美形魔王の弱点は、僕。

Shizukuru

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48.湖にて

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 目の前には、初めて見る光景があった。
 すごい。
「これは、綺麗だな」
「はい。こんなに……すごい」

 目の前に広がる水鏡のような水面に山と木々が映りこんでいる。逆さまに対を成す光景が、現実とは思えない。ただただ見とれてしまう。
 数羽バサバサと、鳥が降りて水面がさざめいた。見た事もない真っ白い鳥が水面を移動する。そのせいで水が揺らぎ映りこんだ景色を揺らす。

「綺麗ですね」
「シェリル、せっかくなら馬から降りてもう少し近づこうか?」

「いや、でも……あまりのんびりしてたら。帰りが遅くなります」
「来たばかりだよ。それに、今日はここの宿に泊まる。夕方からお祭りがあるって聞いたんだ」

「えっ? 泊まりなんですか?お金……大して持ってません。どうしたら。あ、僕だけ馬小屋でも」
「なんで、俺だけ部屋に行かせようとするんだ。俺が誘ったんだ。宿は同じ所だよ。事前に頼んだから心配しなくていい」

 そんなに甘えてもいいのだろうか?

「ですが」
「湖もだが、ランタン祭りがあるんだ」

「ランタン?」
「防炎魔法を施した白色の袋に、炎玉を灯して空に飛ばす。上空に風船のように浮くそうだ。それは、幻想的で美しいと聞いた」

 幻想的なんだ、見てみたい。炎って危なくないのかな?

「火事にはならないのですか?」
「ああ。一定時間上空に浮かび、炎玉が消えた後、湖に落ちて綺麗に消失する魔法がかかっている。だから火事にもならないし湖も汚れない」

「そうなんですね!でも、早く帰らなくていいのですか?」
「この先、ほとんど観光なんて出来ないと思う。時間は有限で無事に辿り着くのか分からない……なら俺も楽しみたいんだ。もちろん、今後も可能な限りメンバーにも自由な時間をやりたい」

「カイル様も楽しみなんですね?」
「当たり前だろ。せっかくの休息日なんだ。皆も羽を伸ばしてるはずだ。シェリルにも楽しんで欲しい」
 そう言って頭を撫でられる。

「僕だけ、連れてきて貰って良かったんでしょうか?」
 背中越しに、笑っているのが分かった。
 思わず後ろを振り返ると、嬉しそうなカイル様がいた。

「ここに、連れてってやれって言ったのはキースだ。散々、酷い扱いしたんだろって言われた……ちゃんと謝って来いってね。キースも謝って来たんだろ?」

「あれは僕が、連携の邪魔になったから。それに幻影兎ラビィアを助けたくて。人を優先すべきですよね」

 クロは特別だけど、従者としてそばにいる間はカイル様を優先すると伝えている。
 もし──魔物だとバレたら?どちらかと離れないといけないのかな。

 「黒兎は、シェリルの特別なんだろ?アイツが人を襲わない限りは、皆何も言わないさ。現に今は、助けられたりしてるからな」

「そう……ですね」
 どうしょう。大丈夫かな?ちょっとドキドキしてる。クロにお願いしないとまずいかも。

「シェリル? まあ、不安だよな。一応魔獣だし。しっかり躾るんだぞ?」
「は……はい」

「少し散歩をして、宿に行こうか。夜には屋台もあるらしいから。シェリル、楽しもうな」
 また、頭を撫でられる。
 本当に、許して貰えたのかな? こうして昔みたいに笑えるのなら、嬉しい。

 ちょっと、ランタン祭りが楽しみになってきた。




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