1,628 / 1,906
妖魔山編
1611.エヴィの呪い
しおりを挟む
「ふん、よく分からぬ面妖な術を使う小僧だったが、所詮は相手の力を推し量れぬ半端者だったか」
『座汀虚』はエヴィの落ちて行く首を見ながら勝ち誇るようにそう告げると、視線を下に居る『イダラマ』達に向け直すのだった。
「お、おい! 本当に良かったのか、イダラマ!?」
こうなる前に手を差し伸べていればエヴィの命は助かっただろうに、そのまま助けに行く事もせずに『結界』の範囲を広げるに留まったイダラマに、コウエンはこれまでのイダラマの態度を省みたが、どうにもその彼のエヴィに対する扱いにちぐはぐさを覚えてしまい、眉を顰めて疑問を抱くのだった。
「全くコウエン殿は心配性ですな。先程も私は何も問題はない筈だと、そう申した筈でしょうに……」
だが、信じられない程に落ち着いた様子を見せるイダラマは、エヴィの首が地面に落ちたところをみても、全く動じる様子もなく、むしろエヴィを心配するような言葉を掛けたコウエンに対して、溜息を吐きながらそう返すのだった。
「い、いや、しかしだな……!」
コウエンは『同志』の『妖魔召士』と顔を見合わせながら、未だに本当によかったのかと焦る様子を見せたが、イダラマは更にそこで口を開くのだった。
「今いちど思い出してくださいよ、コウエン殿。この今の状況、何か思い当たる節はありませぬか?」
イダラマはそう告げると同時、地面に落ちたエヴィの首を一瞥する。
そしてそのイダラマに釣られるようにコウエンもエヴィの方に視線を向ける。
「むっ……!」
何かに思い当たったようで、コウエンはハッとした表情を浮かべると共に、声が口から漏れ出るのであった。
その様子にイダラマも首を縦に振って、正解だと暗に告げるのだった。
――そうなのである。
今のこのエヴィの状況とは、コウヒョウの町で『コウエン』が同じようにエヴィに対して『捉術』を放った時と瓜二つの状況なのであった――。
だからこそ『イダラマ』は何度も見てきた光景に、一切の慌てる様子を見せずに粛々と『結界』を張ったのであった。
そして頭上で勝ち誇っている様子の『座汀虚』もまた、急激に殺した筈の『存在』の『魔力』が膨大になっていく異変に気付き、イダラマ達を見ていた視線をその『存在』に向け始める。
更に首だけとなったエヴィの目が唐突に見開かれると同時、恐ろしい重圧が『座汀虚』を襲う。
「な、何だこれは……!?」
――それは『エヴィ』が放った『特異』の『力』だった。
エヴィが『死』と同等の苦痛を味わった時や、実際に『死』を体感した時に発動する彼特有の『金色の体現者』としての『力』である。
本来は敵や味方を問わずに、その場に居る全ての存在を対象に、彼が受けた苦痛と同等の苦しみや激痛を与えるという性質を持つ『力』ではあるのだが、エヴィ自身の『魔力値』を上回る者には『重圧』が圧し掛かっているという程度の効力しか齎さない……――、筈だったが。
「ぐっ!?」
突如として『座汀虚』は、自身に想像を絶する程の激痛が襲い始める。
何とエヴィよりも遥かに『魔力値』が高い筈の『座汀虚』だが、そのエヴィの『特異』の効力が、彼の『耐魔力』を完全に貫通して発揮されている様子であった。
――先程、エヴィは自身の扱う『力』の一つにして、相手の『耐魔力』を一般人以下にする事の出来る呪いを『座汀虚』に対して行使していたのであった。
大魔王『エヴィ』はこれまでの長い年月で自分の扱う『力』を隅々まで研究しており、自分に出来る事を最大限に有効活用するための戦闘での戦い方を熟知し、更には理解を終えている。
もちろんにこの結果を未来視したわけでも、予知を行ったわけでもない。
だが、自分の行う戦闘によって、その行く末である結果において、必ずこういう展開になるであろうという予測は出来ており、その予測を確立させるための行動指針といえる相手の誘導や、自分の行う攻撃手段の取捨選択など、幾度となく『九大魔王』として戦い続けてきた経験によって、予測が予見と呼んでも差し支えない程までに昇華しているといえた。
魔族『エヴィ』は、魔族『ソフィ』に認められし、たった『九体』しかいない『大魔王』なのである。
相手が自分より格上であろうが、そうでなかろうが、自分の出せる『力』をその最大限と呼べるところまで発揮させて活用し、戦闘を行う事を可能とする。
たとえその結果が力及ばずに敗れてしまおうとも、彼は戦闘手順に際しての後悔は限りなく『0』に等しい。
やれる事を十全にこなし、命が失われる最期の時まで決して諦観の念を抱かず、出来る事をやり遂げる。
そんな恐ろしい『九大魔王』にして、大魔王ソフィの忠実なる配下は、ゆっくりと首だけとなった目で『座汀虚』の様子を見上げると、同時に口角を吊り上げて笑みを作るのであった――。
『座汀虚』はエヴィの落ちて行く首を見ながら勝ち誇るようにそう告げると、視線を下に居る『イダラマ』達に向け直すのだった。
「お、おい! 本当に良かったのか、イダラマ!?」
こうなる前に手を差し伸べていればエヴィの命は助かっただろうに、そのまま助けに行く事もせずに『結界』の範囲を広げるに留まったイダラマに、コウエンはこれまでのイダラマの態度を省みたが、どうにもその彼のエヴィに対する扱いにちぐはぐさを覚えてしまい、眉を顰めて疑問を抱くのだった。
「全くコウエン殿は心配性ですな。先程も私は何も問題はない筈だと、そう申した筈でしょうに……」
だが、信じられない程に落ち着いた様子を見せるイダラマは、エヴィの首が地面に落ちたところをみても、全く動じる様子もなく、むしろエヴィを心配するような言葉を掛けたコウエンに対して、溜息を吐きながらそう返すのだった。
「い、いや、しかしだな……!」
コウエンは『同志』の『妖魔召士』と顔を見合わせながら、未だに本当によかったのかと焦る様子を見せたが、イダラマは更にそこで口を開くのだった。
「今いちど思い出してくださいよ、コウエン殿。この今の状況、何か思い当たる節はありませぬか?」
イダラマはそう告げると同時、地面に落ちたエヴィの首を一瞥する。
そしてそのイダラマに釣られるようにコウエンもエヴィの方に視線を向ける。
「むっ……!」
何かに思い当たったようで、コウエンはハッとした表情を浮かべると共に、声が口から漏れ出るのであった。
その様子にイダラマも首を縦に振って、正解だと暗に告げるのだった。
――そうなのである。
今のこのエヴィの状況とは、コウヒョウの町で『コウエン』が同じようにエヴィに対して『捉術』を放った時と瓜二つの状況なのであった――。
だからこそ『イダラマ』は何度も見てきた光景に、一切の慌てる様子を見せずに粛々と『結界』を張ったのであった。
そして頭上で勝ち誇っている様子の『座汀虚』もまた、急激に殺した筈の『存在』の『魔力』が膨大になっていく異変に気付き、イダラマ達を見ていた視線をその『存在』に向け始める。
更に首だけとなったエヴィの目が唐突に見開かれると同時、恐ろしい重圧が『座汀虚』を襲う。
「な、何だこれは……!?」
――それは『エヴィ』が放った『特異』の『力』だった。
エヴィが『死』と同等の苦痛を味わった時や、実際に『死』を体感した時に発動する彼特有の『金色の体現者』としての『力』である。
本来は敵や味方を問わずに、その場に居る全ての存在を対象に、彼が受けた苦痛と同等の苦しみや激痛を与えるという性質を持つ『力』ではあるのだが、エヴィ自身の『魔力値』を上回る者には『重圧』が圧し掛かっているという程度の効力しか齎さない……――、筈だったが。
「ぐっ!?」
突如として『座汀虚』は、自身に想像を絶する程の激痛が襲い始める。
何とエヴィよりも遥かに『魔力値』が高い筈の『座汀虚』だが、そのエヴィの『特異』の効力が、彼の『耐魔力』を完全に貫通して発揮されている様子であった。
――先程、エヴィは自身の扱う『力』の一つにして、相手の『耐魔力』を一般人以下にする事の出来る呪いを『座汀虚』に対して行使していたのであった。
大魔王『エヴィ』はこれまでの長い年月で自分の扱う『力』を隅々まで研究しており、自分に出来る事を最大限に有効活用するための戦闘での戦い方を熟知し、更には理解を終えている。
もちろんにこの結果を未来視したわけでも、予知を行ったわけでもない。
だが、自分の行う戦闘によって、その行く末である結果において、必ずこういう展開になるであろうという予測は出来ており、その予測を確立させるための行動指針といえる相手の誘導や、自分の行う攻撃手段の取捨選択など、幾度となく『九大魔王』として戦い続けてきた経験によって、予測が予見と呼んでも差し支えない程までに昇華しているといえた。
魔族『エヴィ』は、魔族『ソフィ』に認められし、たった『九体』しかいない『大魔王』なのである。
相手が自分より格上であろうが、そうでなかろうが、自分の出せる『力』をその最大限と呼べるところまで発揮させて活用し、戦闘を行う事を可能とする。
たとえその結果が力及ばずに敗れてしまおうとも、彼は戦闘手順に際しての後悔は限りなく『0』に等しい。
やれる事を十全にこなし、命が失われる最期の時まで決して諦観の念を抱かず、出来る事をやり遂げる。
そんな恐ろしい『九大魔王』にして、大魔王ソフィの忠実なる配下は、ゆっくりと首だけとなった目で『座汀虚』の様子を見上げると、同時に口角を吊り上げて笑みを作るのであった――。
0
お気に入りに追加
421
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる