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第11章 空の神
第116話 空の神2
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翌日の朝食後、ランプ片手におぼつかない足取りのアルディアの手を引き、洞窟の奥へと向かう。
「さすがに、ここまで来ると真っ暗ですね。リビティナ様には見えているんですか」
「ああ、その灯りが無くても見えるんだよね」
「赤外線が見えているんでしょうか」
「そうみたいだね。確かこの辺りに階段があるはずなんだけど……」
奥に向かうほど広くなるデコボコの岩壁を丹念に調べていく。
「あっ、ここだね」
岩陰に大人二人が並んで通れる程の穴が開いていて、上に伸びる階段が見えた。
「この階段が長くてね、多分この山の山頂まで続いてるんじゃないかな」
「えぇ~、そんなの私登れませんよ」
そうだろうね。ここからだと標高差三千メートル程の階段を登る事になる。アルディアがランプをかざすけど、その光は暗闇に吸い込まれ階段の先を見る事はできない。
「ボクが飛ぶから腕に掴まっててくれるかい」
アルディアをお姫様抱っこで抱え、背中の翼を広げて飛び上がる。下る時とは違って滑空する訳じゃない。翼に魔力を込めて浮き上がりながら、階段を蹴り上げ進んでいかないといけない。
「リビティナ様、大丈夫ですか」
「少し時間は掛かるけど、順調だよ」
翼を操作して、左右にカーブしながら延々と続く石の階段を昇っていく。狭い壁や天井にぶつかる事もなく昇っていくと、見知った洞窟の広間へと到着した。
確かここには……。
「あっ、あったよ。ボクが入っていた棺桶」
ランプで照らす先には、数人なら入れそうな大きな黒い箱がある。最初地上に降りた時に入っていた棺桶だよ。懐かしいな~と駆け寄る。
「リビティナ様。これは棺桶じゃなくて、ゴンドラですよ!!」
ゴンドラ? ガラス窓はないけど、箱の天井からはアームが伸びていて、上に張られたワイヤーロープを掴んでいる。確かにロープウェイのゴンドラにそっくりだ。
「よく見えませんが、そのワイヤーロープはまだ上空に伸びているようですよ」
箱のすぐ上には一メートル間隔で平行に並んだワイヤーロープが二本、その五メートル向こう側にも同様に計四本のワイヤーロープが張られていた。右手上空に向かって緩やかに伸び、岩壁の穴を通り外へと向かっているみたいだ。
「あの右手に部屋があるようだね」
洞窟の壁際の高い位置、壁に埋め込まれたような部屋の窓が見えた。
その部屋につながる細い階段を昇り、扉を開けた奥には……。
「ここは制御室ですね。ここからゴンドラ全体の様子を見る事ができますよ」
「ここにあるのは前世とよく似た装置だね。動作するのかな」
ランプに照らし出されたのは金属の卓上に埋め込まれた、いくつもの黒いモニターパネル。埃だらけだけど、この世界にはない文明の装置だ。
どこかに電源スイッチが無いかと、辺りを見て回る。
「リビティナ様。これじゃないですか」
少し大きいけど、電源マークの付いたレバーがあった。アルディアが両手でレバーを右に回すと部屋の照明が点灯し、真っ暗だった窓の外の洞窟内も明るい光で照らし出される。
「こりゃすごいね」
「やはりあの箱はロープウェイのゴンドラですね。するとこの上には軌道ステーションがあると言う事でしょうか」
「そうだね、ここは山頂。その上空となると軌道ステーションぐらいだね」
この惑星が地球と同じサイズなら、赤道上空約三万六千キロの静止軌道にアンカー衛星があるはずだ。赤道から垂直に延びたメインシャフトにつながれ、その途中に軌道ステーションがあるのだろう。
空の神様の部屋で見た景色も、宇宙空間からの景色だった。ステーションが神様の住居と言う事になるね。
「この制御盤で動かせるはずですけど、使い方が分かりませんね」
制御盤のモニターにも電源が入り、良く分からない数字やグラフ、それにスイッチ類も表示されているけど下手に触る訳にはいかない。操作方法のマニュアルもないみたいだ。
しかし神様が作ったにしては前の世界の装置に似ている。リビティナ達が理解しやすいようにしたのか……それなら。
