かあさんのつぶやき

春秋花壇

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「オイッス!」

俺の名前は、沼田 和俊(ぬまた かずとし)43歳。

無職である。

母、小宮 富子(こみや とみこ)66歳。

母は、父と離婚した後、別な戸籍になり、

旧姓に戻った。

二人は、過去に共依存と診断され

今は別々に住んでいる。

ここのところ、母さんの様子が変なので、

ちょくちょく顔を出すようになったのだが……。

かあさんのアパートの掃除も今日で3日目。

ごみ屋敷も少しずつ綺麗になってきている。

かあさんは、前、自分の注意欠陥障害をなげいて

ブログを立ち上げ、そこにごみ屋敷の画像を載せて

少しずつ掃除を始めていた。

また、あんなふうに出来たら、

俺が毎日ここにこなくてもすむんだけど。

今日は、かあさんのアパートのドアを開けるなり、

ビニール袋が振ってきた。

それも相当の数。

また何か買ってきたのかな。

かあさんは、寂しいと買い物に出かける。

デイケアとか行けばいいのに、

66歳だと要介護認定されているわけじゃないから

行く場所がないのかな。

ラジオ体操には毎日行ってるみたいだが、

やっぱりだれとも話さないで一人で家にいるのは

つらいのだろう。

かまってちゃんだしね。

明日は病院に二人で行くから主治医やカウンセラーと

相談してみよう。

そうしよう。

今日の東京は、ミストのような雨が

しっぽりと頬を濡らす。

25℃。

それほど蒸し暑くはなかった。

新型の感染症のせいで、

さまざまな弊害が少しずつ出ている。

ツイッターでは、#神待ち #家出少女が増え、

中高生の妊娠の相談が増えているとトレンドになっていた。

親子ともども家にいなきゃいけないと

弱いものがはじきだされてしまうのだろう。

外にも遊びに行けなければ、

結局、お手軽な恋愛ごっこになるのかな。

避妊くらいしようよ。

女の子がかわいそうだぜ。

話を元に戻して、

突然、泣き始めるかあさん。

「みんなに迷惑をかけて、早く死にたい」

と、いうのだ。

低気圧が頭上にいると、かあさんは重い気分障害になる。

一生懸命、笑う練習や笑顔歯磨き、感謝行トイレ掃除を毎日

しているみたいだが、

多重人格になるくらい何かショックな出来事が

昔あったみたいで、本人の意思とは関係なく

突然フラッシュバックを起こして、

パニック状態になったりする。

そうなると、俺は何にも出来ない

自分と折り合いが付けられなくなり、

何に腹が立つのかイライラし始める。

だってさ、大好きな親が

目の前で早く死にたいって泣くんだよ。

背中を摩ったり、頭をなでたりするんだけど、

俺も自分のことで精一杯だったすりすると、

かあさんのアパートに来ることさえしんどくなる。

鋭い針毛を持つヤマアラシは、

互いに寄り添い合おうとすると、

自分の針毛で相手を傷つけてしまうため、

近づけない、というジレンマ。 

ショーペンハウアーが寓話として用いた表現とされる。

ヤマアラシのジレンマ。

俺も訪問看護が週に3度も来るくらい重症だから、

距離を置きたくなっちゃうんだよね。

そうするとかあさんは悲しそうに、

「子どもなんて生んでも、大人になるとみんな私から離れていく」

って泣くんだ。

俺もなんか責められてるみたいで、つい売り言葉に買い言葉で、

「親の面倒って子供が見なきいけないの?」

っていってしまって、

信じられないという顔をされてしまう。

こうなると、死にたいのはあんたじゃなくて俺だよ。

かあさん。

もやしを一緒に買いに行ったね。

ネットでゆでないで、レンジでチンして

鶏ガラスープの素と混ぜるだけ。

すごく簡単でおいしい。

一緒に炊き込みご飯も作ったね。

豆腐とわかめとねぎと紫蘇を入れたお味噌汁も

紫蘇の香りがとても爽やかで、旬のお味噌汁だね。

ネットで調べれば色んなお料理が簡単に作れる。

だいすきなかあさんと、お料理を楽しめるのはとても幸せ。

「便利な世の中だね」

余った時間、みんな何してるんだろう。

一人上手にならないとダメなのかな。

薄色の陽射しを漉して黄変していくカバやケヤキ、深紅のカエデ、浅緑の木立ちと金いろのブナの樹林に混じる火の色のナナカマド。秋の日の終日をひそひそと森の日蔭の窪地を辿って歩き続けるうちに、やがて枯れ葉の囁きが耳に憑くようになった。この道を辿るのは初めてのことだったが、きりもなく葉を落とし続ける晩秋の彩りの森でじぶんがどこを目指して歩いているのかわからなくなっていた。霜焼けの黒で縁を縮らせた深紅の葉や灰いろの茸、羊歯の葉脈などのひとつひとつが雫が落ちるように眼に溜まって溢れ出していった。沢づたいの道を辿り、ようやく森の切れ目に館の尖塔の銅屋根が反射するのを見つけたとき、だから歩き疲れたかれは心底安堵したのだった。
ラピスラズリより引用

いつかこんな素敵な情景描写ができたらいいな。









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