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186:ゴブリンの王4
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「ニース~、上手く囲い込めたわ~、次いきましょう~」
フィーネに誘導されながらニースは、ゴブリンの群れの一部を土壁で囲う事で、ゴブリンキングによる吸収から守ろうとしているのだ。
作業は思っていたよりも順調に進んでいた。ユーリの成長に伴いニースが成長した事で、土壁の展開速度とサイズが更に上がっていたのだ。
その作業に当たっているのは、フィーネとルピナスに同乗しているシルフィーそして、ニースの三精霊だった。
フィーネとシルフィーは作業の指示役を担っていたが、要するにニースのお守り役だった。
他の加護精霊達は上位精霊たるセルフィーナを含めて、今現在もゴブリンを倒して吸収を行っているゴブリンキングにより近い場所から監視を行っていた。
ゴブリンキングは、今のところ物理攻撃しか行使していないが、強力な遠隔攻撃手段がないとは言い切れないので、もし何かあった場合に備え【ウィンドウォール】を即座に重ね掛け可能な体制が取られているのだ。
「それにしても不気味ね……夢中になって吸収しているわ……幸い、こちらの存在に全く気がついていないみたいだけど、情報も不足してるしその辺りも含めて不気味だわ」
群れの配下のような存在を次々と倒してはその屍を吸収する不気味な姿が遠目で見えた。
シルフィーは、エルフィーデにも具体的な情報が何もないゴブリンキングに未知の存在に対する説明がつかない不安のような物を感じているのだった。
「確かに不気味ねえ~、でもとにかく今は少しでも吸収の邪魔をしないとね~。……あら、もう来たようね思っていたより早かったわね~」
フィーネが見つめるその先には、急進してくるガザフ領軍の姿が見えたのだった。
◻ ◼ ◻
「土壁でのゴブリンの群れの分断は順調のようです。ゴブリンキングの吸収行為は今も進行中ですが、キングの周囲にいるゴブリンの数は残り五千にも満たない模様です」
斥候からの報告を受けたダスティン辺境伯は、即座に指示を出した。
「全軍前進! 射程に入り次第【雷炎】の詠唱に入る。ミゼル子爵、お主もワシと共に同時詠唱に入れ。他の者は防御体制を維持し吸収を邪魔されたゴブリンキングからの反撃に備えよ」
ダスティン辺境伯の指示を受けガザフの騎士達が前進を開始した。その中には騎士装備ではなくマリアが使っていたような両手杖と魔力を帯びたフード姿のミゼル子爵の姿があった。
「ニールセン、ゴブリンキングへの先鋒はお前に任せる。一当てして強さを見極めよ」
ダスティン辺境伯は義勇軍の指揮を執っているニールセンにそう声を掛けた。
「閣下! 一撃で倒してしまうかもしれませんなあ」
老騎士ニールセンは白い髭を弄りながら愉しそうに後ろにいる義勇軍の面々を見やった。
「ニールセン殿、ワシは足が早いので追い抜いてしまうかもしれんなあ」
「一撃で無理そうなら俺がいただくぜ!」
他の老騎士や同行している元探索者のゼダ達からもそんな声が上がった。
「お前達、死ぬなよ」
ダスティン辺境伯はそう一言呟くと、展開を開始した部下達の元に向かったのだった。
◻ ◼ ◻
ニースの土壁での分断と皮肉にもゴブリンキング自らによる吸収によって数が減らされた事で、ガザフ領軍の前進は至って順調に行われ【雷炎】の射程を考慮した距離にて展開を終えていた。
騎士達は弓歩兵部隊に支給された物より一回り大きい盾を構えて防御陣形を敷いていた。
左右を騎士団に囲まれた状態でダスティン辺境伯とミゼル子爵は共に詠唱を開始している。
二人の周囲には膨大な魔力循環の流れが渦巻き、その圧力は二人から離れた位置に展開している騎士団の者達にも感じられるほどだった。
だがそれはゴブリンキングにも同様に伝わったようだった。だが既に詠唱が完了して放たれる寸前である事を感覚で理解したのかもしれない……無駄にその場から動こうともせず、吸収行為を止めるとゴブリンキングの周囲に黒い魔力が立ち込め始めた。
それは黒い禍々しい【ウィンドウォール】のような物を形成すると、ゴブリンキングの周囲を覆い包んだ。
「【ファイアストーム】」
両手杖を握ったミゼル子爵の前に、炎の渦巻きのような物が生まれゴブリンの群れに向かって放たれた。
炎の渦巻きはゴブリンの密集する群れに突入すると周囲のゴブリンを巻き込むようにして焼き尽くし始めた。
「【雷炎】」
その炎の渦巻きがゴブリンの群れを蹂躙し始めた事を確認したダスティン辺境伯は、素早く【雷炎】を放った。
光と赤い炎の斬撃は放射状に拡がり、同時に炎の渦巻きをも切り裂いた。
周囲には切り裂さかれた炎の渦巻きの爆発が拡がり、切り裂いた炎の渦巻きから炎の魔力を吸収した斬撃は、更に巨大になり群れ全体を飲み込んでしまった。
「おおお!」
周囲から驚きとも歓声とも取れるようなざわめきが起こった。だが暫くするとそのざわめきが静けさに取って変わった。
爆風が収まり、そこにあったゴブリンの群れは黒い煙だけを残して消滅してしまった。
