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十二話

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「俺にとって……都合の良い女の子……だと?」

 呆然としたまま……シセルの口からそんな言葉が漏れる。

「そうだよ♡ 好きな時に〇ッチして、好きな時にすきすきちゅっちゅして、彼女ができたらポイしてもイイよ?」

「……ブフゥ~ッ! る、ルーナちゃん!? 何言っちゃってるの!?」

 ルーナのやばすぎる発言に驚愕し、吹き出すレアと同時に……飛びかけていたシセルの理性が一旦戻って来た。

(……いや、待て待て待て待て! ルーナの母親は一体ナニからナニまで教えちゃってるの? 〇リ捨てポイの概念を何故この歳の子の口から聞かなきゃならないんだよッ!)

「シセルが誰と付き合って、誰と結婚してもいい……でももし、その人じゃ満足できない時があったら……絶対に私を呼んで? シセルの愛している人が私じゃなくても、私はシセルを愛し続けるから」

 そんな事を淡々と喋り続けるルーナ。

(あァ~、重いよぉ……重すぎるよぉッ! シロナガスクジラよりも重いよぉッ! しかもよく聞いたら……恋人枠は自分じゃなくてもいいけど、愛人枠は譲らないってことだろ?)

「……本当に申し訳ないんだけど、ちょっとだけ発言を許してくれ……あの、それって本当に俺の事が好きなのか? もし俺じゃなくて、そうだなぁ。そこに居るレアが、ルーナと『すきすきちゅっちゅ』から〇〇〇まで全部したいって言ってきて、しかも一生ルーナだけを愛し続けると誓うならどうする? 勿論、契約魔法で心臓に破ったら死ぬ呪印を刻む前提だ。だから裏切りも浮気もない」

「……シセルとじゃなきゃヤダ」

(ふむ……ちょっと確かめてみるか)

 不貞腐れた様な表情を浮かべるルーナに、もしかしたら自分と同じように『性欲に振り回されているだけ』かも知れないと考えたシセルが問いかける。

「そうか、仮にそういう関係になったとして……俺だけを愛し続けてくれる相手じゃないとイヤだなぁ。俺に恋人がいる時、ルーナは恋人を作らずに俺を愛せちゃう……?」

「愛せちゃうッ!」

(フッ……かかったなッ!)

「そうか、ルーナは愛せちゃうのか……俺はもし心の底から好きな相手に恋人ができたとしたら、しばらくは忘れられないだろうが……その人達の幸せを願って前に進めるよう距離を置くぞ?」

「……えっ! そ、そんなの、一緒に居るのをただ諦めてるだけじゃないの?」

「愛人で満足している方が諦めているだろうがッ! いや、もし諦めたくないのなら……尚更他に恋人が居ると装って、相手を警戒させずに友達として接するべきだ! そうすれば、その相手が別れた時にすり寄れ……ゴホンッ! とりあえず○ッチも『すきすきちゅっちゅ』もしないッッ!」

「な、なに、愛人……?」

「シセル、考えがクズ過ぎ……僕はそっちの方が計画的過ぎて怖いと思うんだけど」

 いつの間にか調子を取り戻しているレアがそう耳元で囁く。

(あぁ、そうさ。俺は真性のクズで寝〇られでも何でも女が幸せになれない系のモノは嫌いだ! 同族嫌悪……? いや、違うねッ! 最後に女側が幸せになって終わる系の奴は好きなんだッ! つまり、俺がエ○い事をする前提条件は……最終的に周りの人間が幸せでなければならないという事ッ!)

「えっ……えぇぇ~ッ! しないのぉ!? お母さんは、本当に好きな人に恋人がいたら〇ッチで虜にして奪えって言ってたのに!」

 驚愕から両手を上げて全身で驚くルーナを見て──やっぱあんたのせいじゃねぇか、ルーナの母親ッ! と、心の中でツッコミを入れるシセル。

「……そういう事をする人もいるだろう。だけどな、それって逆にやられたらルーナはどう思う? ルーナと俺が超ラブラブの恋人同士なのに、俺を誘惑してた女に俺はまんまと盗られるんだ」

「……その女を殺すよ?」

 ノータイムで殺害の宣言をするルーナ。

(いや……迷いなさ過ぎ、間髪入れなさ過ぎ、バイオレンス過ぎぃいッ!)

