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『特別な人』58

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「ほう、あなたが島本玲子さんか、ようこそ、このオフィスへ。
ここへ来なくて済めばよかったのだが……まぁ、しようがないね」


 何を言われているのか全く分からない私は、反射的に入り口付近に
立っているはずの井出さんの姿を探した。

 私が振り向いても一度も見てくれず、今まであんなに親切にしてくれて
一緒に暮らしていた人なのに、何がどうなっているのか? 

 自分の見知っていた面影を彼のどこにも見つけられず、
私はますます混乱した。

 心細くなって彼の名前を呼んだ。

「井出さん、井出さん、どうしてこんなところに私を連れて来たの」


 井出さんは前を見たまま私の方を見ることはなかった。

 彼の代わりに目の前の初老の男性が口を開いた。


「彼は私のボディガードでね、今は勤務中だからあなたとの私語は
許されてないんですよ、島本さん」


「でも離島まで連れて行ってくれて一緒に暮らしてたんですよ、私たち」


「それも私が頼んだ仕事だからですよ。

 だからここへもあなたを連れて来た。
 井出はやさしい奴ですよ。

 筋書きにはなかったのに3年大人しく島で暮らしていれば、どうにかなる……と
いうようにあなたにそれとなくアドバイスしてましたからね」

「どうしてそれを」

「知ってるかって? あの家は盗聴されてたからね」

「あなたの指示で?」

「そうですよ」

「じゃあ井出さんは……」


「知ってたか、知らなかったか、私には分かりません。
 ただ私からは盗聴器をしかけるとは一言も話してませんがね」


「私を逃がしてくれたのにどうして又私はここに
連れて来られたのでしょう?」




-6-     '24.2.29
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