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第一章
威圧に怯える
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<sideベン(公爵家執事)>
1歳の誕生日を迎えられたアズールさまをルーディー王子に預け、私はそのまま旦那さまと奥さまのお部屋に向かった。
アズールさまがお目覚めになったら、すぐに呼ぶようにと昨日ルーディー王子に頼まれていたことを旦那さまにも報告していたから、きっと今頃は旦那さまも奥さまもお目覚めになっているはずだ。
それくらい、獣人であられるルーディー王子の気配は強い。
旦那さまを始め、公爵家のお方は同じ狼族であるからそこまで恐ろしくは思わないだろうが、私のような狐族から見れば、時折現れる威圧感たっぷりの威嚇には恐怖すら感じてしまうほどだ。
けれど、ルーディー王子が初めてこの公爵邸にお泊まりになって以降、ルーディー王子からこの屋敷の使用人に対する威圧は減ったように思う。
旦那さまにそれとなくお尋ねしたところ、ルーディー王子が自らの感情を制御できるようになったからだろうということだった。
だが、今日はルーディー王子が待ち侘びていらっしゃったアズールさまの1歳のお誕生日。
だからこそ、今日は少し感情が溢れてしまっているのだろう。
それでも私にお礼を言ってくださったルーディー王子からは優しさが溢れ出していてホッとした。
旦那さまと奥さまの部屋の外から、声をかけるとすぐに旦那さまが扉を開けてくださった。
「ベン、王子がお越しになったのか?」
「はい。先ほどアズールさまとお会いになりまして、ただいまお部屋にいらっしゃいます。今ごろは御衣装をお二人でご覧になっているかと存じます」
「そうか、なら我々も準備を始めよう。大広間の準備は終わっているか?」
「はい。滞りなく整っております」
「よし。アズールの着替えは朝食後にアリーシャがする。すぐに朝食の支度をして、二人をダイニングルームに呼んでおいてくれ」
「承知いたしました」
いつもよりかなり時間は早いが、ルーディー王子が朝からお越しになるとわかっていたから、用意も問題ない。
あっという間にダイニングルームに食事の支度を終え、ルーディー王子とアズールさまのお部屋に呼びに行った。
扉を叩くと、すぐにルーディー王子に抱きかかえられたアズールさまが嬉しそうに出てこられた。
「べんっ! あじゅーる、ふく、ちゅごいよ」
「まぁまぁそれは楽しみでございますね。どんな御衣装なのですか?」
「ふふっ。るーと、おちょろい」
「お揃いでございますか。それはよろしいですね。アズールさまが王子のように格好よくおなりになるのですね」
「ちょう!! おーじちゃまになりゅの。いいれちょー」
得意げな表情で嬉しそうに笑う姿を、ルーディー王子がこの上ないほど優しい目で見つめているのがわかる。
ああ、本当にこのお二人は運命の番でいらっしゃるのだな。
まだ舌足らずなアズールさまだが、会話はしっかりとできている。
ルーディー王子もそれは嬉しいことだろう。
「それで、ベンは何しにここに?」
「失礼いたしました。少し早い時間ではございますが、朝食の用意が整いましたのでお迎えに参りました。朝食を終えられましたら、奥さまがアズールさまのお支度をなさるそうでございます」
「そうか。なら、早く朝食を食べるとするか。アズールもお腹が空いただろう?」
「おなか、ちゅいた――きゅるるっ。あっ、おなか、なっちゃーっ」
「――っ!!」
頬をほんのり赤く染めて、恥ずかしそうにルーディー王子を見上げるアズールさまのなんと可愛いことだろう。
あまりにも可愛い姿に思わず見入っていると、一気に尻尾が逆立つような恐怖を感じた。
恐る恐る顔を上げると、ルーディー王子からいままで感じたことのない威圧感を感じる。
「ひぃ――っ!!」
大声が出そうになったのを必死に押し留めながらも、恐怖の声が少し漏れてしまった。
「べん? どうちたの?」
「い、いえ。あ、あの……なんでもございません。ダイニングルームでお待ちしております」
案内もせずに逃げるとは執事として怠慢だと言われるかもしれない。
だが、あの場に留まることなどできるはずもなかった。
おそらく、アズールさまのかわいらしいお顔を私が拝見してしまったことがルーディー王子は気に入らなかったのだろう。
旦那さまも奥さまの可愛らしい姿を独占しようとなさるところがあるが、ルーディー王子はそれ以上だ。
まだ尻尾が恐怖で逆立ったままだ。
久々にあんな恐怖を味わった。
他の者たちにも、ルーディー王子がいらっしゃる時にアズールさまの可愛い姿に遭遇することがあればすぐにそこから退避するようにしっかりと申し送りをしておかなくては。
