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レバノン杉騒動
守護神を倒すモノ その4
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「ぐう……ああ……があああ!」
ズワワは左手に持っていたビーの斧を、力の限りを以って足元の地面に叩きつけた。
斧は深々と土にめり込み、即座には掘り出せない状態にされてしまった。
この場において、ズワワとまともに戦えているのは、ビーとエーラのみ。
エーラは投石ができても直接のダメージは負わせられず、ビーは武器である斧を取り上げられてしまった。
つまりは、ズワワを倒すための決定打を与えられる者は、ここにいないことになる。
「ふう~……」
ズワワは大きく、そして静かに息を吐いた。その時にはなぜか、ズワワから発せられていた嵐のような気迫が止んでいた。
「お前だちは、本当に強い」
そう語るズワワからは、先程までの相手を威圧する敵意ではなく、ビーたちに対する敬意が込められていた。
「俺の山に杉を盗りに来た奴の中でも、お前だちみだいに強い奴、いながっだ。俺もごれだげ手ごづるの、初めでだ」
ズワワは血が滴る左掌を見た後、ビーとエーラに交互に目を向けた。
そして、持っていた巨大斧で、ビーが切り倒した杉を指し示した。
「ごの杉を切っだごどは許してやる。杉を置いで、ごのまま山を降りろ」
ビーもエーラも、ズワワの言葉に嘘偽りは無いと感じ取っていた。
ズワワは二人の強さと健闘を称え、それを惜しんで本当に見逃そうとしている。
それは守護神ズワワの最大限の敬意と賛辞の表れだとも解っている。
だが、
「ビーは――――――杉をもらいに来た」
ビーは力強い目でズワワの目を見ながら、ズワワと同じように、右手の人差し指で切られた杉を指し示した。
「…………そうが」
目を閉じ、しばらく口を閉ざしていたズワワは、そう静かに納得した。
「なら―――」
ビーに向き直ったズワワは、手にしていた巨大斧を振りかぶった。
「ごの山で眠るがいいが」
ビーの心を汲んだズワワが、今度こそビーに引導を渡そうとする。
(くっ! 伝令兵はとうに麓まで辿り着いているはず! あとは補給の兵たちがアレをここまで運んで来さえすれば!)
ビーに迫る絶体絶命の危機に、ハトゥアは負傷兵を担ぎながら歯噛みみした。
勇男から告げらてた、一縷の望みともいえる策。
それには補給兵に持たせていたある物が必須だった。
兵たちがこの場に運搬してくるまでの間、時を稼がなければならなかったはずが、ビーとエーラの二人でさえ、神光を持つズワワを抑えるに限界が来てしまった。
(万事休すか……)
望みが絶たれ、目を閉じかかったハトゥアの耳に、
「ハトゥア隊長! お持ちしました!」
「っ!?」
麓に待機させていた兵と補給兵が総がかりとなって、一つの荷車をこの場へと届けてきた。
「よくやった! エーラ殿!」
荷車に乗った物を確認したハトゥアは、急ぎエーラの名を叫んだ。
「来たか!」
ハトゥアの傍に到着した荷車を確認したエーラも、絶好の位置取り目がけて駆け出した。足元にあった小石を数個掴んで。
「投擲用意! 可能な限り上に投げろ!」
荷車に積んだ物を、兵たちが数人がかりで持ち上げ、
「今だ! 投げよ!」
「おおあああ!」
ハトゥアの合図で、兵たちが怒号とともに全力で放り投げる。
「!? 何だ!?」
自身の背よりも高く投げ放たれたそれを、ズワワは確かめようと目を細める。
それは太陽の光を背にしながら、ズワワの額へと落下してきた。
ズワワは左手に持っていたビーの斧を、力の限りを以って足元の地面に叩きつけた。
斧は深々と土にめり込み、即座には掘り出せない状態にされてしまった。
この場において、ズワワとまともに戦えているのは、ビーとエーラのみ。
エーラは投石ができても直接のダメージは負わせられず、ビーは武器である斧を取り上げられてしまった。
つまりは、ズワワを倒すための決定打を与えられる者は、ここにいないことになる。
「ふう~……」
ズワワは大きく、そして静かに息を吐いた。その時にはなぜか、ズワワから発せられていた嵐のような気迫が止んでいた。
「お前だちは、本当に強い」
そう語るズワワからは、先程までの相手を威圧する敵意ではなく、ビーたちに対する敬意が込められていた。
「俺の山に杉を盗りに来た奴の中でも、お前だちみだいに強い奴、いながっだ。俺もごれだげ手ごづるの、初めでだ」
ズワワは血が滴る左掌を見た後、ビーとエーラに交互に目を向けた。
そして、持っていた巨大斧で、ビーが切り倒した杉を指し示した。
「ごの杉を切っだごどは許してやる。杉を置いで、ごのまま山を降りろ」
ビーもエーラも、ズワワの言葉に嘘偽りは無いと感じ取っていた。
ズワワは二人の強さと健闘を称え、それを惜しんで本当に見逃そうとしている。
それは守護神ズワワの最大限の敬意と賛辞の表れだとも解っている。
だが、
「ビーは――――――杉をもらいに来た」
ビーは力強い目でズワワの目を見ながら、ズワワと同じように、右手の人差し指で切られた杉を指し示した。
「…………そうが」
目を閉じ、しばらく口を閉ざしていたズワワは、そう静かに納得した。
「なら―――」
ビーに向き直ったズワワは、手にしていた巨大斧を振りかぶった。
「ごの山で眠るがいいが」
ビーの心を汲んだズワワが、今度こそビーに引導を渡そうとする。
(くっ! 伝令兵はとうに麓まで辿り着いているはず! あとは補給の兵たちがアレをここまで運んで来さえすれば!)
ビーに迫る絶体絶命の危機に、ハトゥアは負傷兵を担ぎながら歯噛みみした。
勇男から告げらてた、一縷の望みともいえる策。
それには補給兵に持たせていたある物が必須だった。
兵たちがこの場に運搬してくるまでの間、時を稼がなければならなかったはずが、ビーとエーラの二人でさえ、神光を持つズワワを抑えるに限界が来てしまった。
(万事休すか……)
望みが絶たれ、目を閉じかかったハトゥアの耳に、
「ハトゥア隊長! お持ちしました!」
「っ!?」
麓に待機させていた兵と補給兵が総がかりとなって、一つの荷車をこの場へと届けてきた。
「よくやった! エーラ殿!」
荷車に乗った物を確認したハトゥアは、急ぎエーラの名を叫んだ。
「来たか!」
ハトゥアの傍に到着した荷車を確認したエーラも、絶好の位置取り目がけて駆け出した。足元にあった小石を数個掴んで。
「投擲用意! 可能な限り上に投げろ!」
荷車に積んだ物を、兵たちが数人がかりで持ち上げ、
「今だ! 投げよ!」
「おおあああ!」
ハトゥアの合図で、兵たちが怒号とともに全力で放り投げる。
「!? 何だ!?」
自身の背よりも高く投げ放たれたそれを、ズワワは確かめようと目を細める。
それは太陽の光を背にしながら、ズワワの額へと落下してきた。
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