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136:上位精霊

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『とても気になるお話ですね。そこの方、闇精霊と話をさせていただけますか?』セルフィーナと呼ばれた上位精霊はラルフさんを見てそう言った。

 実際のところお願いしている口振りではあるが「は、はい! 今すぐに」そう答えたラルフさんにかかる圧力は命令に等しかった。

 ラルフさんの召喚した黒い炎にセルフィーナは近づくと、手をかざして話しかけた。しかし口は動いているのは分かったが、僕達には聞き取れない声で話しているように見えた。

 暫く僕達はその声にならないやり取りのような物を眺めていた。やがて話が終わったのかセルフィーナが闇精霊から離れてリサさんに向き直り――

『色々と尋ねてみましたが、この子にも詳細な事までは分からないようですね。ただ今までとは違う物が現れ、それが溢れさせると言っています……確か遺跡からの資料に似たような現象があったと思いますが?』

 リサさんはその言葉を聞くと椅子から立ち上がりサラに向かって「今すぐ地上に戻ってミリア様にこの件を伝えてくれるか? それからすぐ動ける者にこの部屋に集まるよう伝えてくれ」と告げた。

「姉さん今の話ってもしかして……」サラの表情に珍しく不安の色が見える。

「ああ、危険だが実際に現地に赴いて事実を確認する必要がある……もしかすると魔物溢れかもしれない」

 その聞き慣れない言葉は、不気味に部屋の中に響いたのだった。

◻ ◼ ◻

 サラは話が終わると、転移魔法陣を使って地上に戻るべく部屋を出て行った。部屋の外からリサさんの部屋に集まるように伝えるサラの声が聞こえてくる。

 実のところまだ何か起こった訳でもないのに、この迅速さには少し驚かされた。僕達は精霊の奇妙な囁きと変異種の事を結び付けて、この段階ではまだ少し気になるので確認しようという程度の認識でしかなかったのだ。

「我々エルフィーデの者にとって精霊の言葉というのはそれだけ重いという事だよ」

 リサさんが出ていくサラの後ろ姿を見送って、執務室内の机に座り何か書類らしき物を書き始めながらそう言った。僕達が邪魔にならないよう部屋を出ていこうとするとリサさんに呼び止められた。

「ユーリこれから我々は調査隊を編成する事になると思う。そして君達にも一つ頼みがある」

 僕は出来ることは何でも手伝うつもりだったので、黙って頷いたのだった。

◻ ◼ ◻

 僕とラルフさんは、二人で十一層に先行して来ていた。だが目的はゴブリンの拠点の調査ではなく――

「ある程度の部隊の展開できる場所も必要ですし、さりとてあまり十層への出口と離れると土壁で囲うにも範囲が広くなりすぎるでしょうし……この辺りがぎりぎりというところですかね」ラルフさんが辺りを見渡してそう言った。

「そうですね、あまり広く作っても無駄になるかもしれませんからね」

 僕達はリサさんに依頼された魔物溢れを留めておくための防御壁を作る場所を、ラルフさんと二人で検討していたのだ。勿論、作っても無駄になる公算もあったのだが、もし何かあって後で後悔したくはないので最低限の広さで作る事にしたのだ。

「ニースここに土壁を作って!」僕が上空をルピナスに乗って飛んでいるニースに頼むと「うん!」と嬉しそうな返事が返ってきて、遺跡の拠点で行った要領で土壁がどんどん作られていく。

「ニースの土魔法も成長してるな」

 眺めていた僕がそう感心したのはニースの魔法制御の成長ぶりだった。以前に行った時は壁同士で隙間が出来ていたのだが、今回の作業では僕が隙間を埋めるような必要も無さそうだった。

「一回の魔法で作られる土壁の大きさも以前より大きくなっているし……このペースだとあっという間に終わりそうだ」

 事実、調査隊の編成を終えて十一層にリサさん達の部隊が到着する頃には防御壁は完成してしまった。

「頼んだ私が言うのもなんだが、よくこの短時間でここまでの物が出来たものだ。だがこの頑張りが無駄になってくれる事を期待したいところだがな」

 リサさんは申し訳なさそうな表情でそう言ったが、僕もその点に関しては同感だった。

「我々はこれから直ちに出発する。君達はどうするね?」

(エルフィーデの調査隊は精鋭揃いで僕が付いていっても邪魔になるだけかもしれない)

 僕が返事を躊躇しているのを感じたのだろうラルフさんが――

「当然、我々も行きますよ! そもそも今回の調査は我々が行うつもりだったのですからね」

 ラルフさんが力強くそう宣言してくれたので、僕も弱気を振り払い「参加させてください!」と、強く言い放ったのだった。
 
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