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第9章 ドワーフの村
第123話 肖像画
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「今日はとりあえず情報収集だな。ギルドと、あとは軽く街を回ろうと思う」
いつものように、朝食を食べながら本日の予定を共有する。
王都に来るのは3年ぶりだし、前とどう変わっているかを確認したかった。
「はい。ギルドでドワーフのいる工房を聞くんですか?」
「そうだ。人身売買の方は修理が片付いてからにしたい。慌てる必要はないからな」
「承知しました。……それにしてもこのソーセージ美味しいですねぇ」
朝食で出てきたソーセージは皮がパリッとしていて中はジューシー。焼き加減も完璧だった。
「王都はひき肉の料理が多いと聞いたな。ハンバーグも美味いぞ」
「へー。それじゃ、夕食はそれにしましょう」
エミリスは想像して涎を垂らす。
「ああ。……それじゃそろそろ出かけるか」
「はい。準備しますね」
◆
「大きすぎません⁉︎ ここ……」
ギルドに着くと、エミリスはその大きさに驚く。
今まで立ち寄った街で見たギルドとは比較にならない規模で、例えるなら小さめの学校ほどにも思えた。
「ここメラドニアのギルドの本部だからな。他の国にも広がってるけど、この国だと一番大きいな。ここを拠点にしてる冒険者も多いからな」
「私、ギルドって大きめの酒場が片手間にやってるくらいのイメージでしたよ……」
「小さな町だと事実そうだな。ギルドと酒場のどっちが本業かわからないくらいだし」
例えばテンセズだと、酒場の売り上げの方が多いだろうことは予想できた。
依頼の手数料は決められているため、冒険者が報酬を酒場で使ってくれる額の方が多いくらいなのだ。
2人はギルドに入り、受付でギルドの身分証を見せる。
「こんにちは。アティアスさんとエミリスさんですね。……えと、ご兄妹……ですか?」
若い女性の受付――名札にはマーガレットとある――が、名前を確認しながら問う。
「あ、いえ。ご、ご夫婦です……」
何故か緊張しながらエミリスが答えた。
「そうなんですね。名前だけだとわからないので、すみません。……こちらは初めてですか?」
「俺はだいぶ前に来たことはあるけど、これは初めてだな」
「あ、本当ですね。履歴に残ってます。ええと……3年位前ですか。仕事は受けてなさそうですが……。私が担当になる前ですね。では改めまして、受付のマーガレットと申します。よろしくお願いしますね」
アティアスの訪問履歴を確認したマーガレットは、笑顔で2人に礼をした。
「よろしくお願いします」
それに合わせて、2人も頭を下げる。
「それにしても貴女の髪、綺麗ですね……。まるであの肖像画みたい」
「肖像画ですか?」
マーガレットがエミリスを見て、うっとりと呟く。その言葉にエミリスは聞き返した。
「ええ。見ますか? ……模写ですけれど」
「はい、是非」
「それでは、少し待っていてくださいね」
そう言ってマーガレットは奥の事務室に入っていく。
事務室も広く、多くの人が書類と格闘しているのがちらりと見えた。
しばらして、マーガレットが抱えるようにして持ってきたのは、黒くて平べったい大きな箱だった。
そして受付台の上で、箱をそっと開けた。
「わぁ……! 綺麗な絵」
中には額に入った1人の女性を描いた肖像画が入っていた。
バラの咲く庭に佇む光景を描いたのだろうか。
絵の中央で微笑む女性はまだ若く、腰ほどもある長く鮮やかな緑色の髪、そして透き通るような赤い目で描かれていた。
「こちらの肖像画はメラドニアの最北、国境付近の遺跡で見つかったものを、模写して保管しているものです。……すごいでしょ?」
「ああ、初めて見たよ。……って、これエミーが以前聞いたってやつじゃないのか?」
アティアスは感嘆しながらエミリスに聞く。
