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第四章 (王城 過去編)

閑話   パメラの思惑 

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私、パメラ・レナゼリシアはオランディア王国の貴族の中でも一目置かれるレナゼリシア侯爵の一人娘。
なんていったって、お父さまはこの国の領地の中でも一番大きなレナゼリシア領を統治しているんですもの。
しかも、お父さまが無償で武器を提供したおかげであの大戦にも勝利したと言われているし、国王さまからその功績を称えて勲章だっていただいたんだから!
だから、私にはものすごい相手との結婚が決まっていたの。

ものすごい相手って、実は……私はオランディアの国王陛下のお妃候補だったの。
だった・・・って、そう……今は過去の話。
私がお妃になるはずだったのに……突然お城に現れたとかいう男性に陛下を奪われてしまったの。

私ほど陛下に似合いの妃はいないのに、陛下はお優しいから突然現れたその人に同情して結婚までしてしまったのよ。
その時は悲しくて悲しくて、レナゼリシアからはるばる王都まで陛下に会いに行ったのに……会わせても貰えずにレナゼリシアに連れ戻された。
私はただ私の代わりに王妃になったその人がどういう人か見てみたかっただけなのに……。

迎えにきたお父さまからは今までにないほど怒られて、しばらくは部屋に監禁状態だったわ。
愛しいお母さまを亡くしたお父さまなら私の悲しい心を理解してくれると思ったのに。
ひどすぎるわよね。あの時は辛かったわ。

それからは王妃さまの噂を聞くだけで辛い日々を過ごしていたけれど、私の傷も癒えた頃ようやく陛下に会える機会が訪れたの。

今度陛下がレナゼリシア領に視察に来られるのよ。
しかもその間、我が家にお泊まりになるの。

陛下とお別れしてから3年。寂しかったわ。
その間、いろんなことを考えたわ。
お泊まりになった時に、私の方が良いってわかっていただけるようにって必死に閨の勉強もしたわ。

でも、陛下のことはもういいの。

だって、私には新しい相手ができたのだから。

その方は、アルフレッド=サンチェスさま。
お父さまに届いた陛下からのお手紙をこっそりと読んだら、彼のことが書かれていたの。
陛下と王妃さまと一緒に今回の視察に同行するって。
きっと陛下は私のことをずっと心に留めてくださっていたんだわ。
それで私のために縁談相手を連れてきてくださるの。

アルフレッドさまは遠国に住む公爵さまだそうだけど、陛下の遠戚で王家に通じる方らしく、家柄も申し分ないわ。
今は王城に住んでいらっしゃるそうだから、私と結婚すればわざわざ遠国に戻らなくてもこのレナゼリシアに住めばこの侯爵家も全てアルフレッドさまのもの。

新婚だと書いてあったけれど、どうせ政略結婚なら私の方がアルフレッドさまの利になるでしょう?
なんせ私はこのオランディア王国の貴族の中でも格の高い侯爵家の一人娘なんだから。
陛下もそれをわかった上で今回アルフレッドさまを同行させることにしたんだわ。

アルフレッドさまとその女にはここに泊まってもらって……そうね、彼女には睡眠薬でも飲んでぐっすりと眠っていただきましょうか。
その間に私はアルフレッドさまと甘い一夜を共にして、陛下にその事実を見せれば私とその娘のどちらをアルフレッドさまの伴侶にするべきかわかるでしょう?

だって、私はこのオランディア王国になくてはならないお父さまの娘よ。
娘が傷物にされてそのままポイされたら、お父さまはどう思うかしら?
お父さまの武器が他国に流出すれば、いくらこのオランディアが大国と言っても勝ち目はないでしょう?

陛下はアルフレッドさまにその娘との婚姻を破棄させて、私との婚姻を命令するに決まってるわ。
ふふっ。陛下は最初からそれが狙いね。

素晴らしい考えだわ。

えっ? どうやって睡眠薬を飲ませるかですって?

