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『特別な人』138

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「え~と、何か……話があります?」

 それとなく水を向けると相馬さんが
「今更で言いにくいことなんだけど、うん、あるね」
 勿体付けたような分かりずらい返事を返してきた。


「なんでしょう?」

「俺とのこと考えてみてくれないだろうか」

「えっ、それって……」

「結婚を視野に入れた交際を考えてみてほしいんだ」

「あの最初に私たちで取り決めした約束は反故にするということですか?」

「そうなるね」

「それって本気なんですか」

「……」

 相馬さんは無言で頷いた。

 驚いたってもんじゃないくらい私は驚いた。

『またどうしてそんな気持ちになったんですか』
と訊きたかった。


 だって予兆などなく、余りにも突然過ぎたから。

 でも実際面と向かって相手にそんな無粋なことを訊けるわけもなく。


「まずは、そんな風に言ってもらってありがとうございます。
 私、毎日相馬さんとの仕事が楽しくて……それに遣り甲斐も感じてるし、
短期間で辞めたりしたくありません。

 私は交際していて上手くいかなくなった時に、それでも相手と一緒に
仕事していけるほど強い人間じゃありません。

 だから……。
 一緒に同じ仕事をしている間はお付き合いできません」


「違う部署で仕事が絡んでいなければ、俺と付き合ってくれたのかな?」

「可能性はあったと思います」

「そっかー、そうだよね。
 それでお互い恋愛感情を挟まないって約束してたんだもんな」

「そうですよ。だから今の話は聞かなかったことにします」


「ね、じゃあこういうのはどう?
 将来お互いのどちらかが異動になったら付き合うっていうの、
 考えてみてくれないかなぁ」

「今から約束はできませんけど、その時に考えさせて下さい、
というのは駄目ですか?」

「いや、いい。可能性があるならそれでいいよ、ありがとう。
 ……あのさ、もうひとつお願いっていうか、言っておきたいことが
あるんだけど」


「何ですか?」

「その考えてくれるっていう日まで他の男とは付き合わないでいて
ほしいんだ」


「一緒に食事したりとかも駄目ってことですか?」


「まぁ、そうだね」

「……」

 花は即答できなかった。
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