気付くのが遅すぎた

高瀬船

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◇◆◇

──場所は変わって、アレンドール国・王都。

王都は今、かつてない程に混乱していた。
フィミリア達のいる子爵領で魔獣の痕跡が発見されたその時期よりも早く、王都近郊では多数の魔獣が目撃されていたのだ。

子爵領から戻ったサミエルと聖女一行は、ほんの少しの期間だけ王都でのんびりする時間はあったが、魔獣の姿を近郊で確認したと言う報せが入りすぐに討伐のためにその場所に向かった。
そうして魔獣を討伐し、聖女が魔素を浄化して王都に戻るとすぐさま他の場所で魔獣発生の報告が上がり、そしてまたその場所に赴き討伐、浄化の繰り返しを行っていた──。

「……っ、一体何が起きているんだ……っ」

第二師団の誰かが叫び、そしてすぐにまた誰かの叫び声や怒号が響き渡る。

今はまだ王都内に魔獣の侵入を許してはいないが、増え続ける魔獣の襲撃を考えると王都内への侵入も時間の問題だろう、とは騎士団に所属する騎士の誰もが察していた。
至る所で魔獣が発生し、討伐をしても魔素を浄化出来るのは聖女ただ一人のみ。
浄化が遅れてしまえばその場所は死地となってしまい、他の魔獣を呼び寄せてしまう。

そんな時、対応に苦戦していた国王は苦肉の策──愚策を思い付く。



聖女と共に、その日も魔獣の討伐と浄化のために王都からほど近い森で戦闘を行っていたサミエル第二師団の下に国王からの伝令が届いた。

「団長……!陛下が聖女様と急ぎ城に来るようにと仰せです……!」

魔獣を討伐し、聖女が魔素を浄化し、正に一段落付いたその時に第二師団の騎士が慌てた様子でサミエルの下に駆けて来た。

「──陛下が?こんな時に一体何事だ……!?まだ周辺の確認も終えていない。直ぐには向かう事が出来ないとお伝えしろ……!」
「で、ですが……っ至急城に、と……!」
「……くそっ」

状況が分かっていないのだろうか、とサミエルは悪態をつきたくなってしまう。
周囲の確認を終えて、他に魔獣がいない事を確認してからでないと聖女をその場から離れさす事は得策では無い。
もし他に魔獣が居たら、魔素が浄化出来なくなってしまうではないか、とサミエルは苛立ちながら聖女に向き直った。

「聖女様……!国王陛下が至急戻るように、と仰せです……!我々は先に城に向かいましょう」
「分かりました!」

サミエルの言葉に聖女はこくりと頷き、馬に飛び乗ったサミエルから手を差し出され、馬上に引き上げられる。
サミエルは国王からの伝令を伝えに来た騎士に視線を向けて口を開いた。

「一旦私たちは城に戻るが、何かあれぱすぐに呼び戻してくれ……!」
「承知しました、団長!」

騎士の返事を聞き、サミエルはすぐに馬を走らせ城に急ぐ。
王都からほど近いこの場所からなら馬を駆けさせればすぐに城に到着する。

聖女は振り落とされまい、とサミエルに必死にしがみついた。





馬を駆け城に到着したサミエルと聖女はすぐに謁見の間に通された。

玉座に座る国王の前にやって来たサミエルは、片膝を付き頭を垂れる。
聖女もサミエルと同じように膝を付き、国王の前に控えている。

「──よい、表を上げよ」
「……はっ」

どこか憔悴しきった国王の声にサミエルが顔を上げると、国王は顔色も悪く見るからに具合が悪そうだ。

サミエルは思わずどこかお体の調子が悪いのだろうか、と考えてしまう。
そしてサミエルがそんな事を考えていると、国王が酷くゆったりとした動きで重そうに腕を上げ、聖女を指した。

「聖女よ……魔獣の浄化……ご苦労。異常発生により、そなたへの負担も計り知れぬものとなっておろう……」
「聖女として、この国に住まう人達の生活を守る事は当然です!」

キラキラとした瞳で国王に返答する聖女を、玉座に座る国王の隣で王太子であるウィリアムはどこか冷めた視線で、忌々しそうに見詰めている。

何故そんな表情を浮かべているのだろうか、とサミエルが不思議に思っていると、国王が信じられない解決策を口にした。


「うむ。この国のため、国民のために働いてくれるそなたは尊い存在だ。……だが、このままでは魔獣の浄化が間に合わず、魔獣が増え続ければ聖女の身にまで危険が及ぶやもしれん。そこで、聖女には急ぎ王太子であるウィリアムと聖女の力を宿した子を作ってもらう。これは王命である。拒否権は無いと心得よ」
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