのか?」
この問いにカリンは右手の拳を固め、それを額まで持って行き、何度も叩く。
その動作を十ほど繰り返したところで、彼女は手を降ろし、大きく息を吐いた。
「はぁ~……渡さない。だけど、夢も捨てる気はない」
「ならば、断罪者はどうする?」
問いに、カリンは小さな笑いも見せる。
「ふふ、おじさんはなんだかんだで優しいよね。答えのヒントをくれるんだもん……わたしの手はすでに汚れている。なら、リディの罪を背負うためにさらに汚れても構わない。わたしは自分の夢のために、心と体を汚してでも、断罪者を説得し、通じなければ――斬る!」
「それは随分と身勝手な話だ」
「そうだね。でも身勝手じゃないと、わたしの夢は叶わない」
「その身勝手を少しでも軽くするために、自分の罪だけを背負うという選択肢はないのか?」
「ない。だって、それがわたしだもん」
「そうか、難儀な性分だな、君は。だが、この調子で他人の罪まで背負っていけば、いずれは重みに潰されるぞ」
「それは……なんとか、頑張る」
「根性か……そこに明確な意思が宿り、君なりの答えを返すことができれば一人前なんだが……」
「悪かったね、半人前で!」
そう、カリンが言葉を飛ばすと、ツキフネの言葉が輪に加わる。
「半人前で構わないだろう。一人で半人前ならば、私が残りの半人となり、カリンを支えよう。私もまた己の背に罪を背負う身だが、それでも一人で抱えるよりも、心と頭の世界は広がるだろう」
彼女にラフィと貫太郎が続く。
「わたくしは貴族の責務を放棄するという半端な人間です。それでも、お邪魔じゃなければカリンさんの心に感銘を受けた一人として、あなたを支えたい」
「も~、ぶもも! もも!! ぶもももも、も~!」
「ツキフネさん、ラフィ、貫太郎ちゃん。ありがとう」
カリンは三人へ礼を述べて、地面にうずくまるリディへ顔を向けた。
リディはいまだ涙を流しており、自分が掻き毟った地面に涙を落とす。
地面に沁み入る涙を見て、カリンが声をかけようとした。
しかし、リディが彼女の声を遮る。
「リディ――」
「カリンさん……わたし、あの」
「どうしたの?」
リディは地面から立ち上がり、オレンジのワンピースの袖で涙を何度も拭き、真っ赤に腫れた瞳をカリンへ向けた。
「私は、あなたを利用しようとしていた。それなのに、私はあなたに親しみを覚え寄りかかろうとした。そんな資格なんてないのに……でも、私はカリンさんの傍に居たい。そのためにはなんだってする!」
「駄目よリディ。そんな思いを抱いては駄目。それこそがあなたの道を昏く染める」
「それじゃあ、どうすれば!? 何をすれば、私はあなたの傍に居ていいんですか!? 居ていい資格が生まれるんですか!?」
「たぶん、それはあなた自身が答えを出すこと。私と共に居たいと思いつつも傍にいることに痛みを覚えるならば、それがあなたの罪に与えられた罰。その罰と向き合って。心が砕けそうになったら私が……いえ、私たちがあなたを支えてあげる。だから、あなたも私たちを支えてくれるかな?」
カリンが両手を広げる。
それを、貫太郎、ツキフネ、ラフィが見守る。
リディは足を前へ出すことに躊躇いを覚える。
だが、躊躇いとは裏腹に、足は地面に線を描くように引きずられ前へと出る。
そして――リディはカリンの胸に頭をトンと置いた。
それをカリンが抱きしめる。
胸の中で嗚咽を漏らし続けるリディの頭を撫でながら、彼女は優しく語り掛ける。
「苦しいよね。わたしも自分の罪に何度も自問自答した。それをリディみたいな小さな女の子が抱えてしまったんだもの。だけど、あなたがその苦しみと向き合えるようになるまで、私たちが支えてあげるからね」
彼女は何度もリディの頭を撫でて、私へ顔を向ける。
「おじさん、これが今の私の答え。これは明確な答えじゃない。でも、背負う罪がどんなに重たくても、みんなで支え、相談し、言葉を交わし合えば、きっと乗り越えられる」
「ふむ、なるほど。私では絶対に選ばない答えだな。互いに傷口を舐め合う答えなど」
