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〈ああ、山だ!〉
〈戻ってこれた!〉
〈生きてここへ帰ってこれた!〉
夕日に照らされる山へ、その木々の奥へと、妖精達は我先に泳ぎ去っていく。
「……良いんですか?」
それを眺めながら横の顔へ呟くシャルプ。
抱き上げられたまま、ギニスタはそれに苦笑を返し、頷いた。
「あぁ、ほらアタシ達も行こう」
主である、大きな老木の元へ。
「……はぁい」
シャルプ達が山へと降りる。
晴れていた霧がまた山の周りに巻き始め、山頂から山裾までを覆っていく。
【管理者】という仕組みが、再び作動し始めた。
◇◇◇◇◇
山頂付近に在する、小山のように巨大な『主』。
その太い幹は淡く光り輝き、枝先から茂る葉はより強く、それこそそれぞれが小さな太陽のように煌めいている。
「──主」
穏やかな風に吹かれ、ギニスタの声に応えるように、さわさわとその枝葉が揺れた。
「ご挨拶にも伺えず、失礼いたしました」
シャルプから降りたギニスタは、その小さな手を幹に当てる。
「……っ」
それを見たシャルプの目が、不安げに揺れた。
「? どうした?……あぁ」
首を傾げたギニスタは、ややあってそれを戻す。
「アタシはもう管理者じゃないからな。【還元】は、不完全ながらあの時終えられたと見なされている」
だからもう、命はこちら側にある、と。
「……それは、そうですけど」
それを聞いて、逆にシャルプは頬を少し膨らませた。
(ボクばっかり気にしてて、なんかこう、悔しい……)
危険がないとは分かっているし、友がギニスタをどうこうする気がないのも知っている。
けれど、一度死にかけた場面を見た手前、こちらとしては軽くトラウマになっているのだと、
(言えたらこんなに悩んでない)
ぶすくれたままのシャルプにちょっと疑問を抱きつつ、
「……すみません、主。こんな形にはなってしまいましたが」
ギニスタは大木に語りかける。
「アタシには、やるべき事が出来てしまいました。それがどれほどのものか、いつまでなのか、皆目見当もつきません」
目元を和らげ、柔らかな声で紡いでゆく。
「……ですがどうか、この役目を終えるまでは、シャルプの傍に。──っ?」
不意に、伏せていた瞳を瞬かせ、ギニスタは主を見上げた。
煌めく枝葉が優しく揺れ、そのさざめきが辺りに満ちる。
「…………友……そうなのですね」
ギニスタが穏やかに微笑む。それに応えるように、老木の輝きが僅かに増した。
「うぇっ?」
「は?」
そこに奇声が被さり、思わずギニスタの眉が寄る。
振り返れば、なんだか間の抜けた顔をしたシャルプが、こちらを見つめて固まっていた。
「……シャルプ?」
「……師匠?聞こえたんですか?」
僅かにぎこちなく、視線を逸らし気味に聞いてくる。
「聞こえたというか……あれは思念だろう?主の。ここまではっきりお受けできたのは初めてだが」
何故そんな表情をする?と首を傾げられ、シャルプの方が困惑した。
「え、だって、その……なんで、急に?」
主と明確な意志疎通が出来るのは、これまで【真の者】だけだった。なのにここに来て、そこから外れたギニスタが突然、その大木と言葉を交わせた。
「何故って、君のおかげだろう?この身体を創ったのは君だ。当然、以前よりも力が強いし、頑丈だし、今までより真の者に近い事が出来る訳だ」
「うそぉ……」
「分かってなかったのか……」
(だから、あんなにあっさりと下山出来たのか)
シャルプは、ギニスタが魔法が使えると分かっていなかった。
もしもギニスタの力に気付いていたら、それこそ半日と保たずに、【ダミー】を用意している時点で気付かれていただろう。
(この子は、自分の力をそんなに把握していないのか……?)
〈戻ってこれた!〉
〈生きてここへ帰ってこれた!〉
夕日に照らされる山へ、その木々の奥へと、妖精達は我先に泳ぎ去っていく。
「……良いんですか?」
それを眺めながら横の顔へ呟くシャルプ。
抱き上げられたまま、ギニスタはそれに苦笑を返し、頷いた。
「あぁ、ほらアタシ達も行こう」
主である、大きな老木の元へ。
「……はぁい」
シャルプ達が山へと降りる。
晴れていた霧がまた山の周りに巻き始め、山頂から山裾までを覆っていく。
【管理者】という仕組みが、再び作動し始めた。
◇◇◇◇◇
山頂付近に在する、小山のように巨大な『主』。
その太い幹は淡く光り輝き、枝先から茂る葉はより強く、それこそそれぞれが小さな太陽のように煌めいている。
「──主」
穏やかな風に吹かれ、ギニスタの声に応えるように、さわさわとその枝葉が揺れた。
「ご挨拶にも伺えず、失礼いたしました」
シャルプから降りたギニスタは、その小さな手を幹に当てる。
「……っ」
それを見たシャルプの目が、不安げに揺れた。
「? どうした?……あぁ」
首を傾げたギニスタは、ややあってそれを戻す。
「アタシはもう管理者じゃないからな。【還元】は、不完全ながらあの時終えられたと見なされている」
だからもう、命はこちら側にある、と。
「……それは、そうですけど」
それを聞いて、逆にシャルプは頬を少し膨らませた。
(ボクばっかり気にしてて、なんかこう、悔しい……)
危険がないとは分かっているし、友がギニスタをどうこうする気がないのも知っている。
けれど、一度死にかけた場面を見た手前、こちらとしては軽くトラウマになっているのだと、
(言えたらこんなに悩んでない)
ぶすくれたままのシャルプにちょっと疑問を抱きつつ、
「……すみません、主。こんな形にはなってしまいましたが」
ギニスタは大木に語りかける。
「アタシには、やるべき事が出来てしまいました。それがどれほどのものか、いつまでなのか、皆目見当もつきません」
目元を和らげ、柔らかな声で紡いでゆく。
「……ですがどうか、この役目を終えるまでは、シャルプの傍に。──っ?」
不意に、伏せていた瞳を瞬かせ、ギニスタは主を見上げた。
煌めく枝葉が優しく揺れ、そのさざめきが辺りに満ちる。
「…………友……そうなのですね」
ギニスタが穏やかに微笑む。それに応えるように、老木の輝きが僅かに増した。
「うぇっ?」
「は?」
そこに奇声が被さり、思わずギニスタの眉が寄る。
振り返れば、なんだか間の抜けた顔をしたシャルプが、こちらを見つめて固まっていた。
「……シャルプ?」
「……師匠?聞こえたんですか?」
僅かにぎこちなく、視線を逸らし気味に聞いてくる。
「聞こえたというか……あれは思念だろう?主の。ここまではっきりお受けできたのは初めてだが」
何故そんな表情をする?と首を傾げられ、シャルプの方が困惑した。
「え、だって、その……なんで、急に?」
主と明確な意志疎通が出来るのは、これまで【真の者】だけだった。なのにここに来て、そこから外れたギニスタが突然、その大木と言葉を交わせた。
「何故って、君のおかげだろう?この身体を創ったのは君だ。当然、以前よりも力が強いし、頑丈だし、今までより真の者に近い事が出来る訳だ」
「うそぉ……」
「分かってなかったのか……」
(だから、あんなにあっさりと下山出来たのか)
シャルプは、ギニスタが魔法が使えると分かっていなかった。
もしもギニスタの力に気付いていたら、それこそ半日と保たずに、【ダミー】を用意している時点で気付かれていただろう。
(この子は、自分の力をそんなに把握していないのか……?)
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