1,627 / 1,915
妖魔山編
1610.冷静に見届ける者
しおりを挟む
エヴィが『座汀虚』に首を掴まれる少し前、彼らの戦闘を空の下から見ていた『コウエン』と『イダラマ』は静かに言葉を交わしていた。
「『座汀虚』の奴が面倒なのは、遠距離攻撃を完全に遮断するあの『魔力』で出来た膜を自在に操る事にある。それに『妖魔退魔師』が『青』と呼んでおるあの技法を扱う事の可能な『座汀虚』は非常に厄介じゃ。あの小僧の面妖な術の数々も厄介な事ではあるが、流石にあの膜で大半のあやつの術は無効化される。初見で『座汀虚』とやり合うのは分が悪いじゃろう。イダラマよ、小僧を助けぬともよいのか?」
普段は少年の事を『麒麟児』と呼んで気に入っている様子を見せているが、常にエヴィが強者と戦う時、その戦闘中にイダラマが間に割って入るような真似をしない事に、甚く疑問を持っているのであった。
実際に『コウヒョウ』の町で、この『コウエン』自身とエヴィが戦う場面もあったが、その時もイダラマは『最上位妖魔召士』である『コウエン』との戦闘に加勢をする事もなく、自身の仲間達に被害が及ばぬように『結界』を施すに留まっていた。
考えてみればイダラマは、当初から『エヴィ』という少年が戦う時、何処か試すように観察を続けている。口ではエヴィを褒めたり称賛の言葉を告げるが、本当に彼の命を大事だと考えるであれば、もう少し違った行動を取るものではないだろうか。
コウエンはイダラマがこの場においても少年が危険な状態だというのに、全く助けに行く素振りを見せない事に違和を感じざるを得ず、実際に助けなくていいのかと言葉を出してイダラマに告げたのだった。
「ふふっ、先日の一件以来、麒麟児の事を懸念に思っていた貴方が、私にそのような事を言うとは驚きだな」
「むっ……?」
しかしイダラマから返ってきた言葉は予想とは違い、助ける助けないという話ですらなかった。
「当然に彼に命の危険が迫れば私が手を出す事も吝かではないですが、まぁまだまだ『座汀虚』くらいが相手であるならば、問題はないでしょう」
「な、何じゃと? それは一体どういう……」
「ほらほらコウエン殿。私と悠長に喋っていると、彼の大事な場面を見逃してしまいますよ?」
そう言ってイダラマは強引に会話を打ち切ると、コウエンに『座汀虚』にやられそうになっている『エヴィ』を見ろと急かす。仕方なくその言葉に視線を上にあげるコウエンだった。
そしてそこには『エヴィ』の攻撃を見事に耐えきった『座汀虚』が、エヴィの首元を掴むのであった。
「主の面妖な術の数々に驚きはしたが、儂の息の根を止めるまでには至っておらぬっ!」
『座汀虚』はそう告げると掴んでいる手に『魔力』を集約し始める。
『妖魔召士』の使う捉術である『動殺是決』のような使い方を始めたが、この『座汀虚』が使うそれは対象者の脳に直接作用するような代物ではなく、単に首を掴んでそのまま『魔力』を用いて爆発させようとしているだけのようであった。
しかしその単純な攻撃だが、これが元々高ランクの『天狗』」が更に『青』のオーラを纏わせて放とうとしているのだから、恐ろしい攻撃だという事に変わりはない。
何とか掴まれている首を外そうと力を込めるエヴィだが、単に握力だけではなく格上の存在である『座汀虚』の『魔力』が込められている為に、エヴィは外す事が出来ないでいた。
「かっ、くっ……!」
『座汀虚』を睨みつけていたエヴィだが、徐々に表情が苦しさを表していく。
「よくぞそこまで耐え抜いて見せた。お主の『耐魔力』も大したものだ……。だが、儂とお主では『魔力』の絶対数そのものが違いすぎるのだ!!」
『瑠璃』の鮮やかなオーラを纏いその『魔力』を最大まで高めた『座汀虚』は、一気にエヴィの息の根を止めようと力を込めた次の瞬間だった。
『座汀虚』の力によってエヴィの首の骨はボキリッという音と共に折られた後、更にその勢い収まらぬまま一気に『座汀虚』は握り潰すように力を込めると、エヴィの首が胴から千切れてしまい、そのまま地面に向けて落ちて行ってしまうのだった。
「「!?」」
「……」
そのエヴィの最期の瞬間までを見届けた彼らは愕然とした表情を浮かべていたが、エヴィの首が地面に千切れて落ちるまで『イダラマ』だけは、この後に何が起きるかを予見するかのように冷静に行動を開始する。
イダラマの行動にいち早く気付いたコウエンは、エヴィの首を一瞥した後に、直ぐさまイダラマに視線を送る。
そしてその視線の先に居るイダラマは、冷静に自身と仲間達を守るように膨大な魔力をこれまで以上に費やすと同時に『結界』の範囲を広げ始めていくのだった。
