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地下室の咆哮

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「フゥッ」

授業を終え、自室に戻り、雄一は溜め息を着く。

疲れた。

精神的にだ。

生徒達が物言いたげな目で自分を見ている気がする。

廊下で生徒が何かを話していると自分のことを話しているような気がする。

ビシッ

雄一は両手で自分の方を張った。

ダメだッ

邪推はダメだ。

弱い心は変な妄想を産み、下向きな感情が生まれる。

気合いをいれないと。

回りが自分と軽く距離をおいてると感じられる中、昼休みの滝川の笑顔を思い出す。

「センセイッ、虫刺されですか?」

そう言い、雄一が昼食を取る席の前に座ると、鞄の中から虫刺され用の塗り薬を出し、テーブルにポンと置いた。

「夜は変な虫が出るから虫除けとか塗らないとヤバイっすよ」

首筋の赤黒い痣を指しているのか。

雄一は悟る。

やはり、キスマークに見えてしまうか。

「それとも、虫刺されじゃないんですか?」

いたずらっ子のように滝川が笑いながら言う。

釣られて雄一も微笑んでしまう。

「虫刺されだろうな」

「センセイ、塗りますよ」

「え?」

止める間もなく滝川はキャップを取り、雄一の首筋にささっと虫刺され用の薬を塗る。

「僕、前にブヨにさされて大変だったから、持ち歩いているんですよ」

滝川が屈託なく言う。

そこへ、体育科の主任がやって来た。

「高尾先生、食事が終わられたら体育教官室に顔を出していただけますか?お聞きしたいことがありまして、、、」

主任が言うには、雄一に関し、薬をやっているのではないか、若いOBと夜に校内で淫猥な行為に及んでいるのではないかという噂が出ているらしい。

OBとは黒川のことだろう。

主任としては、噂は根拠がないものと考えているが、行動には気を付けて欲しいと遠回しに言われた。

「夜中に化け物が出て首筋を吸われたというのは正直、受け入れられませんな」

そう言われると、雄一も強くは反論できなかった。

確かに、馬鹿馬鹿しく思われても仕方ないだろう。

しかし、事実は事実だ。

だが、一夜開け、眠りを取ったあと、本当に事実かと思う自分もいる。

昨夜は焦っていて、何かを化け物と誤解したのではないか?

そんなあやふやな気もしてくる。

確かに、闇夜に化け物というのは荒唐無稽だ。

雄一が力強く訴えれば訴えるほど、それは虚しく聞こえるだろう。

もやもやした気分で午後の授業を行う。

黒川さんと、、、そんなヒソヒソ声がする。

その方向を見るとレスリング部の生徒が周りの生徒に何か言っている。

雄一は無視するが良い気はしない。

レスリング部か、、、

今朝、顧問の大石に大人気なくレスリング部の補助にいくと啖呵を切ってしまった。

それも、雄一の心に影を落とす。

しかし、なんでも最初はある。

最初がどう始まろうと、最後に上手くいけばよい。

レスリング部員達が、雄一に反感を持っていたとしても、心からぶつかれば最後には分かってくれるはずだ。

そう、ポジティブに雄一は考える。

道着を身に付ける。

レスリング部に行く時間は指定されている。

その時間まで、空手部で汗を流すつもりだった。

                               ※
暗い部屋。

窓がない。

地下室だろうか。

中央に長方形の大きな箱型の容器。

恐らく金属製。

黒光りしている。

無数のくねる曲線が絡み合う紋様が全面に刻まれている。

中には黒い土、あるいは泥のようなもので満たされている。

泥の表面が盛り上がり、人の上半身の形が浮かぶ。

ズボッ

泥、あるいは土にまみれた上半身が出てくる。

ゆっくりと立つ。

泥だらけの顔の中、二つの目が開く。

眼球が周囲を見回す。

箱の周囲には、全裸の少年達。

膝間付いている。

ズボ

くぐもった音と共に足が抜かれ、箱から出る。

ビチャ

ビチャ

両足が出る。

泥にまみれた人型の者は両腕を開く。

すると少年達が順番に近付いていく。

見れば体格の良いもの、年長とおぼしき者から近付いているようだ。

少年達は泥に頬擦りし、その泥を手で受け自分の身体に擦り付ける。

泥を纏った人型も少年達の頭や背中を撫で身に付いた泥を付ける。

ある程度泥を塗られると次の少年に場所が入れ替わる。

一人を除き全ての少年達が泥まみれになった。

泥の下から現れたのは、大石の姿だった。

筋骨隆々とした身体に泥の残りかすを纏い仁王立ちしている。

そして、残った一人の少年。

貧血で倒れ、雄一と大石の諍いの元となった少年が震えながら立っている。

大石が手を上げ、こちらに来いというように指を動かす。

周囲にいた泥を纏った少年達が、その少年に群がり担ぎ上げ、箱へ向かう。

そして、少年のまだ成熟途中にある滑かな身体が泥のようなものの上に横たえられる。

ズブッ

少年の決め細やかな肌に泥が纏わりつく。

少年の身体は泥の中に沈んでいく。

怯えた表情。

身体は沈みきり、最後に残った顔が口、目、鼻とゆっくりと泥の中に消え、泥の表面は静かになる。

大石が箱に近づき、彫りこまれたクネクネのたうつ紋様に指を這わせ始める。

ハァハァと大石の息遣いが荒くなっていく。

少年達も大石に続く。

身体の頑健そうなものから、次々と箱の側面に近づき紋様を撫で始める。

箱の回りが大石と少年達で埋まる。

その箱に触れられなかった少年達は、箱に群がる大石、生徒達の背中を、脇腹をさする。

箱の側面の紋様が生き物のようにうねり始める。

大石と少年達の吐息はさらに荒くなり、そして泥の表面にも幾筋もの細い紐状の紋様が表れくねり始める。

大石が声にならない叫びを上げ、股間を箱の上に付き出す。

股間から白濁した液体が泥の上に飛ぶ。

周囲の少年達も次々に大石に続く。

放出した大石は箱を離れ、大石の背中を、尻を撫でていた少年が開いた場所にすがり付く。

周囲でも、放出を機に少年達の場所が入れ替わる。

箱の中の泥はくねり、波打ち出す。

全員が放出を終え、虚脱したように箱の回りに座り込む。

波打つ泥が激しく渦を巻き始め、そして、先程沈んでいった少年の身体が箱の中から表れる。

おぉ、、、

オォ、、、

おぉ、、、

箱の周囲からの言葉にならない溜め息のような吠え声。

その声の重奏の中、少年は泥の中から立ち上がり、箱の外へ出る。

大石が両手を広げる。

少年は吸い付くように大石の身体に縋る。

ヌルヌルとした肌の大人と少年は抱き合い、唇を貪り合う。

しばらくの後、大石は皆に向けて言った。

「間もなく、獲物がやってくる。狩りの時間が始まる」

ふぉぉぉぉ、、、

吐息のような吠え声が響く。













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