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『特別な人』59

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「あれほど偶然とは思えない不運が次々と自分の身に起こり反省するのかと
思いきや、よほどオツムが緩いようで同じことを繰り返すからですよ。

 島本さん、私は花の祖父の向阪茂という者だ。

 あなた、いや、お前のせいで孫がふたり不幸になった。
 まだ覚えてるかな。

 いろいろ調べているうちにすごいことが分かった。

 お前は実の姉の恋人も10年ほど前に寝取ってるじゃないか。

 次が花と匠吾の仲を引き裂き、島へは渡って3ヶ月しか経っていないと
いうのに、看護師から恋人を奪っただろ。

 人の大切なモノを奪っても法に触れなければいいのか?
 法がお前を許しても私がお前を許しはしないよ。

 本州から島へ逃亡した時お前には真面目に暮らしていれば
この先の制裁は許そうと思ってたがそうもいかなくなった。

 そうそう、島の家では何気に井出にまですり寄ってたの聞いたよ」





「プライバシーの侵害よ」



「よく聞きなさい。ふたつにひとつだ。
 山奥の温泉街でその自慢の身体を使って働くか、山奥の寺に入って
剃髪して仏門に帰依するか、選びなさい」



「どちらもお断り」


 玲子は急いで入り口に向かって逃げようとした。

 だがすぐ入り口の近くにいた井出ともう一人の男に摑まり
椅子へと戻された。





「じゃあ神戸湾の奥深く沈んでみるかい。
 これ以上お前のせいで不幸な人間が出ないようにしないといかん」


 玲子はこれ以上逆らうと本当に海に沈められるかと恐怖に震えるのだった。



          ◇ ◇ ◇ ◇




 その日を境に数年後、山奥できれいなお坊さんを見たという人あり、
また山奥にある温泉街に行くとめっぽうきれいで男好きする女がいると
聞いたりするそうな。



 その後両親の暮らす家には玲子直筆の手紙が届いた。



 そこには『離島で暮らすことにしたので探さないでください。
 警察にも届けを出さないように』と書かれてあったそうな。


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