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11.海を飛ぶペンギン
海を飛ぶペンギン⑤
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本当は何度も唇を重ねたくなったけれども、貴堂には自分の感情のままにすることは出来なかった。
今日は、紬希はたくさん頑張ってくれたのだ。
おそらくは貴堂のために。
本当はそれで十分だったのに、手のひらに頬をすり寄せるという可愛らしい仕草に唇を奪ってしまった。
貴堂は紬希の頬を指で撫でた。
──キス……ですよね?
楽しかったと伝えあって、今日何度も繋いでくれた手が紬希の頬を撫でてくれて、だからつい擦り寄ってしまったのだ。
そのまま顎に手が触れたとき、紬希の鼓動は大きく音を立てた。
貴堂のその端正で綺麗な顔が近づいてくるのをただ、紬希は見ている事しかできなくて、気づいたら唇が重なっていたのだ。
とてもどきどきした。
とくんとくんという自分の心臓の音がやけに大きく聞こえて、重なった貴堂の唇の感触が柔らかくて温かかったことはなんとなく覚えている。
そして顔が離れたあと、貴堂がするりと紬希の頬を指で撫でたことも。
とても驚いてドキドキしてしまったけれど、少しも嫌ではなかった。
「怖くはなかった?」
極めて外出が苦手だという紬希に配慮はしたつもりではあるが、それでも一緒にいると貴堂は紬希がひどく目立つ存在なのだということは分かった。
貴堂自身も普段他人から見られることは多いけれど、普段よりも今日はさらに視線を感じた気がする。
それによって紬希が疲れてしまっていないか、大丈夫だったか確認したかったのだが。
「え? あの、とてもびっくりしてドキドキしましたけれど、怖くはなかったです」
「ドキドキ?」
──これは何の感想なのだろうか?
「……え?」
紬希がきょとんとして、貴堂を見つめる。
ふ……とこみ上げる笑みを貴堂は抑えられなかった。直前の自分の行動を思い返して、ははっと笑い声が漏れてしまう。
「ごめん。主語がなかった僕のせいだな。今日のお出かけが大丈夫だったか確認したかったんだけれど、紬希、今の感想はキスの感想?」
──は、恥ずかしいっ!
「びっくりして、ドキドキしたけれど怖くはなかった? せっかくだからもう一つ聞いていい?」
紬希にしてみたらそんな感想を伝えるはずではなくて、聞かれたから答えたのにそれが盛大な勘違いだったと分かって、顔から火が出そうなのに目の前の貴堂は妙に楽しそうなのだ。
「なんですか?」
(すごく、すごく優しい人のはずなのに貴堂さんがいじわるしてる気がする)
恥ずかしくて泣きそうなのに、あまりにも貴堂が幸せそうに笑うから、泣くのは違う気がする紬希だ。
「怖くなかったのなら、もう一度してもいいかな?」
その返事を聞かずに、貴堂は紬希のそれに軽く自分の唇を重ねた。
驚いた紬希はやっとのことで声を出す。
「もう……顔から火が出そう……」
「大丈夫。出てないよ」
ポンポン、とあやすように頭を撫でられて紬希は顔を俯かせた。
好きな人が幸せなのは自分も幸せなのではないだろうか?
だから、こういうのもいいのかな……?
今日は、紬希はたくさん頑張ってくれたのだ。
おそらくは貴堂のために。
本当はそれで十分だったのに、手のひらに頬をすり寄せるという可愛らしい仕草に唇を奪ってしまった。
貴堂は紬希の頬を指で撫でた。
──キス……ですよね?
楽しかったと伝えあって、今日何度も繋いでくれた手が紬希の頬を撫でてくれて、だからつい擦り寄ってしまったのだ。
そのまま顎に手が触れたとき、紬希の鼓動は大きく音を立てた。
貴堂のその端正で綺麗な顔が近づいてくるのをただ、紬希は見ている事しかできなくて、気づいたら唇が重なっていたのだ。
とてもどきどきした。
とくんとくんという自分の心臓の音がやけに大きく聞こえて、重なった貴堂の唇の感触が柔らかくて温かかったことはなんとなく覚えている。
そして顔が離れたあと、貴堂がするりと紬希の頬を指で撫でたことも。
とても驚いてドキドキしてしまったけれど、少しも嫌ではなかった。
「怖くはなかった?」
極めて外出が苦手だという紬希に配慮はしたつもりではあるが、それでも一緒にいると貴堂は紬希がひどく目立つ存在なのだということは分かった。
貴堂自身も普段他人から見られることは多いけれど、普段よりも今日はさらに視線を感じた気がする。
それによって紬希が疲れてしまっていないか、大丈夫だったか確認したかったのだが。
「え? あの、とてもびっくりしてドキドキしましたけれど、怖くはなかったです」
「ドキドキ?」
──これは何の感想なのだろうか?
「……え?」
紬希がきょとんとして、貴堂を見つめる。
ふ……とこみ上げる笑みを貴堂は抑えられなかった。直前の自分の行動を思い返して、ははっと笑い声が漏れてしまう。
「ごめん。主語がなかった僕のせいだな。今日のお出かけが大丈夫だったか確認したかったんだけれど、紬希、今の感想はキスの感想?」
──は、恥ずかしいっ!
「びっくりして、ドキドキしたけれど怖くはなかった? せっかくだからもう一つ聞いていい?」
紬希にしてみたらそんな感想を伝えるはずではなくて、聞かれたから答えたのにそれが盛大な勘違いだったと分かって、顔から火が出そうなのに目の前の貴堂は妙に楽しそうなのだ。
「なんですか?」
(すごく、すごく優しい人のはずなのに貴堂さんがいじわるしてる気がする)
恥ずかしくて泣きそうなのに、あまりにも貴堂が幸せそうに笑うから、泣くのは違う気がする紬希だ。
「怖くなかったのなら、もう一度してもいいかな?」
その返事を聞かずに、貴堂は紬希のそれに軽く自分の唇を重ねた。
驚いた紬希はやっとのことで声を出す。
「もう……顔から火が出そう……」
「大丈夫。出てないよ」
ポンポン、とあやすように頭を撫でられて紬希は顔を俯かせた。
好きな人が幸せなのは自分も幸せなのではないだろうか?
だから、こういうのもいいのかな……?
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