「ええ、もしかしたらそうかもしれませんね。……もう確認の術がありませんけど」
以前ゼバーシュで、オスラムと言う魔導士から話を聞いた肖像画の特徴と、非常に似通っていた。
彼の祖先の魔導士を描いたもの、という話だった。
しかしその本人に確認しようにも、オスラムはもうこの世にはいない。
「あら、この肖像画をご存知なんですか?」
「いや、話に聞いたことがあるだけなんだ。……ここの人はみんな知ってるのか?」
アティアスが確認する。
マッキンゼ領でも目立たぬように気を使っていたが、王都でこの肖像画のことを知っている者が多いのかどうか。それが気になった。
「いえ、このギルドでも数人じゃないでしょうか。私は保管資料の整理が仕事なので知ってますけど、ものすごい量がありますからね」
マーガレットは普段学芸員のようなことをしているのだろうか。
「ふむ……。この肖像画について、詳しいことって分かるか?」
「いえ、模写した方が聞き取りしたメモは残っていますが、魔導士の祖先を描いたもの、と言われているだけですね。絵ですから、この髪の色なども実物かどうかわかりませんし」
残念そうにマーガレットは答えた。
概ねエミリスが聞いた内容と同じように感じる。
「……ただ、ごく稀に緑っぽく見える髪の方はおられるようですね。私は見たことありませんけど。もちろん、エミリスさんのようにはっきりとした色の方も初めてです」
珍しいものを見て興奮した様子のマーガレットにアティアスが聞く。
「貴重な肖像画を見せてもらってありがとう。……それで今日来た本題に入って良いか?」
「あ、はい。すみません、時間使ってしまいまして……」
マーガレットは謝りながら、肖像画を箱に戻していく。
「王都にはドワーフ族のいる武器の工房があると聞く。知っていたら場所とか教えてもらえないだろうか?」
「ええと、それ私は詳しくないので、先輩を呼んできますのでしばらくお待ちくださいね」
「ああ、よろしく頼む」
そう言って、マーガレットは肖像画の箱と共に、また事務室に戻っていった。
しばらくして戻ってきたときに、彼女と一緒に現れたのは、小柄で髭を蓄えた筋肉質の男だった。
いつものように、朝食を食べながら本日の予定を共有する。
王都に来るのは3年ぶりだし、前とどう変わっているかを確認したかった。
「はい。ギルドでドワーフのいる工房を聞くんですか?」
「そうだ。人身売買の方は修理が片付いてからにしたい。慌てる必要はないからな」
「承知しました。……それにしてもこのソーセージ美味しいですねぇ」
朝食で出てきたソーセージは皮がパリッとしていて中はジューシー。焼き加減も完璧だった。
「王都はひき肉の料理が多いと聞いたな。ハンバーグも美味いぞ」
「へー。それじゃ、夕食はそれにしましょう」
エミリスは想像して涎を垂らす。
「ああ。……それじゃそろそろ出かけるか」
「はい。準備しますね」
◆
「大きすぎません⁉︎ ここ……」
ギルドに着くと、エミリスはその大きさに驚く。
今まで立ち寄った街で見たギルドとは比較にならない規模で、例えるなら小さめの学校ほどにも思えた。
「ここメラドニアのギルドの本部だからな。他の国にも広がってるけど、この国だと一番大きいな。ここを拠点にしてる冒険者も多いからな」
「私、ギルドって大きめの酒場が片手間にやってるくらいのイメージでしたよ……」
「小さな町だと事実そうだな。ギルドと酒場のどっちが本業かわからないくらいだし」
例えばテンセズだと、酒場の売り上げの方が多いだろうことは予想できた。
依頼の手数料は決められているため、冒険者が報酬を酒場で使ってくれる額の方が多いくらいなのだ。
2人はギルドに入り、受付でギルドの身分証を見せる。
「こんにちは。アティアスさんとエミリスさんですね。……えと、ご兄妹……ですか?」
若い女性の受付――名札にはマーガレットとある――が、名前を確認しながら問う。
「あ、いえ。ご、ご夫婦です……」
何故か緊張しながらエミリスが答えた。