「そ、そうか……殺すのは絶対にダメだとして、そのくらい腹が立つし悔しい気持ちになるだろう?」

「うん」

 シセルは……あまり伝わってなさそうなルーナの表情を見て、微妙に分かりづらい説明を始める。

「えっとな……その女はルーナと全く同じ気持ちで俺の事を愛しているとするだろ? 本当に全く同じ気持ちだ。もしかしたら、俺という存在がなければ……二人は仲良くできるくらい! いいか?」

「う、うん」

「つまり……ルーナがその女を殺したい程にムカついたり悔しかったりする気持ちは、ルーナが奪う側になった時……奪われる側の方も感じてしまうんだよ」

「……わかる、けど! シセルが私以外の女と幸せそうにしてるのを黙って見てるだけなんて耐えられないよぉ!」

 このような分かりづらい説明でも、シセルの伝えたい内容は理解できた、理解できたが……それでも己の気持ちを押し殺し続けなければならないという事に納得できないルーナ。

(……マジ、か。でも、それはおそらく)

 前世も含めた人生で、未だ性欲でしか動いていなかったこの男クズにはその理由が分からない。経験した事がない。──故にここで、間違った結論から成る……間違った返答をしてしまう。

「それはな、まだ本当の恋も知らない子が『すきすきちゅっちゅ』みたいな気持ち良い事をいきなりされて……相手の事が好きだと勘違いしちゃっただけだ。──俺と会わずに生活していれば、いずれ分かると思うぞ」

「……は? え、本当の恋って何? 私がシセルの事を好きなのは嘘って事!?」

 ルーナはそう叫んだ後、力が抜けたように地面へとへたり込む。それを見て直ぐに、自身がたった今口に出した言葉が……どのような意味を含んでいるのかを自覚し、目を見開いたまま硬直するシセル。

 ──やってしまった。自身の考えを相手に押し付けた上に、相手の気持ちを否定してしまった。

 ……と、少なくともルーナ本人は本気で言っているのは分かっていたのにも関わらず、身勝手な事を言ってしまったと後悔する。

「……ちょっとシセルッ! それは違うよッ! ルーナちゃんがシセルを好きになった理由が『すきすきちゅっちゅ』だったとしても、好きになった時点でそれはもう嘘とか、勘違いとかじゃないと僕は思うよ!」

 確かにその通りであり、シセルは現状……一刻も早く反省して、例え許されなかったとしてもしっかりと謝罪をしなければならない。それは間違いないのだが……一瞬冷静になった時に感じてしまった二人との温度差により、思わず何とも言えない表情を浮かべる。

(──あれ~? 俺ら何歳……? この歳で、この段階で、何でこんな青春みたいな事してんの? ──はぁ……やっぱり、性犯罪者と同じ事をしてるって認めたくなかっただけか。何も知らない子供を堕として恋人になるって……結局、俺が抱いていたのは……)

 ──同族嫌悪で間違い無かった訳だ。

 と、ひたすらに誤魔化し続けていた己の醜い部分を自覚するシセル。

「俺の事を好きだなんて……そんな感情は勘違いだと思うから俺以外を好きになってくれって……ここまでしたのは俺なのにな」

 シセルはそう苦笑しながら、何か湿っぽい雰囲気へと持って行こうとする。前世で数々の同調圧力に屈してきた彼は……特有の流され体質により、無意識にも周囲の温度に合わせた雰囲気で会話を始めていた。

「うん! そうだよシセル! 何一丁前に女の子を諭《さと》して距離置こうとしてんの。っていうか、本当の恋とか……シセルだってした事ないんじゃない? それなのに『すきすきちゅっちゅ』で始まった恋は嘘って~? それ以前に、もうシセルには全責任を取ってルーナちゃんを幸せにする道しか残されてないんだよ~!」

 ニコニコとしているが、目が笑っていない様子のレアは早口でそう捲し立てる。

「レ、レア……何かめっちゃ怒ってる?」

「当たり前でしょッ! 親友の事が好きな女の子が居て、その子の本気で好きだって気持ちを親友が勝手に否定してるんだよ? そりゃ怒るに決まってるよ! そんな事言ってると怒るよッ!? ……ていうかそもそも──」

 ──いや、だからもう怒ってるだろって……。

 そう心の中で溜め息を吐いたシセルは、続きを聞かずに……地面へとへたり込んだままのルーナ方へと向かった。その背後で、レアがそのまま誰も居ない所へと説教を続けているが……暫くは放置されるのだろう。

「ルーナ……ごめん! 俺、お前の真剣な気持ちを……本気じゃないとか本物じゃないとか、勝手に決め付けた!」

 シセルは全力で土下座して謝罪をした。

「……」

 それを聞いたルーナはゆっくりとシセルの方へと顔を向ける。

「今までの事の責任は全部俺が取るッ! 生涯懸けてルーナを幸せにすると誓う! だから、俺と……恋人になってくれッ!」




 そんなシセルの告白に対して、満面の笑みを向けたルーナは──。



「や~だ♡」



 ──と、シセルを拒絶したのだった。







 

 



 
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