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25 檻の中-4
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「……ししょう……?」
シャルプもやっと状況を理解し、だからこそ目を丸くした。
「ほら、もう気を抜くな」
「……あ、はい……え?」
頷いてから首を傾げ、ギニスタを見つめる。
「師匠、今、魔力……?」
「……ああ、ちゃんと使えるな。一度空になりかけたが、それなりに戻っていて良かった」
そのままだったら、彼らを助けきれなかったかも知れない。ギニスタの言葉に、妖精達は震え上がる。
〈前管理者よ!助かった!〉
〈もうこんな思いはしたくない!〉
〈早く帰ろう!〉
〈ああ帰ろう!山へ、主の所へ!〉
帰る、という言葉を聞いて、シャルプは口を引き結ぶ。
「そうだな、帰ろうか」
「……、え?」
その口がぱかりと開いた。
「なんだ?」
「え、だ、だって……」
シャルプは口ごもり、視線を彷徨わせ、ほんの僅かに妖精達を見やる。
〈お、お帰り頂けるの、ですか……?〉
〈真の……〉
妖精達は、シャルプとギニスタを交互に見、不安そうに言葉を紡ぐ。
「……シャルプ。君の気にするものは、彼らとアタシの事だ。アタシ達で解決する」
だろう?と声をかけられ、妖精達は詰まる。
今、ギニスタに助けられた事。これまでの言葉の数々。
真の者によって深く思考を巡らせられるようになった妖精は、複雑になってゆく自分達の心情を持て余してしまう。
「まあ、徐々にやっていけるさ」
ギニスタはそれに笑いかけ、またシャルプへと向き直る。
「だから、大丈夫だ」
「……んむぅ……分かりました」
若干眉を寄せながらも、その首を縦に振る。
そしてギニスタへ、手を差し出した。
「……じゃあ、帰りましょう?一緒に」
「あぁ……」
そこへ自分の手を伸ばしかけ、ギニスタの動きが止まる。
「? 師匠?」
「……ちょっと、待っててくれ」
辺りを見回していたギニスタは徐に、横に座り込んでいた子供の鎖を外しだした。
〈ぜ、前管理者よ。何をしているのだ?〉
〈早く緑の中へ、山へと帰路に……〉
「それはそうなんだが、すまん。少しでいい」
言いながら、次々に周りの人間達の鎖や枷を外していく。
(我ながら、なんともな動機だな)
少しばかりここにいた。それだけの空間。
けれどそこに居た人々に、少なからず同情していた。
逃げる気力どころか、生きる気力さえ無くした彼ら。痛ましさだけがこんこんと、胸に迫った。
(己の欲だけで手を出すのは、あまり宜しくないんだが)
今までこういった事は、山のために行ってきた。けれどこの者達を前にして、彼ら自身が動かずとも、何か出来ないかと思ってしまう。
「……全部のを外せばいいんですか?」
「ああ、なんなら先に行ってて……ん?」
シャルプが立ち上がり、腕を振る。
砂が落ちるような音が響き、目の前の女の手から枷が崩れ落ちるのをギニスタは目の当たりにした。
「……!」
崩れる音は通路の奥まで反響する。
恐らくここにいる全ての奴隷達の、枷や鎖を退けたのだろう。
「……シャルプ……」
「はい。檻も全部どかしました。これで良いんですよね?」
「まあ、……うん。ありがとう」
頭をかきつつ辺りを見回すギニスタ。
困ったような苦笑を零すその顔が、また曇る。
(無反応、か。まあ、今更か)
あれだけ騒いでも何もなかったのだから、鎖が消えたところで飛び起きたりなどしないのだろう。
「……師匠?」
今度はどうしたのか、と言いたげな表情をするシャルプへ、呟くように言葉を向ける。
「いや……見張りもいないのだから、逃げ時なんだがな。教会なりなんなり行けば、僅かでも施しが受けられるだろうに」
そこに辿り着く、以前に、そんな思考すらもう出来ないのか。
ここにいる、彼らは。
「教会に行けば良いんですか?」
「まあ、多分な。保護まではいかないかもしれないが……」
「じゃあ」
シャルプが、また腕を振る。
「……は?!」
〈ヒィッ?!〉
〈人間が!〉
〈消えた!いっぺんに!〉
妖精の言葉通り、もののように動かなかった人々は消え去り、檻の中はがらんとした空間になっていた。
「え?あの、教会に送るんですよね……?」
呆けた顔のギニスタに、慌てて言ってくるシャルプ。
「その、遠めの教会にバラけさせて送ったんですけど、……ダメでした……?」
「や、な、……や、うん。ありがとう……?」
手をわたわたと振るシャルプへ、ギニスタは少しうなだれた声を返す。
(そう、この子は強大な力を持つ……このくらい一瞬で出来てしまう……)
だからこそ、その扱いを間違えると恐ろしい。
