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森の獣 1章 稲生編

正門戦線

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「中々に様に成って来たな」
稲生は、練兵場での投擲の練習を終えて、
自画自賛していた。
体力は、一朝一夕でつくものではないが、
やらぬよりましと思い、トレーニングを
続けていた。
最近は、守備兵も稲生に絡んでこないため、
安息の時間を過ごしていた。
ノルドの店に顔を出したり、メリアムに大森林にある
薬草について学んだりとそれなりに
充実した日々を過ごしていた。

バルザース帝国の傭兵が獣の討伐に
向かって5日後、森より凄まじい獣の咆哮が
町に響いて来た。
その後、魔獣や魔物が町に来襲した。
バルザース帝国の傭兵が獣と会敵したのであろう。

「稲生、おぬしはまともに魔獣や魔物を
殺したことがないだろう。
獣との討伐の前に経験しておけ。
リン、稲生を補助魔術で援護しろ」
ワイルドは有無を言わさずに命じた。

そもそも稲生は、生物自体を
殺したことがなかったため、魔獣たちとはいえ、
気が進まなかった。
ひとまず、魔獣が来襲している正門に向かった。

「稲生、前もって言っておく。
殺しに慣れるな、酔うなよ。
言葉にすると難しいがとにかく、
そういう事だ」
リンが走りながら、話した。

正門付近には、大量の魔物と既に
守備兵が戦っており、乱戦の様相となっていた。
稲生は、血の臭いに吐きそうになるが、
リンが何かつぶやくと心が落ち着き、身体が軽くなった。
「稲生、とりあえず、心が冷徹になれる魔術と
身体能力を強化する魔術をかけた。
半刻ほどは効果が継続する。
守備隊からあぶれた魔物を狙ってくれ」
リンに言われ、まず、稲生は、投擲による攻撃を
行うことにした。
一投目から、ゲームでよく見るゴブリンのような
魔物の腹部に命中した。血が噴き出し、そのまま倒れた。

稲生は、その様を見るが、魔術のせいか心が
何も揺らがなかった。
二投、三投と同種の魔物に命中し、倒れた。
リンが短槍を構えて、ゴブリンに近づき、一槍で絶命させた。
稲生は小太刀を抜刀すると、近くのゴブリンに
斬りつけた。素人剣術であったが、
ゴブリンの肩口を切り裂いた。
その感触に稲生は、嫌悪を感じるも
心は平静を保っていた。
素人剣術ながら、数匹を倒した稲生は、
参戦しているワイルドを見た。

大斧を力任せに振り回すと、都度、
魔獣の死がそこにあった。
何度か、森より咆哮や爆発音がしたが、
それも聞こえなくなり、半刻もすると、魔獣や魔物は、
あらかた打ち取られ、残りは森に逃散した。
守備隊の犠牲者以外に町への被害はなかったようだ。

魔術の効果がきれると、戦場跡で
稲生は切り刻まれた死骸と臭気のせいで、
何度も嘔吐した。
吐きながら、こんな雰囲気に絶対になれてはいけない、
早く元の世界に戻ならければと心の底から思った。

そんな稲生をリンが気遣わしげな表情で見つめて、
無言で水を渡してくれた。
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