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27 終わりに
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頭を抱えそうになったギニスタの横で、シャルプもまた頭を抱えたくなっていた。
(師匠が!ヴェアンと話せるのは嬉しい!嬉しいけど!)
ヴェアンとは、光輝く主の名前。
その昔、最初の管理者になった【真の者】に、若木の頃に貰った宝。
(でもそうなると!ボクの話筒抜けにならない?!ならない、よね?!師匠の事とか師匠の事とか、師匠の事しかないけど!)
微かに唸る二人の周りに、大木が朗らかに笑うように煌めきを零す。
「……まぁ、まずは、帰ろうか……」
この問題は追々、とギニスタが呟く。
「ぅ……はい……あ」
ゆるゆると頭を持ち上げたシャルプは頷き返し、少ししてはっとしたように目を見開いた。
「ん?………………シャルプ?」
みるみる頬がゆるんでいくその顔へ、ギニスタが怪訝そうな眼差しを向ける。
「いえ、一緒に帰れるって嬉しいなぁって……なんか、ぇへへ」
そこに珍しく紅が混じり、シャルプは肩口の髪を指先でいじる。
「……」
なにやら空気が変わったようで、ギニスタはなんとも据わりが悪い。
それに、帰ってからもやる事はあるんだと、言って良いものか少し悩んでしまった。
「あー……シャルプ」
「はい」
「帰ってな、休憩したら見回りに──」
「えー!」
妙な空気が霧散して、抗議の声が辺りに響く。
「ゆっくりしましょうよ!明日でも良いじゃないですか!」
「本当は今すぐにでもやるべきだと、アタシは思うんだが、なぁ……」
腕を振るシャルプの顔を見上げ、ギニスタは頭を捻る。
(一時でも管理者が不在だったんだ。山の者達に「もう安心だ」と言って回るのは、管理者としての務め……)
そう考えるが、それをただ押しつけても駄目なんだろう。
「むー……」
不満を身体全体で表すこの弟子に、どう言えば上手く伝わるのか。
「シャルプ。君がとても不安な時、誰に「もう大丈夫」と言って欲しい?」
「師匠です」
「……山の者達にとってのそれが、君なんだ。君が「もう安心だ」と皆に伝える事は、山の淀みを無くす事にも繋がる」
「……むぅー……」
シャルプは腕を組み、また唸る。頭を右に傾け、左に倒し、目を一度瞑ってから、
「…………分かりました……」
しぶしぶ、といった風に頷いた。
ギニスタはほっと息を吐き、
「でも、きちんと休憩取ってからです!一緒に!帰って!から!」
「お、おう……」
中腰になって一気に近付いてきた顔に、気圧されつつ首を縦に振る。
「じゃあ帰りましょう! ヴェアン、またね」
言って振り仰いだ大木に、ギニスタも頭を下げる。
「主、失礼します」
「はい、師匠」
そして向き直り、
「おぉ、……ん?」
自然と手を脇に入れられ、抱き上げられる。
反射的に合わせて動いてから、この動作が身体に染み付いてしまっている事に、ギニスタは気が付いた。
「……」
「師匠?」
「……いや」
今の自分は幼子であるから、これもしょうがない事か。そう思って口を噤む。
(早く成長したい)
そもそもとして、この身体は成長するんだろうか。
真の者が創った──しかも真の者自身にも把握できていない部分がある──代物、何か規格外な所があってもおかしくない。
(…………要検証、だな)
この身体で目覚めてから、まだ二十日と経っていない。
これから何が起こるかと、内心穏やかでなくなったギニスタだった。
終
(師匠が!ヴェアンと話せるのは嬉しい!嬉しいけど!)
ヴェアンとは、光輝く主の名前。
その昔、最初の管理者になった【真の者】に、若木の頃に貰った宝。
(でもそうなると!ボクの話筒抜けにならない?!ならない、よね?!師匠の事とか師匠の事とか、師匠の事しかないけど!)
微かに唸る二人の周りに、大木が朗らかに笑うように煌めきを零す。
「……まぁ、まずは、帰ろうか……」
この問題は追々、とギニスタが呟く。
「ぅ……はい……あ」
ゆるゆると頭を持ち上げたシャルプは頷き返し、少ししてはっとしたように目を見開いた。
「ん?………………シャルプ?」
みるみる頬がゆるんでいくその顔へ、ギニスタが怪訝そうな眼差しを向ける。
「いえ、一緒に帰れるって嬉しいなぁって……なんか、ぇへへ」
そこに珍しく紅が混じり、シャルプは肩口の髪を指先でいじる。
「……」
なにやら空気が変わったようで、ギニスタはなんとも据わりが悪い。
それに、帰ってからもやる事はあるんだと、言って良いものか少し悩んでしまった。
「あー……シャルプ」
「はい」
「帰ってな、休憩したら見回りに──」
「えー!」
妙な空気が霧散して、抗議の声が辺りに響く。
「ゆっくりしましょうよ!明日でも良いじゃないですか!」
「本当は今すぐにでもやるべきだと、アタシは思うんだが、なぁ……」
腕を振るシャルプの顔を見上げ、ギニスタは頭を捻る。
(一時でも管理者が不在だったんだ。山の者達に「もう安心だ」と言って回るのは、管理者としての務め……)
そう考えるが、それをただ押しつけても駄目なんだろう。
「むー……」
不満を身体全体で表すこの弟子に、どう言えば上手く伝わるのか。
「シャルプ。君がとても不安な時、誰に「もう大丈夫」と言って欲しい?」
「師匠です」
「……山の者達にとってのそれが、君なんだ。君が「もう安心だ」と皆に伝える事は、山の淀みを無くす事にも繋がる」
「……むぅー……」
シャルプは腕を組み、また唸る。頭を右に傾け、左に倒し、目を一度瞑ってから、
「…………分かりました……」
しぶしぶ、といった風に頷いた。
ギニスタはほっと息を吐き、
「でも、きちんと休憩取ってからです!一緒に!帰って!から!」
「お、おう……」
中腰になって一気に近付いてきた顔に、気圧されつつ首を縦に振る。
「じゃあ帰りましょう! ヴェアン、またね」
言って振り仰いだ大木に、ギニスタも頭を下げる。
「主、失礼します」
「はい、師匠」
そして向き直り、
「おぉ、……ん?」
自然と手を脇に入れられ、抱き上げられる。
反射的に合わせて動いてから、この動作が身体に染み付いてしまっている事に、ギニスタは気が付いた。
「……」
「師匠?」
「……いや」
今の自分は幼子であるから、これもしょうがない事か。そう思って口を噤む。
(早く成長したい)
そもそもとして、この身体は成長するんだろうか。
真の者が創った──しかも真の者自身にも把握できていない部分がある──代物、何か規格外な所があってもおかしくない。
(…………要検証、だな)
この身体で目覚めてから、まだ二十日と経っていない。
これから何が起こるかと、内心穏やかでなくなったギニスタだった。
終
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