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第11章 空の神

第117話 空の神3

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 夕食後。時間調整をしてゴンドラに乗り込み、軌道ステーションへと向かう。
 ゴンドラ内の操作パネルを見る限り、内部バッテリーも満タンだし、二本のワイヤーロープからの電力供給も継続されている。操作もリビティナの知るものと同じだ。

 プシューと音がして開いていたドアがスライドして閉まる。それと同時に側面に外の様子が映し出され、まるで窓があるように鮮明に見る事ができる。

「リビティナ様、やはり前世の科学技術ですね。小さな宇宙船といったところでしょうか」

 感心しながら室内を見て回るアルディアに、パネルを操作してサイドシートを出して座ってもらう。ゴンドラを走行させるスイッチを押すと、少し上下に振動した後、音もなく静かに動き出し斜め上に前進していく。
 岩の扉が自動で開き、平行に張られた二本のワイヤーロープをレール代わりにして、揺れる事もなくスピードを上げ走るゴンドラ。山頂上空からは遮る物もなく周囲は暗く、満天の眩い星に包まれている。

「アルディアはゆっくり寝ていてくれるかい。異常があれば自動で引き返すようになっているし、ボクが監視しているから安心してくれていいよ」
「はい、ありがとうございます」

 リビティナが地上に降りた時も、これに乗っていたはずだけど、空の神様に眠らされてその時の記憶はない。星の位置を見る限り真南に進んでいるようだけど、大地に光は無くどの位置にいるかも分からない。ジェット機並みのスピードは出ているはずだけど遠くの星以外は見えず、宙に止まっているかのようだ。

 光の無い大地は、そこだけ星空が切り抜かれたように黒い。かなり上空に上がって来たんだろう、その輪郭が丸みを帯びてきた。月もなく唯一の光を放つ太陽は惑星の向こう側。静寂だけがこのゴンドラを包み込む。

 そろそろ成層圏を抜けて宇宙空間に入ったようだね。ゴンドラの気密も完璧で空気が漏れる事もなく温度も正常、操作パネルに異常は表示されていない。

「ますます神様らしくない設備だよ。神様ならパッと転送でもしてくれればいいのに」

 そう呟くけど、確かあの神様は物理法則を大事にするような事を言っていたね。一晩中ゴンドラは走り続け、丸い大地の向こう側から眩しい太陽の光が円弧を描くように輝きだした。

「おはようございます、リビティナ様。うわ~、すごい景色ですね~」

 惑星が色づき、自分達の住む大陸を窓越しに眺める。ゴンドラは中継地点を通過しメインケーブルに乗り替わり、ここからは完全な無重力状態になりステーションに向かって降りて行く形になる。

「さて、あれが神様のいるステーションのようだよ」

 ゴンドラの前方、二枚の丸いお皿を向かい合わせにくっ付けたような金属製の物体が近づいてくる。近づくにつれその巨大さが分かる。町一つ分は入りそうな円盤状の物体、その中心にある扉が開いて、ゴンドラが吸い込まれる。
 もう一つの扉を潜り、ゴンドラはようやく停止した。

「ここが神様のお住まいでしょうか」
「そうみたいだね。外は空気もあるみたいだし降りてみようか」

 横にスライドするドアを出た所で天井から声がした。

「どうぞ、通路の光に沿って歩いてください」

 聞きなれない女性の声。音声アナウンスか? 指示に従って廊下を進みエレベーターに乗る。
 何度目かの扉を越えた場所は見覚えのある部屋。リビティナが神様と会った部屋だ。でも、その椅子に座っているのは、白いレースのような服を纏った女性の姿。

「よく来てくれたね。リビティナ・ヘレケルトス・エルメス・キュビナス・マイヤドベガ十八世君」

 歳は三十代半ばだろうか。彫りの深い顔立ちは西洋人に似ていて、前の男同様オリンポスの神々といっても過言じゃない整った顔。栗色の髪に栗色の目。死んだような目をしていた前の男と違って、興味深々といった感じでこちらを見つめている。
 椅子に座る女性に、警戒しつつ尋ねる。

「ボクの事はリビティナでいいよ。それよりも前の男の神様はどうしたんだい」
「前任者の男のことかな? その者は、ここを追放されて死んでしまったよ」

 追放!! あの神のような存在が死んだ? 

「それよりも隣に居るのは、君の眷属だよね。ちゃんと働いてくれているんだね。感心、感心」

 前の男と違って気楽な感じでハキハキと話す女性。神としては、まだまだ若いといった印象だね。

「ここに住む女神様でしょうか。私はアルディアと言います。今日はお願いがあってここまでやってきました」

 アルディアが片膝を軽く折って、もう片方を後ろに引いて貴族に対する格好で挨拶する。

「ワタシは女神じゃなくて、惑星ノウアルズの管理者なんだけどね。まあ、君達からすると神様になっちゃうのかな。で、どんなお願いなんだい」
「女神様。私達眷属が魔素に耐えられるように、体に外殻遺伝子を埋め込んでもらいたいのです」
「……人間専用の外殻遺伝子という事かな」

 パッチリと開けていた目を少し細め、訝しむようにこちらに目を向けてくる。神様でもこの遺伝子の存在を知らないのか、少し驚いているようにも見える。

「ここに人間用の外殻遺伝子を含む細胞のサンプルを持ってきているんだよ。これを基に遺伝子操作してくれないか」

 小瓶に入れ冷凍保存した人族の細胞を見せる。

「遺伝子操作自体は容易い事だよ。そのアルディアという眷属に施せばいいのかい」
「いえ、私だけでなく全ての眷属を人族に変えてほしいのです」

 その言葉に椅子に座る女性が、頬杖を突き少し考える。

「眷属が何人いるのか知らないけど、ここに連れて来られても困っちゃうからね。地上で外殻遺伝子を移植するのが一番良さそうだね」
「可能でしょうか?」
「新たなヴァンパイアを造り出せば、可能だろうね」

 やはりこの女性も神の一族か。リビティナと同じヴァンパイアの身体を造れるようだね。

「しかし体内のナノマシンの調整もあるから少し時間がかかっちゃうよ」
「ナノマシン? それは私の知る前世の技術でしょうか」

 前の世界とあまりにも似た、ナノマシンという言葉に反応したアルディアが質問した。

「前世? ああ、君は遺伝子に刻まれた過去の記憶が蘇った者なんだね」
「過去の記憶? あ、あの……私は元の世界で死んで、ここに転生されたんじゃないんですか」
「転生? なんだいそれは。君達人類は遥か昔に絶滅しているじゃないか」
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