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77 たらちね
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「ちょ!」
母さんは、この世の物とは思えない物を見るように俺を見た。
俺は、どうしてそんな顔をされるのかまったく解らないで
口を半開きにして母さんを見てる。
かあさんは、どうしてそんなことになってるのか訳がわからないのだろう。
眉を寄せてちょっと困った顔をしながら
「そうじゃなくて洋服を引っ張るの」
「ああ、そうか~」
俺は母さんのTシャツを引っ張って脱がせてあげた。
「びっくりするね」
「なんで?」
「だって、脱がせてって言ったら……」
「オイッス!」
俺の名前は、沼田 和俊(ぬまた かずとし)45歳。
無職である。
俺は今、母さんのアパートにいる。
そして、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして目の前にいるのは、
母、小宮 富子(こみや とみこ)68歳。
母は、父と離婚した後、別な戸籍になり、
旧姓に戻った。
で、ある。
最近母さんは、四十肩いや六十肩でじっと座っていてもずきずきと肩がうずいて
思うように動作できないらしい。
夜中眠っていても、うめいてしまうくらい痛いらしい。
ファスナーのついたヨットパーカーもいつも通りに右から袖を通してしまうと
どんなに頑張っても着る事が出来ないという。
Old age is the most unexpected of all the things that happen to a man.
年寄りになることは、人に起こることの中で最も予期せぬことである。
思ってもいないような出来事がばんばん起こってしまう。
そして、その名言を上回っているのが俺の行動だと母さんは笑い転げ乍ら
短いまつげを瞬かせ嬉しそうに言う。
何度も何度も、思い出しては
「しっかし……」
とほざいている。
「はーーー、もうわかったよ」
訪問看護の人にまで言いつけて、俺の予想もつかない行動を笑いものにして…。
引っ張り過ぎだよ。
サッサと言えよ。
何をそんなに笑い転げているんだ?
はいはい、解りましたよ。
母さんがTシャツを脱がせてほしくて俺の前で腰をかがめた時、
俺は、母さんの大きなおっぱいをギュっと掴むと引っ張ったのだ。
たらちねだけど、ホルスタインの乳牛のような大きなおっばいである。
俺の大きな手でもはみ出すような大きさである。
それをむぎっゅって……。
ゆつくりと掌にかあさんの体温が伝わってくる。
思わずなぜか深呼吸したくなる。
安らぎの時間…。
(俺は変態か~)
はううう。
たしかにね。
普通はそんなことしないよな。
言われてみれば納得です。
アスペルガー症候群(ASD)のせいなのかな?
アスペルガー症候群は発達障がいの一つで、社会性・コミュニケーション・想像力・共感性・イメージすることの障がい、こだわりの強さ、感覚の過敏などを特徴とする、自閉症スペクトラム障がいのうち、知能や言語の遅れがないものをいいます。
そうだよな。
普通、親の乳なんて掴まないよな。
だから、かあさんがいなげなものでも見るかのように
俺を見つめていたのも腑に落ちる。
母さんが肩が痛いのを俺は知っていたよ。
洋服の着脱も困難なことも知っていた。
でも、目の前にぶら下がっていて俺は何も考えずそれを掴んじゃったんだよ。
テニスボールのようにまだ弾力のあるその大きなたらちねはきっと懐かしい香りがしたんだろうな。
情け容赦なく、老いにむかっていく母さんと
こんなふうに笑って居られる日が続きますように。
梅雨の後先の優しい風が、母さんの痛みの原因を吹き飛ばしてくれますように。
おはようございます
ベルガモットモナルダの
赤や中紅色の花が
あでやかに咲き始めました
しっぽりと小ぬか雨が
薄衣の紗や絽のように
優しく包んでいきます
今日一日
ありのままを受け入れ
自分と相手の
長所を捜す事が出来ますように
笑顔同封
鏡は先に笑わない
#都立城北中央公園