ふふっ。それはちゃんと考えているわ。

この屋敷の筆頭執事で私のお世話係でもあるヴォルフは紅茶よりもハーブが好きっていう変な味覚の持ち主で、
今日もせっせと屋敷の中庭の隅っこに作った畑でハーブを育てているわ。

あんな薬みたいな葉っぱの何がいいのかわからないけど、あれは使えるわ。

ヴォルフは普段来るお客さんには紅茶なのに、遠方から我が家にお客さんが来た時だけハーブティーをお出しするの。
あんな苦くてクソまずいものをお出しする意味がわからないけど、あの味に慣れさせておけば睡眠薬入りの紅茶を出しても気づかずに飲むはずよ。

「ヴォルフ、明日陛下たちが我が家に来られたら、またいつものハーブティーをお出しするんでしょう?」

「はい。お出しする予定でおりますが、何かございますか?」

「いい? アルフレッドさまが連れてくる女性のハーブティーだけうんと濃くしてお出ししなさい」

「えっ? なぜでございますか?」

「いいから! これは命令よ!」

私はヴォルフの弱みを握ってるの。
ヴォルフはね、お父さまのことを心の底から愛しているのよ。
身分違いだとかなんとか言って気持ちを伝えずにいるけれど、お父さまの下着を使ってアレ・・をしていたのを偶然目にしてしまって以来、ヴォルフは私のいいなり。
そりゃあね、そんなことをしていたなんてお父さまに知られたらすぐにこの家から追い出されてしまうものね。
だって、お父さまは今でも亡くなったお母さまを愛していらっしゃるのだから。

だから、ヴォルフが味方ならなんでもできるのよ。
ふふっ。明日が楽しみだわ。

そんなことを思っていたら陛下たちの到着日時を知らせる早馬がやって来た。
早馬が来るのは実はこれで3回目。
いつもなら王都を出発してから7日目の朝にようやく到着するというのに、今回はまだ4日目の夜だ。
今回の旅は驚くほどに進みが早い。
陛下たちは明日、ひとつ手前の休憩所に立ち寄ってお昼を過ぎてから我が家へお越しになるという最終連絡だった。

今回の夜会は視察日程の関係から陛下たちの到着された夜に開催が決まっていたこともあり、お父さまとヴォルフには陛下の進行状況の連絡が事細かにきていた。

その度にお父さまとヴォルフは招待客に夜会の日時を知らせる連絡をしていたけれど、最終連絡が来たことで明日の夜会は正式に決まった。

バタバタと夜会の最終準備の手配に追われるお父さまとヴォルフ、そしてメイドたちを後目に私は部屋へと戻り、ベッドに横たわった。

ふふっ。アルフレッドさまは私に会うのを心待ちにしていらっしゃるはずだわ。
ああ、早く明日にならないかしら。

私の心は羽のように軽く空を飛んでしまいそうなほど浮かれていた。

そしていよいよ陛下たちがやってくる時間になった。

私はドキドキしながらお父さまと共に屋敷の玄関に並んで陛下たちの馬車が到着するのを待った。

到着してまず降りてきたのは、陛下と王妃さま。
私から陛下を奪った王妃さまのお顔はどんなものかしら?
じっくりと拝見したのは初めてだけれど、男性とは思えないほど美しい顔立ちをしていらっしゃる。
この顔で陛下を誑かしたのかしら?

ふん。まぁ、女の私が負けたとは全然思わないけどね。
まあ、いいわ。私にはもうアルフレッドさまがいらっしゃるのだし。

まだかしら? と思っていると、後ろの馬車の扉が開かれた。

降りてきたのは赤髪で長身の男性。
まぁ……これがアルフレッドさま、お顔立ちが陛下に似ていらっしゃる。
やはり遠戚だけのことはあるわね。

って、女性を抱きかかえて降りてきた!!!

普通抱きかかえて馬車から降りてきたりする???
しかも下に降りても下ろそうとしないし。
体調が悪いのかと思ったけれど、笑顔浮かべててそうでも無さそうだし。

でも、抱きかかえられて降りてきたその女性の顔があまりにも美しくて目が離せない。
この人がアルフレッドさまの奥さま……。
嘘でしょう……。
こんなに美しいの??

でも、私も負けていないわよ。
なんてったって陛下のお妃候補だったんだから!
きっと夜会のドレスを着れば私の方が美しいって見せつけられるはず!