それにしてもあの威圧に全くお気づきにならないアズールさまは、本当にすごいとしか言いようがない。
1歳の誕生日を迎えられたアズールさまをルーディー王子に預け、私はそのまま旦那さまと奥さまのお部屋に向かった。
アズールさまがお目覚めになったら、すぐに呼ぶようにと昨日ルーディー王子に頼まれていたことを旦那さまにも報告していたから、きっと今頃は旦那さまも奥さまもお目覚めになっているはずだ。
それくらい、獣人であられるルーディー王子の気配は強い。
旦那さまを始め、公爵家のお方は同じ狼族であるからそこまで恐ろしくは思わないだろうが、私のような狐族から見れば、時折現れる威圧感たっぷりの威嚇には恐怖すら感じてしまうほどだ。
けれど、ルーディー王子が初めてこの公爵邸にお泊まりになって以降、ルーディー王子からこの屋敷の使用人に対する威圧は減ったように思う。
旦那さまにそれとなくお尋ねしたところ、ルーディー王子が自らの感情を制御できるようになったからだろうということだった。
だが、今日はルーディー王子が待ち侘びていらっしゃったアズールさまの1歳のお誕生日。
だからこそ、今日は少し感情が溢れてしまっているのだろう。
それでも私にお礼を言ってくださったルーディー王子からは優しさが溢れ出していてホッとした。
旦那さまと奥さまの部屋の外から、声をかけるとすぐに旦那さまが扉を開けてくださった。
「ベン、王子がお越しになったのか?」
「はい。先ほどアズールさまとお会いになりまして、ただいまお部屋にいらっしゃいます。今ごろは御衣装をお二人でご覧になっているかと存じます」
「そうか、なら我々も準備を始めよう。大広間の準備は終わっているか?」
「はい。滞りなく整っております」
「よし。アズールの着替えは朝食後にアリーシャがする。すぐに朝食の支度をして、二人をダイニングルームに呼んでおいてくれ」
「承知いたしました」
いつもよりかなり時間は早いが、ルーディー王子が朝からお越しになるとわかっていたから、用意も問題ない。
あっという間にダイニングルームに食事の支度を終え、ルーディー王子とアズールさまのお部屋に呼びに行った。
扉を叩くと、すぐにルーディー王子に抱きかかえられたアズールさまが嬉しそうに出てこられた。
「べんっ! あじゅーる、ふく、ちゅごいよ」
「まぁまぁそれは楽しみでございますね。どんな御衣装なのですか?」
「ふふっ。るーと、おちょろい」
「お揃いでございますか。それはよろしいですね。アズールさまが王子のように格好よくおなりになるのですね」
「ちょう!! おーじちゃまになりゅの。いいれちょー」
得意げな表情で嬉しそうに笑う姿を、ルーディー王子がこの上ないほど優しい目で見つめているのがわかる。
ああ、本当にこのお二人は運命の番でいらっしゃるのだな。
まだ舌足らずなアズールさまだが、会話はしっかりとできている。
ルーディー王子もそれは嬉しいことだろう。
「それで、ベンは何しにここに?」
「失礼いたしました。少し早い時間ではございますが、朝食の用意が整いましたのでお迎えに参りました。朝食を終えられましたら、奥さまがアズールさまのお支度をなさるそうでございます」
「そうか。なら、早く朝食を食べるとするか。アズールもお腹が空いただろう?」
「おなか、ちゅいた――きゅるるっ。あっ、おなか、なっちゃーっ」
「――っ!!」
頬をほんのり赤く染めて、恥ずかしそうにルーディー王子を見上げるアズールさまのなんと可愛いことだろう。
あまりにも可愛い姿に思わず見入っていると、一気に尻尾が逆立つような恐怖を感じた。
恐る恐る顔を上げると、ルーディー王子からいままで感じたことのない威圧感を感じる。
「ひぃ――っ!!」
大声が出そうになったのを必死に押し留めながらも、恐怖の声が少し漏れてしまった。
「べん? どうちたの?」
「い、いえ。あ、あの……なんでもございません。ダイニングルームでお待ちしております」
案内もせずに逃げるとは執事として怠慢だと言われるかもしれない。
だが、あの場に留まることなどできるはずもなかった。
おそらく、アズールさまのかわいらしいお顔を私が拝見してしまったことがルーディー王子は気に入らなかったのだろう。
旦那さまも奥さまの可愛らしい姿を独占しようとなさるところがあるが、ルーディー王子はそれ以上だ。
まだ尻尾が恐怖で逆立ったままだ。
久々にあんな恐怖を味わった。
他の者たちにも、ルーディー王子がいらっしゃる時にアズールさまの可愛い姿に遭遇することがあればすぐにそこから退避するようにしっかりと申し送りをしておかなくては。
それにしてもあの威圧に全くお気づきにならないアズールさまは、本当にすごいとしか言いようがない。
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