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■オマケ/限定品に弱いふたり

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「あ、あのっ」

 運転席シートの背部から伸びたフックへぶら下げられた袋から、ポテトの匂いなどが車内に充満する。

 そのビニール袋をソワソワと見つめながら日織ひおり修太郎しゅうたろうに声をかけてきて。


 修太郎はハンドルを握りながら横目で助手席の日織のそんな様子を視認する。


「帰宅するまでダメですよ?」


 日織が言わんとしていることが手にとるように分かってしまった修太郎は、口の端に思わず笑みを浮かべながらそう言って年若い妻をたしなめた。


「私、まだ何も言っていないのですっ」

 ぷぅっと頬を膨らませる日織に、
「シェイクをほんのちょっとだけ飲んでみたいとか言おうとなさったんじゃありませんか?」

 修太郎が笑いを必死に堪えながらそう言えば、日織が思わず「なっ、何で分かったのですかっ」と言って、しまった!と言う風に慌てて口を押さえた。

***

 結局修太郎しゅうたろうのマンションに着くまでの十数分間、日織ひおりはソワソワしっぱなしで。

 待て、をさせたものの基本的に日織に甘々な修太郎としては一刻も早く可愛い奥さんにお目当ての獺祭だっさいシェイクを飲ませてやりたくて堪らなくて。

 いつもより気持ちスピードが出てしまっていたかもしれない。

 それでもちゃんと無事にマンションに帰り着いて……気持ちが急いているのは日織には悟られないよう努めてのほほんとした空気をまとって買ってきたファーストフード店の袋と、他の荷物を手に取る。

 そんな修太郎の手元の袋が気になって仕方ないというふうに日織が「さぁ急ぎましょう! ハンバーガーが冷めてしまったら残念なのですっ」と駐車場から部屋までの道のりをかせてくる。

 そんな様子もまたどうしようもなく可愛く思えてしまって、修太郎は自分の手を引っ張る小さな手と、華奢な後ろ姿に思わず笑みを漏らした。



「着きましたよ」

 言いながら、修太郎は部屋のドアを開けるとキッチンに置かれたダイニングテーブルの上に美味しそうな匂いのする袋を置いた。

「先に手を洗ってこなきゃなのですっ」

 焦っていても手洗いは忘れないあたり、育ちの良さをうかがわせる日織ひおりに、修太郎しゅうたろうはふと、自分の腹違いの妹たち――日織より2つ上の百合子ゆりこや日織と同い年の籐子とうこはどうだったかな?と考えてしまった。

 百合子や籐子とは一緒には暮らしたことがないので、妹たちに関しては特に、そういう日々の細々としたことをあまり深く知らないのだと思うと、少し寂しくもあって。

 とはいえ神崎天馬あの男、体面は気にする厳格な父親だったので、おそらく自分が心配しなくてもちゃんと躾けられているだろう。

 9つ年の離れた異母弟おとうとの健二にしても、次男気質のざっくばらんな性格に見えて、礼儀作法に関して言えばしっかり身についている。

 まぁ、ゆくゆくは父親あの男の跡を継いで政治家になるんだから恥ずかしい振る舞いはさせられないか。

 健二が生まれるまでは自分がその立場に置かれて父親からあれこれ押し付けられていたことを思い出すと、自然溜め息がこぼれた。

 家を出たことに後悔はないけれど、自分がそこを見限ったことで弟や妹たちに負わせてしまったものがないとは言い切れないと思ってしまった。

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