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「闇の中に謎の生き物ですか、、、」

藤堂が言う。

「ホラー映画のような話ですね。この学園が呪われてるとでも言うのでしょうか、、、」

声に冷ややかな色が混じっている。

「そのような意味ではありません。真っ暗で、その招待は分からなかったのですが、確かに何かがいました」

焦って雄一が言う。

藤堂が首を捻る。

「灯りは点灯したままだったと皆言ってますが」

雄一は焦る。

「皆さんの言っていることを疑うわけではないのですが、高尾先生と道場を出た時は真っ暗になっていたんです」

横にいる黒川も真剣な口調で言う。

「疑っているわけではないのですよ。高尾先生も黒川くんも、適当なことを言う人間ではないと、私は思っています。けれど、大声がして見に行くとお二人しかおらず、さらに黒川くんがズボンを半分下ろしていたとなると、、、」

黒川の顔が真っ赤に染まる。

「あ、あれは、、、」

「その何者とやらがずり降ろしたと言うのでしょう、、、」

黒川はそれ以上言葉を続けられない。

藤堂は続いて、雄一の首元を見る。

先ほどの黒くウネウネと動いた物体につけられた痣のような痕がそこにくっきりと付いている。

それは、いわゆるキスマークの形状と似ていた。

黒川の身体にも雄一の首元に比べれば小さいが複数の痣があることはさっき確認した。

教頭室にノックの音がした。

「どうぞ」

藤堂が声をかけると、白衣の男が扉を開けた。

「用意ができました」

「そうですか」

藤堂が雄一と黒川を見た。

「念のためです。お二人のことは信頼してます。念のために検査をさせてもらいます。万が一のこともないということを証明するためです」

?

検査?

万が一のこともない?

!

雄一が思い当たる。

「ま、まさか、私達が薬物をしようしていたとでもっ」

雄一の口調がキツくなる。

「まぁまぁ、疑念は全て張らしておいた方が良いということです。まず、あなた方は暗闇だったと主張しているが、寮の人達は明かりは点ったままだったと言っており、そこで食い違いが出ているのです。お二人も変な疑いをかけられるのは嫌でしょう。簡単な検査ですからご協力ください」

                            ※

尿、血液、呼気の採集をされ、念のためと言われながら首筋に出来ていた痣からも皮膚片を取られた。

部屋に戻ったときには12時を過ぎていた。

検査は不快だった。

疑われるのは本意ではない。

が、寮にいた人達は揃って明かりが点いていたと言う。

そこに違いが生じている。

己の潔白を証明するには検査も必要だ、、、そうだ、仕方がない、、、

疲れた、、、柔道着を脱ぎ、下着一枚でベッドに倒れこむ。

今日は、色々あったな、、、シャワーは明日にして今日は寝るか、、、

雄一は目を閉じた。

カーテンの隙間、窓ガラスにウニウニと蠢くものが張り付いているのが見えることには気付かなかった。

                               ※
「ヒルジンに似た物質?、、、、蛭か、、、」

刈谷が言う。

ヒルジン、、、蛭が獲物の血を吸う際に分泌する麻酔のような物質。。。

「つまり、彼らはラリって盛っていたのを誤魔化すために嘘をついていたのではなく、本当に何かに襲われたと云うことか、、、」

刈谷は検査結果とおぼしき資料に目を通している。

数値の並ぶ打ち出された検査結果の用紙と、雄一、黒川の肌に残った強く吸われたような痕の写真。

「他には何もなし、健康そのもの、薬物の使用形跡もなし、、、」

「ええ、この資料、藤堂さんにこのまま渡しますか?」

「ヒルジンのような物質が皮膚片から検出されたことか、、、あのタヌキ親父のことだ、こっちが事実を報告しても、なんの情報も与えてこないだろうな。藤堂からはなんと指示があった?」

「ただ、薬物使用の跡がないか調べてくれと、、、」

「ほう、、、その他の不審な点の調査については指示がなかったと云うことか」

「はい」

「と言うことは、何があったのかおおよその察しはついていて、取り敢えずのカモフラージュで検査だけしたということなのか、、、」

「どう報告いたしますか?」

「異常値なしというところだけ伝えておけ、求められていない結果まで出すことはない」

「承知しました」

「やはり“デク”以外の存在がここにはいるのか。隠されると無性に暴きたくなるのは研究者の性だな、、、何か通常と異なることが生じたら全て渡しに報告してくれ」

「畏まりました」

                               ※

朝、雄一が食堂に行くと囁くような話し声がピタリと止まり、雄一にチラッという短い視線が集まり、反らされる。

あまりよい気持ちではない。

「おはよう」

そう言って雄一は朝食のトレーを取りに行く。

何時もなら大きな返事が返ってくるが、今日はモゴモゴとした返事があったのみ。

黒川が野球部のメンバーと席に着いている。

雄一の方は見ない。

雄一は気にせず、開いていたテーブルに座る。

大石が食べ終えたトレーを持ち、雄一のテーブルの横を通る。

「スッキリした顔だな、、、」

嫌な含み笑いをしながら言う。

「えぇ、お陰さまで」

雄一は答える。

「まぁ、スターさんが山奥で大人しくしているわけもないと思っていたが、、、」

スターさんとは、空手のスター選手であった雄一への当て擦りだろう。

カチンときたが、雄一は耐える。

朝から生徒達の前でみっともないところは見せたくない。

「OBなら良いが、生徒はよせよ」

訳が分からない。

口調から嫌みだということは分かるが、何を意味しているのか。

ガタン

見ると黒川が立ち上がっている。

「大石先生、私と高尾先生はやましい関係ではありません。本当に暗闇で何かに襲われたんです」

は?

そんなことを言われてるのか?

雄一は、唖然とする。

「はいはい、分かった、分かった。高尾くん、精力が余っているようならレスリング部の指導の補助をしてくれよ、うちは厳しいぞ」

イラッとした雄一は思わずこたえる。

「分かりました。補助させていただきましょう。今日にでも参加しましょうか、、、」

言った瞬間、雄一は大石の後ろに控えるレスリング部の生徒達の視線に気付く。

光のない瞳。

何を考えているか分からない目で雄一を見ている。

雄一の背中にゾッとした震えが走る。















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