しかし、そこにはあの恐ろしい爆発と斬撃を浴びながらも、無傷で立ち尽くすゴブリンキングの姿があったのだった。
フィーネに誘導されながらニースは、ゴブリンの群れの一部を土壁で囲う事で、ゴブリンキングによる吸収から守ろうとしているのだ。
作業は思っていたよりも順調に進んでいた。ユーリの成長に伴いニースが成長した事で、土壁の展開速度とサイズが更に上がっていたのだ。
その作業に当たっているのは、フィーネとルピナスに同乗しているシルフィーそして、ニースの三精霊だった。
フィーネとシルフィーは作業の指示役を担っていたが、要するにニースのお守り役だった。
他の加護精霊達は上位精霊たるセルフィーナを含めて、今現在もゴブリンを倒して吸収を行っているゴブリンキングにより近い場所から監視を行っていた。
ゴブリンキングは、今のところ物理攻撃しか行使していないが、強力な遠隔攻撃手段がないとは言い切れないので、もし何かあった場合に備え【ウィンドウォール】を即座に重ね掛け可能な体制が取られているのだ。
「それにしても不気味ね……夢中になって吸収しているわ……幸い、こちらの存在に全く気がついていないみたいだけど、情報も不足してるしその辺りも含めて不気味だわ」
群れの配下のような存在を次々と倒してはその屍を吸収する不気味な姿が遠目で見えた。
シルフィーは、エルフィーデにも具体的な情報が何もないゴブリンキングに未知の存在に対する説明がつかない不安のような物を感じているのだった。
「確かに不気味ねえ~、でもとにかく今は少しでも吸収の邪魔をしないとね~。……あら、もう来たようね思っていたより早かったわね~」
フィーネが見つめるその先には、急進してくるガザフ領軍の姿が見えたのだった。
◻ ◼ ◻
「土壁でのゴブリンの群れの分断は順調のようです。ゴブリンキングの吸収行為は今も進行中ですが、キングの周囲にいるゴブリンの数は残り五千にも満たない模様です」
斥候からの報告を受けたダスティン辺境伯は、即座に指示を出した。
「全軍前進! 射程に入り次第【雷炎】の詠唱に入る。ミゼル子爵、お主もワシと共に同時詠唱に入れ。他の者は防御体制を維持し吸収を邪魔されたゴブリンキングからの反撃に備えよ」
ダスティン辺境伯の指示を受けガザフの騎士達が前進を開始した。その中には騎士装備ではなくマリアが使っていたような両手杖と魔力を帯びたフード姿のミゼル子爵の姿があった。
「ニールセン、ゴブリンキングへの先鋒はお前に任せる。一当てして強さを見極めよ」
ダスティン辺境伯は義勇軍の指揮を執っているニールセンにそう声を掛けた。
「閣下! 一撃で倒してしまうかもしれませんなあ」
老騎士ニールセンは白い髭を弄りながら愉しそうに後ろにいる義勇軍の面々を見やった。
「ニールセン殿、ワシは足が早いので追い抜いてしまうかもしれんなあ」
「一撃で無理そうなら俺がいただくぜ!」
他の老騎士や同行している元探索者のゼダ達からもそんな声が上がった。
「お前達、死ぬなよ」
ダスティン辺境伯はそう一言呟くと、展開を開始した部下達の元に向かったのだった。
◻ ◼ ◻
ニースの土壁での分断と皮肉にもゴブリンキング自らによる吸収によって数が減らされた事で、ガザフ領軍の前進は至って順調に行われ【雷炎】の射程を考慮した距離にて展開を終えていた。
騎士達は弓歩兵部隊に支給された物より一回り大きい盾を構えて防御陣形を敷いていた。
左右を騎士団に囲まれた状態でダスティン辺境伯とミゼル子爵は共に詠唱を開始している。
二人の周囲には膨大な魔力循環の流れが渦巻き、その圧力は二人から離れた位置に展開している騎士団の者達にも感じられるほどだった。
だがそれはゴブリンキングにも同様に伝わったようだった。だが既に詠唱が完了して放たれる寸前である事を感覚で理解したのかもしれない……無駄にその場から動こうともせず、吸収行為を止めるとゴブリンキングの周囲に黒い魔力が立ち込め始めた。
それは黒い禍々しい【ウィンドウォール】のような物を形成すると、ゴブリンキングの周囲を覆い包んだ。
「【ファイアストーム】」
両手杖を握ったミゼル子爵の前に、炎の渦巻きのような物が生まれゴブリンの群れに向かって放たれた。
炎の渦巻きはゴブリンの密集する群れに突入すると周囲のゴブリンを巻き込むようにして焼き尽くし始めた。
「【雷炎】」
その炎の渦巻きがゴブリンの群れを蹂躙し始めた事を確認したダスティン辺境伯は、素早く【雷炎】を放った。
光と赤い炎の斬撃は放射状に拡がり、同時に炎の渦巻きをも切り裂いた。
周囲には切り裂さかれた炎の渦巻きの爆発が拡がり、切り裂いた炎の渦巻きから炎の魔力を吸収した斬撃は、更に巨大になり群れ全体を飲み込んでしまった。
「おおお!」
周囲から驚きとも歓声とも取れるようなざわめきが起こった。だが暫くするとそのざわめきが静けさに取って変わった。
爆風が収まり、そこにあったゴブリンの群れは黒い煙だけを残して消滅してしまった。
しかし、そこにはあの恐ろしい爆発と斬撃を浴びながらも、無傷で立ち尽くすゴブリンキングの姿があったのだった。
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