「どこかにこの制御卓の型式が書かれたプレートはないかな」
制御卓の下側を覗き込んでいたアルディアがプレートを見つけた。
「NOUALZU-03となってますね。ノウアルズと読むのでしょうか」
「ノウアルズ-03っと……あ~、あったよ。ここのパネルのスイッチを入れて、これを押すと……」
ガイダンス能力にヒットする項目が頭に浮かび上がってきて、外部への扉を開ける操作をしてみる。
ワイヤーロープが伸びた先にある岩壁が、大きな音と共に左右にスライドして開き、洞窟内に外からの雪と風が吹き込んで来た。その中をワイヤーロープは空に向かってさらに伸びている。
一旦岩の外扉を閉めて、ゴンドラの状態も確認する。ここのロープウェイは普通とは違い、ゴンドラ自体が自走するタイプみたいだ。レールのような二本のワイヤーロープから電力供給されてゴンドラのモーターで登っていく。この制御室へもそのワイヤーロープからの電力が供給されているんだろうね。
「ここの制御卓をオートモードにすると、あのゴンドラから操作できるみたいだよ」
「それじゃ、リビティナ様 。すぐに出発して空の神様に会いに行きましょうよ」
興奮気味のアルディアは、すぐにでもゴンドラに乗り空に上がりたそうだけど、今は夕方くらいかな。遥か上空のステーションまでは十時間程かかるらしいから、今からだと真夜中になっちゃうね。
神様に昼夜の感覚はないかもしれないけど、夜中に人の家に押しかけて怒られるのも嫌だし、ここで夕食にして、陽が昇った後に到着できるようにしようかな。
「しかし、神様にしては科学的な設備ですよね」
「そうだよね。ボクもあの男が本当の神様とは思えないんだよ」
最初に会った時の印象から少し変だとは思っていても、ヴァンパイアの身体を造り意識を埋め込むなど、リビティナの持っている知識には無い事だ。アルディアもそんな技術は知らないと言っている。
「でも、それなら眷属への遺伝子操作もしてもらえそうですね」
まあね。頼み込めば、神様的な力を使ってリビティナ達の希望を叶えてくれるさ。あの男が言った通り今まで地上で眷属を増やしてきたんだから、それぐらいの事はしてもらわないとね。
「さすがに、ここまで来ると真っ暗ですね。リビティナ様には見えているんですか」
「ああ、その灯りが無くても見えるんだよね」
「赤外線が見えているんでしょうか」
「そうみたいだね。確かこの辺りに階段があるはずなんだけど……」
奥に向かうほど広くなるデコボコの岩壁を丹念に調べていく。
「あっ、ここだね」
岩陰に大人二人が並んで通れる程の穴が開いていて、上に伸びる階段が見えた。
「この階段が長くてね、多分この山の山頂まで続いてるんじゃないかな」
「えぇ~、そんなの私登れませんよ」
そうだろうね。ここからだと標高差三千メートル程の階段を登る事になる。アルディアがランプをかざすけど、その光は暗闇に吸い込まれ階段の先を見る事はできない。
「ボクが飛ぶから腕に掴まっててくれるかい」
アルディアをお姫様抱っこで抱え、背中の翼を広げて飛び上がる。下る時とは違って滑空する訳じゃない。翼に魔力を込めて浮き上がりながら、階段を蹴り上げ進んでいかないといけない。
「リビティナ様、大丈夫ですか」
「少し時間は掛かるけど、順調だよ」
翼を操作して、左右にカーブしながら延々と続く石の階段を昇っていく。狭い壁や天井にぶつかる事もなく昇っていくと、見知った洞窟の広間へと到着した。
確かここには……。
「あっ、あったよ。ボクが入っていた棺桶」
ランプで照らす先には、数人なら入れそうな大きな黒い箱がある。最初地上に降りた時に入っていた棺桶だよ。懐かしいな~と駆け寄る。
「リビティナ様。これは棺桶じゃなくて、ゴンドラですよ!!」
ゴンドラ? ガラス窓はないけど、箱の天井からはアームが伸びていて、上に張られたワイヤーロープを掴んでいる。確かにロープウェイのゴンドラにそっくりだ。
「よく見えませんが、そのワイヤーロープはまだ上空に伸びているようですよ」