「……今度から、何かやる前は一言言おう。お互いに」
「分かりました。気をつけます」
シャルプもやっと状況を理解し、だからこそ目を丸くした。
「ほら、もう気を抜くな」
「……あ、はい……え?」
頷いてから首を傾げ、ギニスタを見つめる。
「師匠、今、魔力……?」
「……ああ、ちゃんと使えるな。一度空になりかけたが、それなりに戻っていて良かった」
そのままだったら、彼らを助けきれなかったかも知れない。ギニスタの言葉に、妖精達は震え上がる。
〈前管理者よ!助かった!〉
〈もうこんな思いはしたくない!〉
〈早く帰ろう!〉
〈ああ帰ろう!山へ、主の所へ!〉
帰る、という言葉を聞いて、シャルプは口を引き結ぶ。
「そうだな、帰ろうか」
「……、え?」
その口がぱかりと開いた。
「なんだ?」
「え、だ、だって……」
シャルプは口ごもり、視線を彷徨わせ、ほんの僅かに妖精達を見やる。
〈お、お帰り頂けるの、ですか……?〉
〈真の……〉
妖精達は、シャルプとギニスタを交互に見、不安そうに言葉を紡ぐ。
「……シャルプ。君の気にするものは、彼らとアタシの事だ。アタシ達で解決する」
だろう?と声をかけられ、妖精達は詰まる。
今、ギニスタに助けられた事。これまでの言葉の数々。
真の者によって深く思考を巡らせられるようになった妖精は、複雑になってゆく自分達の心情を持て余してしまう。
「まあ、徐々にやっていけるさ」
ギニスタはそれに笑いかけ、またシャルプへと向き直る。
「だから、大丈夫だ」
「……んむぅ……分かりました」
若干眉を寄せながらも、その首を縦に振る。
そしてギニスタへ、手を差し出した。
「……じゃあ、帰りましょう?一緒に」
「あぁ……」
そこへ自分の手を伸ばしかけ、ギニスタの動きが止まる。
「? 師匠?」
「……ちょっと、待っててくれ」
辺りを見回していたギニスタは徐に、横に座り込んでいた子供の鎖を外しだした。
〈ぜ、前管理者よ。何をしているのだ?〉
〈早く緑の中へ、山へと帰路に……〉
「それはそうなんだが、すまん。少しでいい」
言いながら、次々に周りの人間達の鎖や枷を外していく。
(我ながら、なんともな動機だな)
少しばかりここにいた。それだけの空間。
けれどそこに居た人々に、少なからず同情していた。
逃げる気力どころか、生きる気力さえ無くした彼ら。痛ましさだけがこんこんと、胸に迫った。
(己の欲だけで手を出すのは、あまり宜しくないんだが)
今までこういった事は、山のために行ってきた。けれどこの者達を前にして、彼ら自身が動かずとも、何か出来ないかと思ってしまう。
「……全部のを外せばいいんですか?」
「ああ、なんなら先に行ってて……ん?」
シャルプが立ち上がり、腕を振る。
砂が落ちるような音が響き、目の前の女の手から枷が崩れ落ちるのをギニスタは目の当たりにした。
「……!」
崩れる音は通路の奥まで反響する。
恐らくここにいる全ての奴隷達の、枷や鎖を退けたのだろう。
「……シャルプ……」
「はい。檻も全部どかしました。これで良いんですよね?」
「まあ、……うん。ありがとう」
頭をかきつつ辺りを見回すギニスタ。
困ったような苦笑を零すその顔が、また曇る。
(無反応、か。まあ、今更か)
あれだけ騒いでも何もなかったのだから、鎖が消えたところで飛び起きたりなどしないのだろう。
「……師匠?」
今度はどうしたのか、と言いたげな表情をするシャルプへ、呟くように言葉を向ける。
「いや……見張りもいないのだから、逃げ時なんだがな。教会なりなんなり行けば、僅かでも施しが受けられるだろうに」
そこに辿り着く、以前に、そんな思考すらもう出来ないのか。
ここにいる、彼らは。
「教会に行けば良いんですか?」
「まあ、多分な。保護まではいかないかもしれないが……」
「じゃあ」
シャルプが、また腕を振る。
「……は?!」
〈ヒィッ?!〉
〈人間が!〉
〈消えた!いっぺんに!〉
妖精の言葉通り、もののように動かなかった人々は消え去り、檻の中はがらんとした空間になっていた。
「え?あの、教会に送るんですよね……?」
呆けた顔のギニスタに、慌てて言ってくるシャルプ。
「その、遠めの教会にバラけさせて送ったんですけど、……ダメでした……?」
「や、な、……や、うん。ありがとう……?」
手をわたわたと振るシャルプへ、ギニスタは少しうなだれた声を返す。
(そう、この子は強大な力を持つ……このくらい一瞬で出来てしまう……)
だからこそ、その扱いを間違えると恐ろしい。
「……今度から、何かやる前は一言言おう。お互いに」
「分かりました。気をつけます」
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