「言い方! これはみんなでみんなを支え合ってるの!」
「人間族とは違い、進んだ種族でありながら影の民とは実に人間族らしい半端な考え方をする。しかしだ、考え方だけではなく、そこに実を伴おうとしているので問題ないとするか」
「相変わらずの人を試すような上から目線……おじさんだったら、いや、やっぱいいや。どうせ、くだらないことの一言で切って捨てそうだし」
「ふふ、よくわかったな。成長しているようだ」
「今のは皮肉だよ! 皮肉ついでに、おじさんの罪も背負ってあげようか?」
「やめておけ。私の背に乗っている物は君たちのソレを合わせた数千倍以上だ。もっとも、背負う気など全くないが」
「私って、こんな大罪人に説教されてるの。嫌だなぁ」
「説教ではない。夢を掴み取るためのアドバイスだ。それを受けて、どう考えるか君の勝手、フッ」
「おじさんの回答の方がよっぽど屑の回答だよ……まったく、もう~」
先ほどの剣呑な雰囲気は消え去り、私とカリンは互いに他愛のない掛け合いを行う。
しかしそこに、神妙な面持ちを見せるツキフネが私へ問い掛けてきた。
「お前の背負う罪の一端、彼女たちにも話してみては?」
「罪の一端? ああ、あのことか? 必要ないだろう」
「必要ないと感じるのは、お前に宿る王としての思考のせいだろう。だが、私たちは違う。何かの拍子にあの事件を知り、心の準備もなく突きつけられれば、カリンたちは迷い、あらぬ誤解を生む。だから、話すべきだ」
彼女の言葉を聞き、私は納得の声を上げる。
「たしかに、君の言うとおりかもしれん。だが、これは明確な証拠もない話。もはや、私だけが勝手に語っているものだぞ」
「それでもだ。お前は、ただ語れ。それをどう受け取り、どのように消化するかは私たちだ」
「そうか……たしかにその通りだ。真実がなんであるかはさておき、不意にこの話をすれば混乱が起きる可能性もある。わかった、話そう」
私たちのやり取りに、ラフィが訝し気な表情を見せる。
「お二人は一体、何をお話に?」
「人間族には教会を通じてよく伝わっているだろう。魔王アルラ=アル=スハイルの暴虐――ファリサイの虐殺事件のことが……」
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私は黒色の前髪の隙間から見える青の瞳を見つめ、問う。我ながら甘い言葉を交え……。
「君は自分でこう言った。すでに自分の手は汚れていると……では、もう一度問う。断罪者が現れたらどうするつもりだ、カリン? リディを渡すのか? 自分が犠牲になるのか?」
この問いにカリンは右手の拳を固め、それを額まで持って行き、何度も叩く。
その動作を十ほど繰り返したところで、彼女は手を降ろし、大きく息を吐いた。
「はぁ~……渡さない。だけど、夢も捨てる気はない」
「ならば、断罪者はどうする?」
問いに、カリンは小さな笑いも見せる。
「ふふ、おじさんはなんだかんだで優しいよね。答えのヒントをくれるんだもん……わたしの手はすでに汚れている。なら、リディの罪を背負うためにさらに汚れても構わない。わたしは自分の夢のために、心と体を汚してでも、断罪者を説得し、通じなければ――斬る!」
「それは随分と身勝手な話だ」
「そうだね。でも身勝手じゃないと、わたしの夢は叶わない」
「その身勝手を少しでも軽くするために、自分の罪だけを背負うという選択肢はないのか?」
「ない。だって、それがわたしだもん」
「そうか、難儀な性分だな、君は。だが、この調子で他人の罪まで背負っていけば、いずれは重みに潰されるぞ」
「それは……なんとか、頑張る」
「根性か……そこに明確な意思が宿り、君なりの答えを返すことができれば一人前なんだが……」
「悪かったね、半人前で!」
そう、カリンが言葉を飛ばすと、ツキフネの言葉が輪に加わる。
「半人前で構わないだろう。一人で半人前ならば、私が残りの半人となり、カリンを支えよう。私もまた己の背に罪を背負う身だが、それでも一人で抱えるよりも、心と頭の世界は広がるだろう」
彼女にラフィと貫太郎が続く。