箱のすぐ上には一メートル間隔で平行に並んだワイヤーロープが二本、その五メートル向こう側にも同様に計四本のワイヤーロープが張られていた。右手上空に向かって緩やかに伸び、岩壁の穴を通り外へと向かっているみたいだ。
「あの右手に部屋があるようだね」
洞窟の壁際の高い位置、壁に埋め込まれたような部屋の窓が見えた。
その部屋につながる細い階段を昇り、扉を開けた奥には……。
「ここは制御室ですね。ここからゴンドラ全体の様子を見る事ができますよ」
「ここにあるのは前世とよく似た装置だね。動作するのかな」
ランプに照らし出されたのは金属の卓上に埋め込まれた、いくつもの黒いモニターパネル。埃だらけだけど、この世界にはない文明の装置だ。
どこかに電源スイッチが無いかと、辺りを見て回る。
「リビティナ様。これじゃないですか」
少し大きいけど、電源マークの付いたレバーがあった。アルディアが両手でレバーを右に回すと部屋の照明が点灯し、真っ暗だった窓の外の洞窟内も明るい光で照らし出される。
「こりゃすごいね」
「やはりあの箱はロープウェイのゴンドラですね。するとこの上には軌道ステーションがあると言う事でしょうか」
「そうだね、ここは山頂。その上空となると軌道ステーションぐらいだね」
この惑星が地球と同じサイズなら、赤道上空約三万六千キロの静止軌道にアンカー衛星があるはずだ。赤道から垂直に延びたメインシャフトにつながれ、その途中に軌道ステーションがあるのだろう。
空の神様の部屋で見た景色も、宇宙空間からの景色だった。ステーションが神様の住居と言う事になるね。
「この制御盤で動かせるはずですけど、使い方が分かりませんね」
制御盤のモニターにも電源が入り、良く分からない数字やグラフ、それにスイッチ類も表示されているけど下手に触る訳にはいかない。操作方法のマニュアルもないみたいだ。
しかし神様が作ったにしては前の世界の装置に似ている。リビティナ達が理解しやすいようにしたのか……それなら。
「どこかにこの制御卓の型式が書かれたプレートはないかな」
制御卓の下側を覗き込んでいたアルディアがプレートを見つけた。
「NOUALZU-03となってますね。ノウアルズと読むのでしょうか」
「ノウアルズ-03っと……あ~、あったよ。ここのパネルのスイッチを入れて、これを押すと……」
ガイダンス能力にヒットする項目が頭に浮かび上がってきて、外部への扉を開ける操作をしてみる。
ワイヤーロープが伸びた先にある岩壁が、大きな音と共に左右にスライドして開き、洞窟内に外からの雪と風が吹き込んで来た。その中をワイヤーロープは空に向かってさらに伸びている。
一旦岩の外扉を閉めて、ゴンドラの状態も確認する。ここのロープウェイは普通とは違い、ゴンドラ自体が自走するタイプみたいだ。レールのような二本のワイヤーロープから電力供給されてゴンドラのモーターで登っていく。この制御室へもそのワイヤーロープからの電力が供給されているんだろうね。
「ここの制御卓をオートモードにすると、あのゴンドラから操作できるみたいだよ」
「それじゃ、リビティナ様 。すぐに出発して空の神様に会いに行きましょうよ」
興奮気味のアルディアは、すぐにでもゴンドラに乗り空に上がりたそうだけど、今は夕方くらいかな。遥か上空のステーションまでは十時間程かかるらしいから、今からだと真夜中になっちゃうね。
神様に昼夜の感覚はないかもしれないけど、夜中に人の家に押しかけて怒られるのも嫌だし、ここで夕食にして、陽が昇った後に到着できるようにしようかな。
「しかし、神様にしては科学的な設備ですよね」
「そうだよね。ボクもあの男が本当の神様とは思えないんだよ」
最初に会った時の印象から少し変だとは思っていても、ヴァンパイアの身体を造り意識を埋め込むなど、リビティナの持っている知識には無い事だ。アルディアもそんな技術は知らないと言っている。
「でも、それなら眷属への遺伝子操作もしてもらえそうですね」
まあね。頼み込めば、神様的な力を使ってリビティナ達の希望を叶えてくれるさ。あの男が言った通り今まで地上で眷属を増やしてきたんだから、それぐらいの事はしてもらわないとね。
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