112 / 213
112:白狼5
しおりを挟む
白狼の右目の死角になる位置から、魔力の嵐の中に【ウィンドウォール】に守られながら突入した僕達だったが、白狼の耳がピクリと動くのが見えた。
(気付かれた⁉)
そう考えると同時に僕は白狼の背中に飛び付き、ディーネの攻撃で傷ついた首筋にバゼラードを突き刺した。
白狼は凄まじい唸り声を上げて僕を必死に振りほどこうと暴れた。刺さったバゼラードを掴みながら僕は、左手の盾から至近距離での【風刃】を何度も撃ち込んだ。
(この距離からでも致命傷は与えられないのか……)
レッサーウルフなら一撃で首を切り裂いただろう【風刃】の攻撃でも傷つける事が出来なかった。
だが僕のこの執拗な攻撃は無駄ではなかった。白狼は自分に取りついている僕に完全に意識を奪われていた。
僕はサラが不意討ちの準備をしているのに気が付き、素早く白狼から飛び降りた。
「【風切斬】」サラの黒魔剣による斬撃のインパクトの瞬間に【風刃】を放つ併せ技が炸裂した。
更に切り裂いた傷口に黒魔剣を突き入れ白狼の体内で【風刃】を放ち、そのまま切り上げるように白狼の首を切り落とした。
◻ ◼ ◻
辛うじて変異種と思われる存在に打ち克つ事が出来た僕達は、さっそく皆で集まり魔素吸収を行った。
吸収が始まると皆から悲鳴のような声が上がり、凄まじく濃い魔素が体内を駆け巡ぐった。
「頑張って! 試練の魔物を倒した時の魔素吸収が凄まじい魔素を感じると聞いたわ! 耐えるのよ!」サラも苦しみながら、叫ぶようにして皆を励ましている。
皆で励まし合い幼いキャロでさえ必死に堪えている。
「負けるもんか!」元気の良いリーゼの声が響き、皆も同じように声を合わせて「負けるもんか!」の大合唱になった。
どれほどの時間が経ったのだろう……魔素吸収が終わったあと、僕達はその場に倒れ込み眠ってしまったようだった。
「ユーリ~、ユーリ~」ぺしぺしと頬を叩かれ僕は目を覚ました。
そこには見慣れない、二歳くらいの幼い子供の姿をした精霊が浮かんでいた。
茶色の可愛い服を着たその精霊は二枚の羽を熱心に動かし一生懸命浮いている感じだ。そして、小さな手に小石を握っていた。
僕にはその精霊が誰なのかすぐに理解出来た。
「君は精霊石の精霊なんだね」僕がそう話しかけると、その幼子のような精霊は嬉しそうに微笑みを浮かべたのだった。
◻ ◼ ◻
複数の人の気配を感じて周囲を見渡すと、そこにマリアさんの姿があった。まだ眠っているキャロ達に毛布のような物を掛けている。
少し離れた場所にはミリアさんがいてサラと話をしている。白狼と戦いになった経緯の報告をしているようだ。
僕が目を覚ましたのに気が付いたミリアさんが、こちらにやって来た。
「目が覚めたか! 白狼の側に子供達が倒れているのを見たときは肝が冷えたよ……よく耐えてくれたな、本来なら我々が倒すべき相手だったのだがな」
そう言うと白狼の死体を見やった。
「全滅してもおかしくない状況でした。一時はそうなりかけました……倒せたのは皆の協力があったからです」
僕は眠っているキャロ達を見た。四人はマリアさんに見守られて毛布の中で身を寄せあって眠っていた。その光景だけ見ればここがダンジョンだと忘れてしまいそうになる。
「……それにしても不思議な事もある。右手を確認してみて欲しい」
ミリアさんに促されて僕は右手を見た。そこには、羽のような紋章が一枚現れていた。
「これって試練を越えた時に刻印される紋章ですよね!」
僕はじいちゃんの手のひらにあった紋章と同じものが自分の手に刻まれているのを見て驚いてしまった。
「ああ、私もこんな現象は初めて見た。どうやら刻印の魔法陣は君達を一つ羽の探索者と認めたようだな」
ミリアさんはそう僕に向かって告げたのだった。
(気付かれた⁉)
