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妖魔山編

1612.座汀虚の怒り

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「ぐっ……ぁっ!!」

 『耐魔力』を一般人以下にまで落とされた状態で、エヴィの『特異とくい』によって恐ろしい攻撃を受けさせられた『座汀虚ざていこ』は苦しみに表情を歪め続ける。

 直接手を肩に置かれて呪いの攻撃を受けさせられたとはいっても『座汀虚ざていこ』はこの苦しみを強いられている事が腑に落ちなかった。

 『妖魔召士』達の『魔力波』といえる『魔波空転まはくうてん』や、その『魔力』を明確に用いた攻撃手段での避け切れずに被弾した場合に受けるダメージとかであれば『座汀虚ざていこ』も反省のしようがあるというものだが、こと今回の首が胴体から離れている少年の攻撃は、全く予期する事が出来ない未知なる攻撃手法であるために、何をどうすればよかったのか、そしてこの後いったい自分がどうなってしまうのかが全く予想が出来ないのである。

(な、何なのだ! さ、先程までの数々の面妖な攻撃ですら、見たことがなく驚愕を覚えたものだが、こ、この、この攻撃は、い、一体何だというのだ! き、気が遠くなる瞬間の後に恐ろしいまでの激痛が襲ってくる。し、しかし儂の痛む場所に外傷などは存在しておらぬ……。ふ、防げぬ攻撃が行われていたというのか、い、いやしかし……、だとしてもこの痛みを自在に相手に与える事が可能だというのであれば、儂はどうすればよいというのだ!)

 『エヴィ』の『特異とくい』によって想像を絶する痛みを与えられている『座汀虚ざていこ』だが、本来であれば今頃その痛みによって絶命を果たしていてもなんらおかしくはない状況である。

 そんな状態でパニックに陥っているとはいっても、まだ生存しながら更には、エヴィに対して戦闘の対策といった物事を考えられている『座汀虚ざていこ』の精神力は、流石は高ランクの『妖魔』にして『大天狗』と呼べるモノで間違いがなかった。

 やがて首だけであったエヴィの周囲に、おかっぱ頭の人形達がサラサラと砂で構築されていくと同時、その人形達の中心に居たエヴィにも身体が砂によって構築されていく。

 そして何事もなかったかの如く、エヴィは立ち上がると自分の手足の様子を確認する。

「さて、この僕に舐めた真似をしたアイツにとどめを刺そうか」

 更に蘇ったエヴィの周囲に『金色』のオーラが包み込むと、魔瞳まどうを用いたのだろうか。

 キィイインという音と共に、彼の目の色もまた『金色』に光り輝き、そしてゆっくりとその身体で空へと昇り、遂には空で苦しんでいる『座汀虚ざていこ』の前に到達する。

「き、貴様は一体、何者なのだ……。な、何故首を切断されて尚、そのように動けるというのだ……!」

 エヴィの事を人間の子供としか考えていなかった『座汀虚ざていこ』は、首を吹っ飛ばされたというのに何事もなかったかのように動き始めて、そして未知なる攻撃を行ってくる目の前の存在に対して恐怖を覚えてしまうのだった。

「さぁ、何でだろうね? でもそんな事を今更君が知ったところで意味がないと思うな」

「う、うぬぼれるなよ、小僧! こ、この程度の痛みでやられる儂では……っ!」

「残念だけど、強がっても君はもう終わりだよ? 自覚がないようだから教えてあげるけど、今の君はもう『耐魔力』が無に等しい。普段の君がどれだけ戦力値や魔力値が高いのか知らないけど、もう僕の放つどんな攻撃でもたった一発でも当たれば君を死に至らしめられる。あ、でもそうだね、僕が君に攻撃をする前に、君が僕を殺す事が出来れば、死なずに済むかもしれないね? よしそうだな、このまま放っておいても君は僕の『特異』で死んじゃうだろうから、サービスで君に好きなだけ僕を攻撃させてあげよう! あ、でもあんまり時間掛けさせられたくないから十秒だけね? ほら、じゃあいくよっ! いーち……」

「なっ……、んだっと!?」

 先程の『特異』の攻撃を受けたせいでズキズキと痛みが続き、何度か意識が遠のきかけていた『座汀虚ざていこ』だが、まるで煽るような台詞を吐いたエヴィに我慢がならず、何とか持ち前の精神力と、この出来事によって怒りが生じて脳からノルアドレナリンが分泌されていき、やがてそれはアドレナリンによって身体能力が高まり、一時的に痛みを忘れさせる程の効力を発揮するのだった。

「ほらほら、がんばれ! にー、さーん、よーん……」

「図に乗るなぁっ! こ、このクソガキがぁっ!!」

 『座汀虚ざていこ』は額に青筋を浮かべながら、必死に『青』で魔力を高めると、目の前の容赦が出来ない『敵』に向けて『魔力波』を放つのだった――。
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