「『座汀虚』の奴が面倒なのは、遠距離攻撃を完全に遮断するあの『魔力』で出来た膜を自在に操る事にある。それに『妖魔退魔師』が『青』と呼んでおるあの技法を扱う事の可能な『座汀虚』は非常に厄介じゃ。あの小僧の面妖な術の数々も厄介な事ではあるが、流石にあの膜で大半のあやつの術は無効化される。初見で『座汀虚』とやり合うのは分が悪いじゃろう。イダラマよ、小僧を助けぬともよいのか?」
普段は少年の事を『麒麟児』と呼んで気に入っている様子を見せているが、常にエヴィが強者と戦う時、その戦闘中にイダラマが間に割って入るような真似をしない事に、甚く疑問を持っているのであった。
実際に『コウヒョウ』の町で、この『コウエン』自身とエヴィが戦う場面もあったが、その時もイダラマは『最上位妖魔召士』である『コウエン』との戦闘に加勢をする事もなく、自身の仲間達に被害が及ばぬように『結界』を施すに留まっていた。
考えてみればイダラマは、当初から『エヴィ』という少年が戦う時、何処か試すように観察を続けている。口ではエヴィを褒めたり称賛の言葉を告げるが、本当に彼の命を大事だと考えるであれば、もう少し違った行動を取るものではないだろうか。
コウエンはイダラマがこの場においても少年が危険な状態だというのに、全く助けに行く素振りを見せない事に違和を感じざるを得ず、実際に助けなくていいのかと言葉を出してイダラマに告げたのだった。
「ふふっ、先日の一件以来、麒麟児の事を懸念に思っていた貴方が、私にそのような事を言うとは驚きだな」
「むっ……?」
しかしイダラマから返ってきた言葉は予想とは違い、助ける助けないという話ですらなかった。
「当然に彼に命の危険が迫れば私が手を出す事も吝かではないですが、まぁまだまだ『座汀虚』くらいが相手であるならば、問題はないでしょう」
「な、何じゃと? それは一体どういう……」
「ほらほらコウエン殿。私と悠長に喋っていると、彼の大事な場面を見逃してしまいますよ?」
そう言ってイダラマは強引に会話を打ち切ると、コウエンに『座汀虚』にやられそうになっている『エヴィ』を見ろと急かす。仕方なくその言葉に視線を上にあげるコウエンだった。
そしてそこには『エヴィ』の攻撃を見事に耐えきった『座汀虚』が、エヴィの首元を掴むのであった。
「主の面妖な術の数々に驚きはしたが、儂の息の根を止めるまでには至っておらぬっ!」
『座汀虚』はそう告げると掴んでいる手に『魔力』を集約し始める。
『妖魔召士』の使う捉術である『動殺是決』のような使い方を始めたが、この『座汀虚』が使うそれは対象者の脳に直接作用するような代物ではなく、単に首を掴んでそのまま『魔力』を用いて爆発させようとしているだけのようであった。
しかしその単純な攻撃だが、これが元々高ランクの『天狗』」が更に『青』のオーラを纏わせて放とうとしているのだから、恐ろしい攻撃だという事に変わりはない。
何とか掴まれている首を外そうと力を込めるエヴィだが、単に握力だけではなく格上の存在である『座汀虚』の『魔力』が込められている為に、エヴィは外す事が出来ないでいた。
「かっ、くっ……!」
『座汀虚』を睨みつけていたエヴィだが、徐々に表情が苦しさを表していく。
「よくぞそこまで耐え抜いて見せた。お主の『耐魔力』も大したものだ……。だが、儂とお主では『魔力』の絶対数そのものが違いすぎるのだ!!」
『瑠璃』の鮮やかなオーラを纏いその『魔力』を最大まで高めた『座汀虚』は、一気にエヴィの息の根を止めようと力を込めた次の瞬間だった。
『座汀虚』の力によってエヴィの首の骨はボキリッという音と共に折られた後、更にその勢い収まらぬまま一気に『座汀虚』は握り潰すように力を込めると、エヴィの首が胴から千切れてしまい、そのまま地面に向けて落ちて行ってしまうのだった。
「「!?」」
「……」
そのエヴィの最期の瞬間までを見届けた彼らは愕然とした表情を浮かべていたが、エヴィの首が地面に千切れて落ちるまで『イダラマ』だけは、この後に何が起きるかを予見するかのように冷静に行動を開始する。
イダラマの行動にいち早く気付いたコウエンは、エヴィの首を一瞥した後に、直ぐさまイダラマに視線を送る。
そしてその視線の先に居るイダラマは、冷静に自身と仲間達を守るように膨大な魔力をこれまで以上に費やすと同時に『結界』の範囲を広げ始めていくのだった。
0
お気に入りに追加
424
あなたにおすすめの小説
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️
異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる