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第11章 空の神

第115話 空の神1

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「空の神様に会いに行きませんか?」

 突然のアルディアの言葉に驚いちゃったよ。

「前から考えていたのですが、リビティナ様は獣人や他の種族を人間にする事ができます。そのお体は、空の神様からもらったと聞いています」

 ヴァンパイアとしての体は、空にいる神様……かどうか分らない男が造った。少女の体にしたのは、その者の趣味だとも言っていたね。
 人間とは全く違う不死身の身体。他人を治療したり人間に変えてしまう能力。そんなヴァンパイアを生み出せるのは、空にいるあの男だけだ。

「空の神様なら、逆に人族の外殻遺伝子を埋め込めるような、遺伝子操作能力を持つ者を造り出すことも可能じゃないでしょうか」
「……確かにあの男なら可能かもしれないね」

 今は受精卵に、ある程度の確率で人族遺伝子を組み込めるだけだ。里に人族の子供は居るけど、成長し子供を産み増えていくにはまだまだ年月がかかる。

 アルディアが言うように、外殻遺伝子のない眷属を直接人族として生まれ変わらせる事ができるなら、魔素に打ち勝てる丈夫な体が手に入る。今、里に暮らす眷属達が長生きする事もできるだろう。

「でもね、空に上がる方法をボクは知らないんだよ」
「ですので、最初にリビティナ様が地上に降りられたという、洞窟を調べてはどうでしょうか」
「あの洞窟をかい……まあ、確かにあそこなら可能性はあるかもしれないけど」

 別に空に上がりたいとも思っていなかったから、洞窟を詳しく調べたことはない。アルディアは自らの考えに自信があるのだろう、目をキラキラさせて洞窟調査に行く事を勧める。

「じゃあ、アルディアも一緒に来てくれるかい」
「それは勿論です。前世の知識がない人では、空に上がるなんて理解できないでしょうから」

 前世にも存在していなかった神様に会えると、好奇心いっぱいのようだね。
 よし、それなら善は急げだ。早速準備をしよう。

「ネイトス。ボクの住んでいた洞窟にアルディアと行ってくるよ」
「あの、マウネル山にある洞窟ですかい」
「もしかするとひと月くらい不在になるかもしれない。その間、ここを頼めるかい」
「それは結構ですが、何をしに洞窟に行くんです?」
「ちょっと、空の神様に会ってくるよ」

 ニコッと笑顔で言われた言葉にネイトスは少し驚いたようだけど、詳しく聞くこともなく快く承知してくれた。
 何日かかるか分からないから食料なども運び込まないといけないけど、洞窟は長年放置していたからね。今どんな状態になっているのか……。

「向こうで生活できると思うけど、持てるだけの食料を持ってまずは洞窟に行ってみようか」
「はい、分かりました。私はいつでも出発する準備はできていますので」

 プライベートジェット機なら沢山の食料を積めるけど、着陸する場所が無いからね。アルディアをベルトで吊り下げて持てるだけの荷物を持ち里から出発する。

「ネイトス。じゃあ、後は頼むよ」
「へい、分かりやした」
「リビティナ様、お気を付けて」

 ネイトスや里の人に見送られて飛び立つ。いつも一緒について来たいと言うエルフィも空の神様に臆したのか、珍しく里に残ると言っていたね。
 この世界の人が空高くに居る神様に会うとは、死ぬのと同じ意味だからね。

 洞窟まではここからだと一時間といったところかな。

「ほらあれが、マウネル山だよ。あの中腹に洞窟があるんだ」
「高い山ですね~。この国に来た時、遠くから眺めましたけどこんな近くまで来た事なかったです」

 山頂には万年雪をたたえた標高四千メートルはあろうかという山だ。その山腹にある洞窟の前、平らになっている場所に降り立つ。久しぶり、懐かしいな~。

「へぇ~。これが以前リビティナ様が住んでいた洞窟ですか。どこが入り口なんですか」
「ここを出る時に、獣たちに中を荒らされないように岩で入り口を塞いでいるんだ。ちょっと待っててね」

 そう言って入り口を塞ぐ岩を魔法で吹き飛ばす。

「うわ~、真っ赤で派手な扉ですね。それに看板が……眷属のお店?」
「ここでね、眷属になる人を待っていたんだよ。結局来てくれたのはネイトス一人だけだったんだけどね」

 「さあ、入ってよ」と扉を開く。中は薄暗く持ってきたランプを灯す。入り口近くの部屋に入り窓を開けると、外からの光で部屋が照らされた。

「テーブルや椅子、食器とかも揃っているんですね」
「こっちには水道とかまどもあるから生活できるんだけど、少し掃除したほうがいいかな」

 ここを出て眷属の里に移ってから十五年以上経つ。でも閉め切った洞窟内の部屋で埃もあまりない。食器を洗い、羽毛の布団を日向に干せばフカフカになってくれたよ。

「リビティナ様。充分滞在できそうですね」
「そうだね。でも持ってきた食料は五日ほどだからね。明日早速、洞窟の奥を調査してみようか」

 そろそろ陽が沈む。夕食を済ませ、アルディアにはここのベッドで寝てもらう事にする。

「リビティナ様はどちらへ?」
「この森の王に会ってくるよ」

 とはいえ長年会っていないし、もう野生化して王は存在しないかもしれない。前の王が住んでいた場所に行くと、王の住居を示す彫刻の木の杭は健在だ。そっと中を覗く。

『リ、リビティナ様ですか! 私です。幼い頃に遊んでいただいた、レクイドです』
『君が王を引き継いだんだね』
『はい、言い付けに従い、この森を守っております』

 偉いね。あんな小さかったレクイドが立派な王になっているよ。嬉しくなって中に入ると、子供は寝ていたけど奥さんが出迎えてくれた。

『今、洞窟にボクと眷属の一人が来てるんだ。少しの間だけど森のみんなを近づけないようにしてくれるかな』
『承知しました。リビティナ様の邪魔にならぬようにしておきましょう』

 挨拶をしに魔獣達がやって来たら、アルディアが驚いちゃうからね。

『ところで、先代のベェルーワは元気にしているのかい』
『父は今、床に臥せって居りまして……』

 奥の寝室に行くと、壮健だったベェルーワが年老いワラの寝床に横たわっていた。時の流れは残酷だね。もっと早くに来てあげるべきだった。

『ベェルーワ。今まで来れなくてすまなかったね』
『死ぬ前にリビティナ様に一目会えただけで、ワシはもう……』
『そんな事言わず、長生きしてくれよ。治療をしようか』

 ベェルーワに牙を立て血を分け与え光魔法をかける。

『この暖かな感覚……久しいですな。リビティナ様、体が楽になりました。ありがとうございます』

 いくら血を分けても老衰に勝てないのは分かっている。愛しいこの森の魔獣達を守ってくれたベェルーワにリビティナの精一杯を与える。
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