「わたくしは貴族の責務を放棄するという半端な人間です。それでも、お邪魔じゃなければカリンさんの心に感銘を受けた一人として、あなたを支えたい」
「も~、ぶもも! もも!! ぶもももも、も~!」
「ツキフネさん、ラフィ、貫太郎ちゃん。ありがとう」
カリンは三人へ礼を述べて、地面にうずくまるリディへ顔を向けた。
リディはいまだ涙を流しており、自分が掻き毟った地面に涙を落とす。
地面に沁み入る涙を見て、カリンが声をかけようとした。
しかし、リディが彼女の声を遮る。
「リディ――」
「カリンさん……わたし、あの」
「どうしたの?」
リディは地面から立ち上がり、オレンジのワンピースの袖で涙を何度も拭き、真っ赤に腫れた瞳をカリンへ向けた。
「私は、あなたを利用しようとしていた。それなのに、私はあなたに親しみを覚え寄りかかろうとした。そんな資格なんてないのに……でも、私はカリンさんの傍に居たい。そのためにはなんだってする!」
「駄目よリディ。そんな思いを抱いては駄目。それこそがあなたの道を昏く染める」
「それじゃあ、どうすれば!? 何をすれば、私はあなたの傍に居ていいんですか!? 居ていい資格が生まれるんですか!?」
「たぶん、それはあなた自身が答えを出すこと。私と共に居たいと思いつつも傍にいることに痛みを覚えるならば、それがあなたの罪に与えられた罰。その罰と向き合って。心が砕けそうになったら私が……いえ、私たちがあなたを支えてあげる。だから、あなたも私たちを支えてくれるかな?」
カリンが両手を広げる。
それを、貫太郎、ツキフネ、ラフィが見守る。
リディは足を前へ出すことに躊躇いを覚える。
だが、躊躇いとは裏腹に、足は地面に線を描くように引きずられ前へと出る。
そして――リディはカリンの胸に頭をトンと置いた。
それをカリンが抱きしめる。
胸の中で嗚咽を漏らし続けるリディの頭を撫でながら、彼女は優しく語り掛ける。
「苦しいよね。わたしも自分の罪に何度も自問自答した。それをリディみたいな小さな女の子が抱えてしまったんだもの。だけど、あなたがその苦しみと向き合えるようになるまで、私たちが支えてあげるからね」
彼女は何度もリディの頭を撫でて、私へ顔を向ける。
「おじさん、これが今の私の答え。これは明確な答えじゃない。でも、背負う罪がどんなに重たくても、みんなで支え、相談し、言葉を交わし合えば、きっと乗り越えられる」
「ふむ、なるほど。私では絶対に選ばない答えだな。互いに傷口を舐め合う答えなど」
「言い方! これはみんなでみんなを支え合ってるの!」
「人間族とは違い、進んだ種族でありながら影の民とは実に人間族らしい半端な考え方をする。しかしだ、考え方だけではなく、そこに実を伴おうとしているので問題ないとするか」
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「私って、こんな大罪人に説教されてるの。嫌だなぁ」
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しかしそこに、神妙な面持ちを見せるツキフネが私へ問い掛けてきた。
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「必要ないと感じるのは、お前に宿る王としての思考のせいだろう。だが、私たちは違う。何かの拍子にあの事件を知り、心の準備もなく突きつけられれば、カリンたちは迷い、あらぬ誤解を生む。だから、話すべきだ」
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「それでもだ。お前は、ただ語れ。それをどう受け取り、どのように消化するかは私たちだ」
「そうか……たしかにその通りだ。真実がなんであるかはさておき、不意にこの話をすれば混乱が起きる可能性もある。わかった、話そう」
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