そう考えると同時に僕は白狼の背中に飛び付き、ディーネの攻撃で傷ついた首筋にバゼラードを突き刺した。
白狼は凄まじい唸り声を上げて僕を必死に振りほどこうと暴れた。刺さったバゼラードを掴みながら僕は、左手の盾から至近距離での【風刃】を何度も撃ち込んだ。
(この距離からでも致命傷は与えられないのか……)
レッサーウルフなら一撃で首を切り裂いただろう【風刃】の攻撃でも傷つける事が出来なかった。
だが僕のこの執拗な攻撃は無駄ではなかった。白狼は自分に取りついている僕に完全に意識を奪われていた。
僕はサラが不意討ちの準備をしているのに気が付き、素早く白狼から飛び降りた。
「【風切斬】」サラの黒魔剣による斬撃のインパクトの瞬間に【風刃】を放つ併せ技が炸裂した。
更に切り裂いた傷口に黒魔剣を突き入れ白狼の体内で【風刃】を放ち、そのまま切り上げるように白狼の首を切り落とした。
◻ ◼ ◻
辛うじて変異種と思われる存在に打ち克つ事が出来た僕達は、さっそく皆で集まり魔素吸収を行った。
吸収が始まると皆から悲鳴のような声が上がり、凄まじく濃い魔素が体内を駆け巡ぐった。
「頑張って! 試練の魔物を倒した時の魔素吸収が凄まじい魔素を感じると聞いたわ! 耐えるのよ!」サラも苦しみながら、叫ぶようにして皆を励ましている。
皆で励まし合い幼いキャロでさえ必死に堪えている。
「負けるもんか!」元気の良いリーゼの声が響き、皆も同じように声を合わせて「負けるもんか!」の大合唱になった。
どれほどの時間が経ったのだろう……魔素吸収が終わったあと、僕達はその場に倒れ込み眠ってしまったようだった。
「ユーリ~、ユーリ~」ぺしぺしと頬を叩かれ僕は目を覚ました。
そこには見慣れない、二歳くらいの幼い子供の姿をした精霊が浮かんでいた。
茶色の可愛い服を着たその精霊は二枚の羽を熱心に動かし一生懸命浮いている感じだ。そして、小さな手に小石を握っていた。
僕にはその精霊が誰なのかすぐに理解出来た。
「君は精霊石の精霊なんだね」僕がそう話しかけると、その幼子のような精霊は嬉しそうに微笑みを浮かべたのだった。
◻ ◼ ◻
複数の人の気配を感じて周囲を見渡すと、そこにマリアさんの姿があった。まだ眠っているキャロ達に毛布のような物を掛けている。
少し離れた場所にはミリアさんがいてサラと話をしている。白狼と戦いになった経緯の報告をしているようだ。
僕が目を覚ましたのに気が付いたミリアさんが、こちらにやって来た。
「目が覚めたか! 白狼の側に子供達が倒れているのを見たときは肝が冷えたよ……よく耐えてくれたな、本来なら我々が倒すべき相手だったのだがな」
そう言うと白狼の死体を見やった。
「全滅してもおかしくない状況でした。一時はそうなりかけました……倒せたのは皆の協力があったからです」
僕は眠っているキャロ達を見た。四人はマリアさんに見守られて毛布の中で身を寄せあって眠っていた。その光景だけ見ればここがダンジョンだと忘れてしまいそうになる。
「……それにしても不思議な事もある。右手を確認してみて欲しい」
ミリアさんに促されて僕は右手を見た。そこには、羽のような紋章が一枚現れていた。
「これって試練を越えた時に刻印される紋章ですよね!」
僕はじいちゃんの手のひらにあった紋章と同じものが自分の手に刻まれているのを見て驚いてしまった。
「ああ、私もこんな現象は初めて見た。どうやら刻印の魔法陣は君達を一つ羽の探索者と認めたようだな」
ミリアさんはそう僕に向かって告げたのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
315
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる