上 下
65 / 262
第四章 (王城 過去編)

閑話  アンドリュー王の願い

しおりを挟む
「ねぇ、ちょっとはグラっと来ちゃった?」

嵐のような出来事が起こり、フレデリックが伴侶を連れて出て行った部屋で茫然とその場に立ち尽くしていると、突然トーマからそんな声を投げかけられた。

「――なっ! そんなわけが無いだろう!」

「ふぅーん。その割には大事そうに柊くんのこと抱き抱えてたみたいだけど……」

その言葉に内心ドキリとした。

あの可愛らしい言葉と仕草で私の元へと一直線にやってきたあの子。
可愛すぎてぎゅっと抱きしめたくなるほどだった。

『ちゅーして』
そう言いながら、ツンと突き出したあの小さくて柔らかそうな唇が近づいてきたときには、フレデリックやトーマがいることすら忘れて、一瞬それを味わいたいと思ってしまったのは事実だ。

フレデリックに突き飛ばされてその思いは叶わなかったが……。いや、叶わなくて良かったんだ、本当に。

「柊くん、可愛いからアンディー好みかもね。
僕なんかよりずっと素直だし……」

少し拗ねた様子でそんなことを言い出すとは……トーマらしくない。
もしかして妬いているのか?

「トーマ、私が愛してるのは其方だけだ。わかってるだろう?」

私はさっとトーマを抱きしめ頬を優しく撫でた。

トーマは照れながらも頬を撫でる私の手に自分の手を重ね合わせて、

「ごめん、ヤキモチ妬いちゃった」

と小さく呟いた。

「いや、トーマを不安がらせた私が悪い。
私がトーマだけを愛しているとちゃんと分からせたほうがいいな」

「えっ?」

私はそのままトーマを抱き抱え、寝室へと向かった。

「ちょっ……アンディー、まだ仕事中でしょ!」

「仕事よりトーマを安心させる方が私には大事なことだ」

「ああ……っちょ……、まって……」

「待たない」

トーマの弱いところはもう分かっている。

あの痣がどうやら性感帯になっていると気づいたのは偶然だった。

初めてトーマと身体を繋げた時、服を脱がせた肩に見慣れぬ模様を見つけた。

「なんだ、この痣は? 五芒星?」

「ぼ、僕の一族の直系男子にだけ出る痣だよ」

「痛みはあるのか?」

「いや、そんなのはないけど……そんなにじっくり見られると恥ずかしい」

ならばとその痣に口付けると、

「ひぁぁ……っん」

と可愛らしい喘ぎ声をあげたのだ。

「なに? 今の……」

私が口付けた途端、身体の中をビリビリと電流が流れていくような痺れを感じたらしい。

ふふっ。面白いことを聞いたな。

私は指先でトーマの胸の先を弄りながら、痣に吸い付いてみた。

「やぁ…………ぁん、ああ……っ!」

先ほどよりも大きな声を上げたかと思うと、トーマのモノからビシャと白濁が噴き出していた。

「これだけでイッてしまったのか……ういなやつだな」

その言葉にパッと顔を赤らめ恥じらうトーマが可愛くてもっとその顔を見ていたくなって、トーマが出した白濁を指先に付け、トーマに見せつけるように舐めとってやると、

「や……っ、そ、んなのきたな……っ」

真っ赤な顔をして私の指を外しにかかった。

しかし、私は驚いていた。

「甘い……、まさか其方が唯一だったとは……」

そう、トーマの蜜が甘いことに気付いたのもこの時だった。

私はトーマとの初めての交わりで私しかわからないことに2つも出会ったのだ。

あの時以来、私とトーマが愛を交わすときにはいつもあの痣を愛でてからというのが約束事となった。

「やぁ……っ、らめっ……そこ、ばっか……、ああ……っん」

「トーマの『だめ』は『もっと』という意味だろう?」

私はトーマと出会うまでは淡白で交わりにもあまり興味もなかったから、自分に嗜虐的な嗜好があるとは思ってもいなかった。

嗜虐的といってもトーマの身体を傷つけたいわけでも苦しめたいわけでもない。
恥ずかしいことを言わせて、鳴かせて、私がいなければ我慢ができないような身体に作り替えたい……ただそれだけだ。

今日は5回ほどイッたあと、トーマはそのまま眠り込んでしまったが、私の愛はちゃんとトーマに伝わったようだ。
柔かな笑顔を浮かべ、私にくっついて離れようとしないトーマの身体を風呂で清め、綺麗な夜着に着替えさせたあと、私はトーマの隣に横たわり、あの子シュウのことを考えていた。


あの子は初めて会った時から可愛すぎたな。

トーマとよく似た顔立ちのあの子は、トーマがこの世界にやってきた頃よりもずっと幼く見えた。
緊張の面持ちをしながらもトーマには最初から心を開いて物怖じせず話をする様は、私にトーマがこの世界に初めてきた時のことを思い出させてくれた。

フレデリックに雛鳥のように守られ愛されて、それを何の躊躇いもなく受け入れているあの子がとてつもなく可愛く見えた。

今まであの子への感情を一体なにと表現していいのか分からずにいたが、今日の出来事でよく分かった。

トーマに対する愛情とはまた違う愛があの子にはある。
そう、あの子は私にとっても可愛い息子なのだ。

くるくると変わる表情と愛らしい言葉遣い、そして心を許したものに見せる屈託のない笑顔。
どれもが私の心を惹きつけてやまない。

どうかあの笑顔が曇ることのないように、ずっと幸せでいて欲しい。
いつか我々と違う時代を過ごすことになったとしても……。

私はトーマだけを一生愛するから、フレデリックも例えどんな世界に・・・・・・なっていたとしても・・・・・・・・・シュウだけを一生愛してやって欲しい。

それが私の……いや、私たちの願いだ。
しおりを挟む
感想 74

あなたにおすすめの小説

【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~

楠ノ木雫
BL
 俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。  これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。  計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……  ※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。  ※他のサイトにも投稿しています。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたアルフォン伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 アルフォンのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

処理中です...