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47.休息日③
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カイル様に誘われ、二人で騎乗して目的地へと向かう。
金髪じゃないから、不思議な感じがする。何時もより柔らかい表情なので、カイル様も緊張の日々から解放されたのかも知れない。
歴代の勇者パーティで、無事だった者達は少ない。仲間を失ったり、体の一部が欠損したり……心を壊してしまう方もいたみたいだ。
カイル様のお兄様は、とても優秀な方だ。伯爵様と同じく領民にも人気がある。
そんなお兄様を支えるべく、ずっと努力をして来たのだ。勇者になんてならずに済んだのなら、どんなに良かっただろう。皆と一緒にあの場所で過ごせたら。
「シェリル……どうした?」
「大した事ではありません。昔を思い出したので」
「昔? 伯爵邸に引き取られた頃の事か? それともその前?」
「伯爵邸の皆元気かなって。引き取られる前の事は、大分忘れました。母の顔も、師匠の顔も……ボヤけてきています」
「父親の事は聞いた事がないが……」
「父親は、全く分かりません。瞳の色が多分同じと言う事くらいです。濁流にのみ込まれて命を落としている、その可能性の方が高いです」
「そうか」
前に座っているので、あまり振り返るのも出来ずカイル様の表情は分からない。
それでも、心配してくれている。それが伝わって来た。
「カイル様……大丈夫ですよ。顔も知らない父親の事など気にしなくても。伯爵邸で過ごした方がもう長いのです。マーティス様やたくさんの方に支えてもらいました」
伯爵家に来れたのも、カイル様のおかげだった。本当に討伐メンバーの魔法師に選ばれたのなら、最後まで一緒にいて役に立ちたい。盾位にはなれるかもしれない。
気がかりは一つだけ。
クロの事……どうしたらいいのだろう?北の魔族領にクロを連れて行くより、置いて行けないだろうか? 巻き込まれないように隠れてて欲しい。他の人には魔物でも、僕の事を誰よりも大切にしてくれるんだ。あの子を失ったらと思うと怖いのだ。
キュッと引き寄せられると、我に返って思わず後ろを返り見た。
「シェリル。俺は、お前が生きてて良かったと思っている」
「それは、天災の時に生き残った事ですか?」
「そうだ。辛かっただろう? 母親を失い。濁流により壊滅的に住んでいた場所が無くなったんだ。大勢の領民も亡くなった。知り合いも失った。そんな心細かったシェリルの支えが、魔法だったのに。俺は、兄にも届かず、シェリルにも置いていかれたと思ったんだ。ずっと、後悔をしている」
「そんな事……僕が、師匠の形見を自慢気に見せてしまって」
馬の速度が落ちて。ゆっくりと、停止した。
背中から抱き締められている。
「ごめん。くだらない、情けない。こんな奴が勇者だなんて」
ポタ……ポタ……と肩の所が少し濡れ落ちるのは、カイル様の涙みたいだ。
「そんな、そんな事無いです。カイル様は誰よりも頑張ってました。だからこそ、勇者の願い石が反応したんです」
ずっと、お兄様の存在を追いかけていた。歳が離れている。その時間は大きい。だからこそ、早く追い付こうと頑張って来たのだ。
「カイル様は、きっと歴代最高の勇者になりますよ」
「ありがとう。シェリル……好きだ」
「ありがとうございます。カイル様にそう言ってもらえると嬉しいです」
「──ふは」
しばらく間が空いてカイル様が少し吹き出した。そして小刻みに震えながら笑い始めた。どうしたんだろう?