「そうなんですね。名前だけだとわからないので、すみません。……こちらは初めてですか?」
「俺はだいぶ前に来たことはあるけど、これは初めてだな」
「あ、本当ですね。履歴に残ってます。ええと……3年位前ですか。仕事は受けてなさそうですが……。私が担当になる前ですね。では改めまして、受付のマーガレットと申します。よろしくお願いしますね」
アティアスの訪問履歴を確認したマーガレットは、笑顔で2人に礼をした。
「よろしくお願いします」
それに合わせて、2人も頭を下げる。
「それにしても貴女の髪、綺麗ですね……。まるであの肖像画みたい」
「肖像画ですか?」
マーガレットがエミリスを見て、うっとりと呟く。その言葉にエミリスは聞き返した。
「ええ。見ますか? ……模写ですけれど」
「はい、是非」
「それでは、少し待っていてくださいね」
そう言ってマーガレットは奥の事務室に入っていく。
事務室も広く、多くの人が書類と格闘しているのがちらりと見えた。
しばらして、マーガレットが抱えるようにして持ってきたのは、黒くて平べったい大きな箱だった。
そして受付台の上で、箱をそっと開けた。
「わぁ……! 綺麗な絵」
中には額に入った1人の女性を描いた肖像画が入っていた。
バラの咲く庭に佇む光景を描いたのだろうか。
絵の中央で微笑む女性はまだ若く、腰ほどもある長く鮮やかな緑色の髪、そして透き通るような赤い目で描かれていた。
「こちらの肖像画はメラドニアの最北、国境付近の遺跡で見つかったものを、模写して保管しているものです。……すごいでしょ?」
「ああ、初めて見たよ。……って、これエミーが以前聞いたってやつじゃないのか?」
アティアスは感嘆しながらエミリスに聞く。
「ええ、もしかしたらそうかもしれませんね。……もう確認の術がありませんけど」
以前ゼバーシュで、オスラムと言う魔導士から話を聞いた肖像画の特徴と、非常に似通っていた。
彼の祖先の魔導士を描いたもの、という話だった。
しかしその本人に確認しようにも、オスラムはもうこの世にはいない。
「あら、この肖像画をご存知なんですか?」
「いや、話に聞いたことがあるだけなんだ。……ここの人はみんな知ってるのか?」
アティアスが確認する。
マッキンゼ領でも目立たぬように気を使っていたが、王都でこの肖像画のことを知っている者が多いのかどうか。それが気になった。
「いえ、このギルドでも数人じゃないでしょうか。私は保管資料の整理が仕事なので知ってますけど、ものすごい量がありますからね」
マーガレットは普段学芸員のようなことをしているのだろうか。
「ふむ……。この肖像画について、詳しいことって分かるか?」
「いえ、模写した方が聞き取りしたメモは残っていますが、魔導士の祖先を描いたもの、と言われているだけですね。絵ですから、この髪の色なども実物かどうかわかりませんし」
残念そうにマーガレットは答えた。
概ねエミリスが聞いた内容と同じように感じる。
「……ただ、ごく稀に緑っぽく見える髪の方はおられるようですね。私は見たことありませんけど。もちろん、エミリスさんのようにはっきりとした色の方も初めてです」
珍しいものを見て興奮した様子のマーガレットにアティアスが聞く。
「貴重な肖像画を見せてもらってありがとう。……それで今日来た本題に入って良いか?」
「あ、はい。すみません、時間使ってしまいまして……」
マーガレットは謝りながら、肖像画を箱に戻していく。
「王都にはドワーフ族のいる武器の工房があると聞く。知っていたら場所とか教えてもらえないだろうか?」
「ええと、それ私は詳しくないので、先輩を呼んできますのでしばらくお待ちくださいね」
「ああ、よろしく頼む」
そう言って、マーガレットは肖像画の箱と共に、また事務室に戻っていった。
しばらくして戻ってきたときに、彼女と一緒に現れたのは、小柄で髭を蓄えた筋肉質の男だった。
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