じっとアルフレッドさまの方ばかりを見ていたら、お父さまに叱られて慌てて陛下と王妃さまにご挨拶したけれど、
それでもアルフレッドさまたちから目を離すことはできなかった。

応接室へいって私の美しい挨拶カーテシーが終わった後も彼女はアルフレッドさまの膝に乗せられたまま。
いい加減おりなさいよ!!

心の中でそう凄んで見せたけれど、私の心の声が届くはずもなく女は膝に乗せられたままだった。
陛下たちの前なのにマナーがなってないわ、本当に。
顔が美しくてもマナーが悪けりゃダメね、クソ女だわ。

ふふっ。そんなクソ女にはバツを与えてやるわ。
ヴォルフのあのくそまずいハーブティーを飲んで苦そうな顔するのを見るの楽しみね。

ヴォルフは約束通り、陛下と王妃さま、そしてアルフレッドさまには薄い色のハーブティー。
女にだけ、濃い色のハーブティーを出していた。

ふふっ。あまりにも苦すぎて吐き出さなきゃいいけど。
でも、そんな姿見たらアルフレッドさまも幻滅するかも。
そうね、醜態見せてくれた方がいいわ。

笑いが抑えられなくて、少しニヤニヤしながらハーブティーを飲む女を見ていたら、一口飲んで吐き出すどころか
『爽やかな酸味がとても美味しくて旅の疲れが癒やされますね。私の好きな味です。ありがとうございます』なんて美しい声と笑顔でヴォルフにお礼を言っていた。

はぁっ? どういうこと??

てっきり苦くて吐き出すと思っていたのに!
もしかしてヴォルフが裏切った?
そんなことしたら絶対許さないんだから!

その後、陛下たちは部屋へとおはいりになり、私は急いでヴォルフを厨房へと引き摺っていった。

「どういうことよ! 濃いのを出しなさいって言ったはずよ!!」

「いえ、ちゃんとお出ししました。これと同じものです」

ヴォルフに差し出されたカップを一気に飲んで、あまりの苦さに思いっきり吐き出した。

「ゲホッゲホッ。にがっ!」

すかさずハンカチを差し出してきたヴォルフから引ったくるように取り上げながら、

「じゃあ、なんであの人は吐き出さなかったのよ!」

と文句を言うと、

「詳しくは分かりませんが、おそらく同じくらいの濃さのハーブティーを飲んで味を知っていらっしゃるのかもしれません。
疲れを癒すとおっしゃっていましたので、きっとあのハーブの効能もご存知かと」

と言ってきた。

「はぁっ? 効能? あんたが何言ってるのか意味がわからないわ。もういい! 
とにかく彼女はあの味に慣れてるってことでしょう? ならもういいわ」

「お嬢さま、あの方によからぬことをお考えではないですよね?」

「な、何をいうの? そ、そんなこと考えるわけがないでしょう。
ただ、苦いのを飲ませるっていう悪戯をしてみたかっただけよ」

訝しそうな目つきで私をみるヴォルフの元から急いで逃げた。
ヤバっ、何か感づかれてる?

でも、大丈夫。

あの女が苦いのに慣れてるのがわかったから、夜会であの女が飲むものに睡眠薬を入れて渡せばいい。
多少苦くてもあんなのが飲めるんだから薬が入ってても気づくわけないわ。
あの女がヴォルフと一緒で変な味覚の持ち主でよかったわ。ふふっ。
私が持ってるあの睡眠薬なら効き目が出る頃には夜会も終わってるし、ちょうどいいわ。

アルフレッドさまたちが泊まる部屋の下の部屋からこっそり寝室に入れる方法があるのよね。
ふふっ。私がそのことを知ってるなんて誰も知らないから気づかれることもないし。
きっとアルフレッドさまが私を気に入って呼びつけたとみんな思うに決まってるわ。

そうだ、ついでにアルフレッドさまの夜会の飲み物に精力剤を混ぜておこうかしら。
まだお若いアルフレッドさまの身体が疼いたときに、ぐっすり寝入ってる女と、美しい身体で誘う私、どっちに手を出すかなんて分かりきってるわよね。

ああ、今夜が楽しみでたまらないわ。
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