【本編完結】 美形魔王の弱点は、僕。

Shizukuru

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49.ランタン祭り

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「二部屋、頼んでいたはずだが……」
 カイル様は、魔鳥まちょうを飛ばして、部屋を確保していたらしい。

「すみません。ランタン祭りで部屋が取れずに困ってたので……そのご友人同士みたいですから、同じ部屋ですみません。ベッドは大きいんで二人で寝ても大丈夫だと……」

 勇者とはもちろん名乗らず、伯爵子息だという事も隠し冒険者として予約を入れた為に……一番動かしやすかったみたいだ。

 流石に野宿はしたくなかった。部屋は二人でも広さ的に問題は無い。
「カイル様、僕は床で」
「駄目だ」

 間髪入れずに、ダメだしをもらった。
「でも、ベッドは一つですから、カイル様が使ってください」
 ソファがあるような、部屋でもない。もともと従者だから全然平気だ。ダンジョンでも慣れている。

「俺が、床に寝る」
「それこそ駄目です!」

「なら、ベッドは割と大きいし……今日は一緒に寝よう」
「そんなの、駄目です」
 従者が、主人と同じベッドなんて駄目だ。

「納得しないなら、俺も床だ」
 こうなると、絶対に曲げない人だから……
「───分かりました」
 今日だけなら、思い出として許されるのかな。

「とにかく、祭りが始まる。急ごう」
「は、はい」

「シェリル、それとランタンやってみるか?」
「そんな事が出来るのですか?」
「ああ。行こうシェリル」
     
 手を繋がれて、部屋を出る。祭りなら昔、お母さんと行った記憶が少しだけあった。賑やかで、音楽に合わせて踊ったり美味しいものを食べたりそんな記憶だ。

 宿を出ると、人が昼間より増えている。
「あの、もうそろそろ、手を繋ぐのは……」
「これからもっと人が増える。はぐれない様にこのままでいよう」
  確かに人が多い。はぐれたら宿に戻るしか合流出来ないかもしれない。それに、なんだかカイル様が楽しそうなのだ。

 (たまには、いいのかな?でも、一応確認しておこう)

「カイル様」
「どうした?」

「僕は、いつも失敗ばかりなので……本当に手を繋いでいて失礼ではありませんか? また、勘違いして嫌な思いをさせていませんか?」

 怖いのだ。知らずに人を傷付けてしまう事が。

「大丈夫。俺が、はぐれたくなくて手を握っていたいんだ。全部俺の我儘だ。シェリル、はぐれて探す時間がもったいないと思わないか?」

「そう、ですね。ランタンを一緒に見るためでしたね。では、今日だけお願いします」

「でもその前に少し食べよう」
 確かにいい匂いがしている。
「美味しそうな匂いがします」
 キュルルル……と匂いに反応してお腹がなった。
「すみません。お腹が空いてるみたいで」
「よし、肉を食べに行こう」
 また、手を繋いだまま移動する。

 笑って、食べて……魔法の話に花が咲く。
 たくさん笑っていると、女の子達が周りに増えてきた。

 ああ、そうか……髪色を染めても、カイル様の顔立ちはそのままだ。仕草なんて……洗練されているから粗野な部分がない。王子さまの様にきっと見えるだろう。視線がカイル様に集まって行く。

「あの。もし良かったら一緒に……」
 この中で見目が一番良さそうな娘が声をかけてきた。

「悪いが先約がある。シェリルそろそろ、ランタンの袋を貰いに行こう」
 また手を繋がれてしまう。
 そうだ!虫除けしないと。でも女の子を泣かせたくない。
「二人だけの約束なので」
 優しく微笑んで見た。
 何故か皆黙ってしまい、カイル様だけ顔が赤い。
「そうだ。二人だけの約束だ。行こう」
 少し、引っ張られながら移動する。

    そして、ランタン用の袋に炎玉を取り付けてカウントダウンが始まった。

 一斉に手を離す。オレンジの光が一気に空へと舞い上がり始める。

「すごい。綺麗」
 水面にも、ランタンの光が映る。
「一緒に見れて良かった」
「本当に」
 幸せな時間に包まれて、その光景を焼き付ける事にしたのだ。





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