#ガーデニング pic.twitter.com/3KA82Jjrdn
母さんは、この世の物とは思えない物を見るように俺を見た。
俺は、どうしてそんな顔をされるのかまったく解らないで
口を半開きにして母さんを見てる。
かあさんは、どうしてそんなことになってるのか訳がわからないのだろう。
眉を寄せてちょっと困った顔をしながら
「そうじゃなくて洋服を引っ張るの」
「ああ、そうか~」
俺は母さんのTシャツを引っ張って脱がせてあげた。
「びっくりするね」
「なんで?」
「だって、脱がせてって言ったら……」
「オイッス!」
俺の名前は、沼田 和俊(ぬまた かずとし)45歳。
無職である。
俺は今、母さんのアパートにいる。
そして、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして目の前にいるのは、
母、小宮 富子(こみや とみこ)68歳。
母は、父と離婚した後、別な戸籍になり、
旧姓に戻った。
で、ある。
最近母さんは、四十肩いや六十肩でじっと座っていてもずきずきと肩がうずいて
思うように動作できないらしい。
夜中眠っていても、うめいてしまうくらい痛いらしい。
ファスナーのついたヨットパーカーもいつも通りに右から袖を通してしまうと
どんなに頑張っても着る事が出来ないという。
Old age is the most unexpected of all the things that happen to a man.
年寄りになることは、人に起こることの中で最も予期せぬことである。
思ってもいないような出来事がばんばん起こってしまう。
そして、その名言を上回っているのが俺の行動だと母さんは笑い転げ乍ら
短いまつげを瞬かせ嬉しそうに言う。
何度も何度も、思い出しては
「しっかし……」
とほざいている。
「はーーー、もうわかったよ」
訪問看護の人にまで言いつけて、俺の予想もつかない行動を笑いものにして…。
引っ張り過ぎだよ。
サッサと言えよ。
何をそんなに笑い転げているんだ?
はいはい、解りましたよ。
母さんがTシャツを脱がせてほしくて俺の前で腰をかがめた時、
俺は、母さんの大きなおっぱいをギュっと掴むと引っ張ったのだ。
たらちねだけど、ホルスタインの乳牛のような大きなおっばいである。
俺の大きな手でもはみ出すような大きさである。
それをむぎっゅって……。
ゆつくりと掌にかあさんの体温が伝わってくる。
思わずなぜか深呼吸したくなる。
安らぎの時間…。
(俺は変態か~)
はううう。
たしかにね。
普通はそんなことしないよな。
言われてみれば納得です。
アスペルガー症候群(ASD)のせいなのかな?
アスペルガー症候群は発達障がいの一つで、社会性・コミュニケーション・想像力・共感性・イメージすることの障がい、こだわりの強さ、感覚の過敏などを特徴とする、自閉症スペクトラム障がいのうち、知能や言語の遅れがないものをいいます。
そうだよな。
普通、親の乳なんて掴まないよな。
だから、かあさんがいなげなものでも見るかのように
俺を見つめていたのも腑に落ちる。
母さんが肩が痛いのを俺は知っていたよ。
洋服の着脱も困難なことも知っていた。
でも、目の前にぶら下がっていて俺は何も考えずそれを掴んじゃったんだよ。
テニスボールのようにまだ弾力のあるその大きなたらちねはきっと懐かしい香りがしたんだろうな。
情け容赦なく、老いにむかっていく母さんと
こんなふうに笑って居られる日が続きますように。
梅雨の後先の優しい風が、母さんの痛みの原因を吹き飛ばしてくれますように。
おはようございます
ベルガモットモナルダの
赤や中紅色の花が
あでやかに咲き始めました
しっぽりと小ぬか雨が
薄衣の紗や絽のように
優しく包んでいきます
今日一日
ありのままを受け入れ
自分と相手の
長所を捜す事が出来ますように
笑顔同封
鏡は先に笑わない
#都立城北中央公園
#ガーデニング pic.twitter.com/3KA82Jjrdn
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