76 / 82
76
しおりを挟む「シオン……!その花を摘んだ場所に騎士を数名連れて出るぞ!状況の確認次第、陛下に魔獣の討伐依頼を出す!」
「か、かしこまりました貴族様……っ!」
フレディの慌て様から、何か大変な事が起こっているのだろうと察したシオンは了承の言葉を返して、急いで騎士達にフレディの言葉を伝えるために部屋から退出する。
フレディも直ぐに邸を出る準備をしていた。
(貴族様に場所を案内するっ、て事?だよな?俺も騎士の人達に伝え終わったら外に行く準備をさなくちゃ……!)
あわあわとしながらシオンが部屋の外に飛び出すと、廊下をフィミリアが歩いていた。
「シオン、さん……?そんなに慌てて、何かあったのですか?」
「あっ、フィミリア様……。その……っ」
話しても大丈夫だろうか──。
フレディから、フィミリアはとても辛い思いをしたと言う事を聞いている。
その辛い事で男性に恐怖を抱くようになってしまった、と言う事も。
だからこそシオンはフィミリアから一定距離を保つためにそっと自分の足を後退させる。
フィミリアはやっと顔を見て話してくれるようになったのだ。
少しだけだけど、笑ってくれるようにもなった。
(それなのに、俺が魔獣の事を話してまた怖い思いをしたら……せっかく笑ってくれるようになったのに。貴族様もきっと悲しむ……っ)
シオンがおろおろとどうしよう、どうしよう、と考えている内にフィミリアはシオンの様子で「何かがあったのだろう」と察した。
「シオンさん。大変な事が起きているみたいですね……お父様から何か指示を受けたのではないですか?私の事は気にせず行って下さい」
「──っ、あ、ありがとうございます、フィミリア様っ。後で貴族様からご説明があると思いますっ」
廊下の端に避け、場所を譲ってくれるフィミリアにシオンはぺこりと頭を下げてお礼を伝え、なるべく廊下の端を駆けてフィミリアの横を通り過ぎる。
きっとフレディが自分の家族に伝えてくれるだろう、と考えたシオンはそのまま騎士達の下に向かった。
「──……何か、大変な事が……?」
走り去って行くシオンの背中を見たフィミリアは、父親であるフレディの部屋に視線を向ける。
フィミリアは邸の花瓶に生けてある花を交換しようと廊下を歩いていたのだが、一先ず抱えていた花を花瓶に入れて自らは父親の下に向かった。
ぱたぱたと急ぎ足で部屋の前にやって来たフィミリアは室内の慌ただしい様子を感じ取り、躊躇する。
「どうしましょう……。シオンさんがあんなに急いでいたのだし……お父様もお忙しいのは当然よね……。出直して──」
「フィミリアか!?」
フィミリアの呟きが室内にいるフレディに聞こえたのだろうか。
フレディの声が聞こえたと思った瞬間、フィミリアの目の前の扉が勢い良く開く。
「お父様……!」
「ああ、良かった、伝えに行こうとしていたのだが、助かった……!今から私は少しの間邸を離れるから、絶対に邸から出ないように……!ラティシアにも伝えておいてくれ!」
「か、かしこまりましたお父様……。そのご様子ですと、まさか魔獣が……?」
「ああ。まだ不確定ではあるが──いや、恐らく発生している。私はその現場をシオンと共に確認して来る。サーシャを残して行くから邸内からは一歩も出ないように」
「かしこまりました」
こくり、と頷くフィミリアを見てフレディは安心したように表情を和らげ、フィミリアの頭を優しく撫でてやる。
外出の支度を終えたフレディは上着の襟を直しながら室内にいる執事のディアートに顔を向けた。
「……ディアート、その手紙を急ぎ陛下に」
「かしこまりました、旦那様」
「フィミリア、それじゃあ出てくるから」
「はい、お父様。お気を付けて」
フィミリアに声を掛けられたフレディは微笑んだ後、廊下を足早に過ぎ去ったのだった。
◇◆◇
玄関前に待機していたシオンと護衛騎士数人と合流したフレディは、馬に跨り邸を立った。
その様子を二階の窓から見ていたフィミリアは、ゆったりとお茶を楽しむラティシアに向き直り、ソファに座った。
「……フィミリア達がこの領地にやって来た時もはぐれの魔獣が出たわね……」
ラティシアはカップを下ろし、テーブルに戻す。
ぽつり、と呟かれた言葉はフィミリアや同じ室内に居るサーシャに話し掛けていると言う様子では無く、言葉に出して整理しているような様子だ。
「あの時にはぐれが発生したと言うのに、再び魔獣が発生したと言うの……?以前より魔獣の発生が増えて来ているのかしら……」
ぽつりぽつりと考えを纏めるようにしてラティシアが言葉を紡ぐ姿を黙って見詰めていたフィミリアは、ラティシアの言葉に膝に置いていた自分の手のひらをぎゅっと握る。
(確かに……お母様の仰る通りだわ……。王都に暮らしている時は魔獣の発生を時たま聞くくらいだったのに……。間隔を開けず魔獣が発生してしまっていたら、いくら聖女様が魔素を浄化出来ると言っても追いつかない……)
騎士達が大勢いれば、魔獣を討伐する事は出来る。
だが、魔獣を討伐した後に発生する魔素を浄化する事までは出来ないのだ。
魔素を放置してしまえば、その土地は死地となり、草木も生えず土も死んでしまう。
そして一番厄介なのは死地は新たな魔獣を呼び寄せる。
もし、魔獣の発生が増えていて、死地が国内に沢山生まれてしまえば。
(国が大変な事になってしまうわ……)
フィミリアは嫌な想像を振り払うようにぶんぶんと頭を横に振った。
応援ありがとうございます!
3
お気に入りに追加
5,477
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる