荒雲勇男と英雄の娘たち

木林 裕四郎

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レバノン杉騒動

守護神を倒すモノ その5

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「何だが知らないが―――」
 ズワワは逆光で見えない落下物をにらみ、
「―――粉々ごなごなにしてやるがー!」
 それを破壊するべく巨大斧をかまえた。
 あと数瞬後には、落下物はズワワの斧の間合いに入る。
 ただ落ちてくるだけの物を叩き返すなど、ズワワにとっては造作もないこと――――――のはずだった。
「今だ! エーラ!」
 ようやく地面から頭だけを出すことができた勇男いさおが、エーラに好機の合図を送る。
「待ってた!」
 エーラは握った右拳を宙空に突き出し、落下物に狙いを定めた。
 射線と落下物が重なったところで、エーラは拳に握っていた小石を、親指ではじき飛ばす。
 指弾によって発射された小石は矢よりも速く空を切り、陶製とうせい大瓶おおがめを貫いた。
「なっ!?」
 重い破砕音を立てて散らばる大瓶に、ズワワは完全に意表を突かれた。まさか打ち返すつもりでいた落下物が、その寸前で砕けるとは思ってもみなかったからだ。
 しかし、本当にズワワを困惑させたのはここからだった。
「ぶわがっ!」
 砕けた大瓶の中に入っていた液体が、ズワワの顔がけて降り注いだのだ。
「お、お前だぢ、何のづもり―――!?」
 激昂げっこうしようとしたズワワだったが、なぜかグラリと体勢を崩した。
「ご、ごれは!? お、おではどうしでしまっだんだ!?」
 先程までしっかりと地面をとらえていたズワワの足が、まるで宙に浮きかかっているように落ち着かず、フラフラと揺れては何度もタタラを踏む。
 さらには頭も右に振れては左に振れ、また右に振れと、前後不覚のような状態におちいっていた。
(思ったとおりだ!)
 ズワワの様子を見た勇男は、予想の的中に笑みを浮かべた。
(先代の守護神フワワが死んでから、ズワワはこの山で鍛え続けてきたと言った。なら、山から出たことなんかない。麦酒ビールを一滴だって飲んだことはない。酒類アルコールへの耐性もなかったんだ)
 ズワワの言葉からそれらを予測した勇男は、行軍の糧食りょうしょくの一つとして積まれていた麦酒ビールを、ハトゥアを通してこの場に持って来させた。
(あとはズワワの持ってる神光メラムっていうのが、どのくらいのものまで防ぐ効果があるのかってことだけだった。けど、これも思ったとおりだった。矢も槍も防げたが、液体までは防げなかったな)
 空中に投げさせた麦酒ビールの入った大瓶を、ズワワとのギリギリの距離でエーラに指弾で壊させる。
 そうすることでズワワはける間もなく、麦酒ビールを文字通り浴びるように飲むことになる。
(あとは酔ってフラフラになったズワワを、ビーが仕留めればいい。ビーはビルガメス王の力をいでるから、ズワワの神光メラムを突破できたんだ。これも実証済み)
「ビー! 今だ! ズワワに最後の一撃を―――あれ?」
 ビーの方を見た勇男は、ビーがいつも武器に使っている斧を持っていないことに、いま初めて気付いた。
「イサオー! ビーは斧を取り上げられてるぞー!」
「なんっ!?」
 エーラにそのことを教えられ、勇男は顔を引きつらせた。
(な、何だと!? ズワワにとどめを刺せる武器がないと……)
 地面に埋まりながら、勇男は顔面蒼白そうはくになった。
 ズワワに決定的なダメージを与えられなければ、この作戦は成立しない。
 今は千鳥足ちどりあしのズワワだが、時間を置けば状態が回復してしまうかもしれない。
(どうしよどうしよどうしよ!)
 勇男が首から下が埋まりながら右往左往うおうさおうしていると、
「エーラ、手伝って!」
「よし!」
 ビーがエーラをともなて駆け出した。
 勇男は二人が何をする気かと首を巡らすと、
「……ま、まさか」
 二人が武器にしようとしている物を察して目を見開いた。
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