「ああ、ごめん。うん、シェリルらしいな。これからは、言葉でたくさん伝えるよ。信じて貰えるように」
「えっ、あの。はい」
「よし、邪魔が居ないうちに、羽を伸ばしに行こう」
吹っ切れたような、肩の力が抜けてずっと優しく笑っている。重責を担う方なのだ。今日の休息日は、いい思い出にしたい。
そして、湖を目指したのだ。
金髪じゃないから、不思議な感じがする。何時もより柔らかい表情なので、カイル様も緊張の日々から解放されたのかも知れない。
歴代の勇者パーティで、無事だった者達は少ない。仲間を失ったり、体の一部が欠損したり……心を壊してしまう方もいたみたいだ。
カイル様のお兄様は、とても優秀な方だ。伯爵様と同じく領民にも人気がある。
そんなお兄様を支えるべく、ずっと努力をして来たのだ。勇者になんてならずに済んだのなら、どんなに良かっただろう。皆と一緒にあの場所で過ごせたら。
「シェリル……どうした?」
「大した事ではありません。昔を思い出したので」
「昔? 伯爵邸に引き取られた頃の事か? それともその前?」
「伯爵邸の皆元気かなって。引き取られる前の事は、大分忘れました。母の顔も、師匠の顔も……ボヤけてきています」
「父親の事は聞いた事がないが……」
「父親は、全く分かりません。瞳の色が多分同じと言う事くらいです。濁流にのみ込まれて命を落としている、その可能性の方が高いです」
「そうか」
前に座っているので、あまり振り返るのも出来ずカイル様の表情は分からない。
それでも、心配してくれている。それが伝わって来た。
「カイル様……大丈夫ですよ。顔も知らない父親の事など気にしなくても。伯爵邸で過ごした方がもう長いのです。マーティス様やたくさんの方に支えてもらいました」
伯爵家に来れたのも、カイル様のおかげだった。本当に討伐メンバーの魔法師に選ばれたのなら、最後まで一緒にいて役に立ちたい。盾位にはなれるかもしれない。
気がかりは一つだけ。
クロの事……どうしたらいいのだろう?北の魔族領にクロを連れて行くより、置いて行けないだろうか? 巻き込まれないように隠れてて欲しい。他の人には魔物でも、僕の事を誰よりも大切にしてくれるんだ。あの子を失ったらと思うと怖いのだ。
キュッと引き寄せられると、我に返って思わず後ろを返り見た。
「シェリル。俺は、お前が生きてて良かったと思っている」
「それは、天災の時に生き残った事ですか?」
「そうだ。辛かっただろう? 母親を失い。濁流により壊滅的に住んでいた場所が無くなったんだ。大勢の領民も亡くなった。知り合いも失った。そんな心細かったシェリルの支えが、魔法だったのに。俺は、兄にも届かず、シェリルにも置いていかれたと思ったんだ。ずっと、後悔をしている」
「そんな事……僕が、師匠の形見を自慢気に見せてしまって」
馬の速度が落ちて。ゆっくりと、停止した。
背中から抱き締められている。
「ごめん。くだらない、情けない。こんな奴が勇者だなんて」
ポタ……ポタ……と肩の所が少し濡れ落ちるのは、カイル様の涙みたいだ。
「そんな、そんな事無いです。カイル様は誰よりも頑張ってました。だからこそ、勇者の願い石が反応したんです」
ずっと、お兄様の存在を追いかけていた。歳が離れている。その時間は大きい。だからこそ、早く追い付こうと頑張って来たのだ。
「カイル様は、きっと歴代最高の勇者になりますよ」
「ありがとう。シェリル……好きだ」
「ありがとうございます。カイル様にそう言ってもらえると嬉しいです」
「──ふは」
しばらく間が空いてカイル様が少し吹き出した。そして小刻みに震えながら笑い始めた。どうしたんだろう?
「ああ、ごめん。うん、シェリルらしいな。これからは、言葉でたくさん伝えるよ。信じて貰えるように」
「えっ、あの。はい」
「よし、邪魔が居ないうちに、羽を伸ばしに行こう」
吹っ切れたような、肩の力が抜けてずっと優しく笑っている。重責を担う方なのだ。今日の休息日は、いい思い出にしたい。
そして、湖を目指したのだ。
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