かあさんのつぶやき

春秋花壇

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108 虐待サバイバーは障碍者年金を毒親に搾取される

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「俺、悪くない。なんも間違ってない」

自分じゃない何かのせいにしたい

「ああーーー、もう嫌だ。音のない世界に行きたい」

なんとか、あの人から離れたくて

明日、障碍者年金が支給される14日。

本来なら、通院日なのに自宅のマンションに帰った。

なんだかんだ21日間もいてしまった。

もう一部屋あればこんなにイライラしなくて済んだのかもしれない。

6畳と台所6畳。

和俊が一生懸命、小説を書いたり読んだり勉強したりしているすぐそばで、

母である富子は大きな音で宗教のストリーミングを見ている。

かと思えば、ざまぁ系のとことんやり過ぎてしまうユーチューブ動画を

見ている。和俊は、母に気兼ねしてずっとヘッドホンを使っているというのに。

無神経にもほどがある。

人には、

「心づかい」

をこれでもかというほど強要するくせに、

発達障害のせいなのか不注意で衝動的でやかんのようにすぐに怒る。

(ああ、もううんざりだよ)

今帰ったら、多分、水曜日の通院にはいかれないだろう。

でも、どこかでリセットしないと壊れてしまう。

頭の中が愛を教える宗教とやられたら10倍返しの不思議な狭間で

訳が分からなくなっている。

本当に愛と憎しみは紙一重なのかもしれない。

子供は、親の言うことは聞かず

親のすることを見てしまう。

考え方、生き方に左右されたくなくても影響を受けてしまう。

幼稚園の時から、おばあちゃんに近所の焼鳥屋に行って

お酒を飲んで帰ってこない母を迎えに行かされた。

新築の家を買って、おばあちゃんが死んでからは、

学校から帰ってきたら、片手に電話機を持ち

片手にお酒の入ったコップをもって「いのちの電話」に泣きながら

電話をしている母がいた。

つらいのは、悲しいのは、母さんだけじゃないのに。

その後、母は3人子供を産み、一人は775グラムの極小未熟児で、

その後の弟と妹は生まれて直に死んだ。

それからは地獄への道をまっしぐら。

毎日、毎日、母はお酒を使った自殺を繰り返す。

俺の心は壊れていく。

母が買った新しい家。

4lDKの綺麗な家。

僕はいつも頭から毛布をかぶってゲームをしていた。

何も見たくなかった。

何も聞きたくなかった。

ただただ、ゲームの世界に溺れていった。

お酒をほんの少し頑張って辞めているかと思えば、

男性に依存し、パパがいるのに妹を連れて男の元へ。

小学生になっていた俺は、放置され、一人寂しく新築の誰もいない家でお留守番。


「ねー、かあさん、俺だって、つらかったんだよー。寂しかったんだよ」

そんな本音が吐き出せたら、どんなに楽だっただろう。

だけど、そんなことを言ったらかあさんが泣いちゃう。

俺が、3歳の時かあさんが泣いていたら、

「ちゃーちゃん、泣かないで。

僕が幸せにするからね」

って、ティッシュで涙を拭ってくれたって。

だから、生きてこれたんだって呟くんだ。

「和俊は、神様から預かっているんだからね。

神様にお返ししなきゃいけないんだ」

なんて、言われたら、毒を吐きたくても何も言えなくなっちまう。

これって、俺が悪いのか?

中学校になったら、おやじもおふくろも男と女の所に行ってしまって、

7つ下の妹の世話を俺に放り投げる。

やっと最近、少しまともになったかなと思うと

いつもいつもお金をせびる。

だから逃げ出すんだ。

虐待サバイバーは障碍者年金を毒親に搾取される。

年老いた親を放置するなんてとんでもないことなのだろう。

だけど、こうやって自分のマンションに帰らないと

俺の障碍者年金は、全部母に使われてしまう。

逃げろ――。

とっとことっとこ。

物凄い罪悪感を感じながら、必死で自転車をこいで自宅マンションへ。

やっと逃げてきたというのに、ぜーぜー。

「親不孝な息子は、人間じゃねー」

幻覚幻聴の中でのたうち回る。

救急車を呼び、訪問看護の手厚い世話を受けながら

なんとか時を過ごしていたら、

「たばこ代がないの」

甘えた声で毒親登場。

「おれは、おれは、搾取子じゃねーー」


虐待サバイバーとは、幼少期より虐待を受けて育ち、

生き残った人のことです。 

年間20万人以上の子どもたちが虐待の被害を受けています。 

その虐待は、一時的なもので終わることはほとんどありません。

更に、虐待を受けた子どもたちの苦悩は、子ども時代で終わらないのです。


紫陽花が咲き誇る6月の空が連日30℃越でゆっくり色を変えて

花のほころびを咲き急いでいく。

帰り際、俺が寝ている枕もとで

「ごめんね、いつも……」

と、母さんが呟いている。

これだよ。この一言で毒をおびていた俺の心がはらりと溶けていく。
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