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騎士団御用達の商人は王都にいるらしく、時間停止が効くのならゆっくり王都へ向かいそこで売却した方が高く売れると言う。


「二週間後、我々は王都へ戻る。その際一緒に来て貰えないだろうか……?」

「その商会へ一緒に行けばいいのですね、分かりました。」

「助かる。」


どうやらまたレイヴィスたち騎士団の仕事を横取りしてしまったみたいで、本来ならフラワードラゴンを討伐後、簡単に切り分けてからマジックバックや空間収納持ち――劣化速度は遅くはなるが、ゼロではない――に収納し、辺境の街・ピーチパークで売る算段だった。

しかしベルフィーナの空間収納を使えば姿そのまま、そして新鮮なまま運べる。それならば、高値を付けるだろう王都で売った方が良い。


「ちなみに、冒険者ギルドで塩漬け案件は取り下げさせたから、もう貴女と取り合う……かち合うことは無いと思う。こんな事は初めてだが……。」

「そう。それがいいと思います。あなた方もここまで来て成果なしで帰る訳にはいきませんし。」


あ、これも嫌味っぽく聞こえるだろうか。習慣とは恐ろしい。社交界でやり合っていた時の舌の攻撃力は、今はいらないのに。
ベルフィーナはまた、自身の話し方を反省するも、レイヴィスは優しく頷いただけだった。











レイヴィスとまた二週間後に落ち合う約束をして別れ、ベルフィーナはまた心地良い一人の空間を楽しむ。

やはりまだ人と関わるのは面倒だと、思ってしまった。レイヴィスはいい人だと分かってはいる。




自らの力量に過信していたベルフィーナは反省し、それからは、身の丈にあった依頼を淡々とこなしていく。

大型魔物の討伐依頼は騎士団預かりとなって軒並み無くなってしまったので、キラービーの蜜採取や、絶華という崖にしか生えない特殊な花の採取などの、魔術を使えば無理なくこなせる依頼を中心に。
毎日のようにポイントと金を稼いだベルフィーナは、あっという間に上級へと昇格した。



この街に着いたばかりの頃は、実力を示すのに焦っていたのだろうか。そんなことをぼんやり考えた。

誰かに、自分は価値があると言ってもらいたかった。そんな下心を抱えて、フラワードラゴンの討伐では危険を冒してしまった。



それに気付けたのはレイヴィスの圧倒的な力のおかげだ。
自分の力に合った依頼をコツコツこなし、無理せずに生活を充実させていこう。


野営用のテントは一人用と言うこともあって小さいものだったが、少し大きく立派なものに買い替えた。もう、とりあえずの寝床ではなく、冒険者として生きるのなら、少しでも快適な方が良い。

少し力の抜けたベルフィーナの様子を見て、同業の者は恐る恐る話しかけるようになった。馴染みの武器屋や便利な魔道具士の紹介をしてくれたり、魔物の知識を披露してくれたり。そのお陰で、ベルフィーナの戦闘力は上がり、生活の質も向上していった。







ダグラスも、休み時間なのか休養日なのか分からないが、暇さえあればベルフィーナと食事を楽しむ仲になっていた。


「ははぁ、本当ベルがいたらなぁって思うよ。あの量を皆んなで手分けして解体して運んで……、疲れたぁ。」

「お疲れ様ね。空間魔術の使い手は1人以上いるのでしょう?」


陽の差し込むテラス席で美男美女がランチをしているとあって、切り取ると絵のような光景に通行人も見惚れて足を止める。
しかしそれらの視線を気にするような細かい神経は、二人は持ち合わせていなかった。


「いるにはいるけど……、比べ物にならないな。収納出来るのは小屋一軒分くらい。時間経過はほとんどないし発動もスムーズだから、優秀な方なんだけど、ベルが優秀すぎて。」

「私は私のためにしか動きませんからね。」


ふふふ、とやんわり牽制すると、ダグラスは肩をすくめて口を尖らせた。


「そりゃ、冒険者だからね。当たり前だよ。うーん、でも、あんまり優秀だから狙われそうだなぁ。」

「誰に?」

「商人、貴族、もしかしたら王族・・に。罠に嵌めて借金背負わせて、良いように使われたり、婚姻を結ばせたり。」


ちらちらと伺うような視線に、探られているなぁと察する。ダグラスの雇用主は王族だろうに、その並びにいれてくるということは、何か情報を得るよう指示されている可能性も浮上する。

ダグラスの言う通り、隣国の次期伯爵夫人、もしくは伯爵家令嬢とはいえ、今は平民として生きている。後から分かったとしても、陰謀に巻き込まれればひとたまりもない身分だ。


「そうねぇ……。」

「聞いてる?もー、ベル、他人事過ぎるよ?こんな美人で優秀で凄腕の冒険者、さっさと上級に上がったからまた有名になって、今頃目をつけられてるかもしれないんだからね。」

「そうねぇ……。」


頬に肘をついて胡乱な目で見つめてくるダグラスは、無駄に色気を撒き散らしながらも心配してくれる。彼の少し長めの金髪がゆるく頬にかかるのを無造作にかきあげ、ワインレッドの瞳は優しくベルフィーナを見つめていた。
今日も目の保養になる。


一晩の誘いを断ってからは、心地よい友人の距離感。食後の紅茶の香りを吸い込んで、ベルフィーナはほうとため息をつく。

少しずつ、素の自分を受け入れ始めてくれたピーチパークの街。

魔物も強く倒し甲斐はあるし、そこそこの強さを持つベルフィーナを歓迎してくれている。このまま、冒険者として生きていくのも楽しいだろうと思うようになったのだ。貴族だのなんだのと余計な横槍を入れられたくはない。

小さな家で、一人。もふもふとした猫を飼うのもいいかもしれない。自分だけのために料理を作り、掃除をし、冒険者として稼いで、何か継続的な仕事もしてみたい。

身体が寂しい時だけ男を探しに行けば良い。……今はそんな勇気はないけれど、やろうと思えば、出来なくは、ない、かもしれない。


ウォルターから、次期伯爵夫人という立場から逃げて一ヶ月が経とうとしていた。

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