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修学旅行
バレてしまった正体
しおりを挟む修学旅行が終われば、あっという間に季節は冬を迎えた。今年は珍しく雪がよく降る…そんなある日。いつも通り隼人とランニングしながら学校へ行くと、ほぼ全生徒と言える程の人数が職員室の前に集まり、職員室の中を覗き込もうとしていた。
そんな異常な光景に首を傾げた私と隼人。さっそく隼人は近くにいた友人の1人に声掛けをし、状況を聞いてくれる。
「ねぇ、どうしたの?」
「おッ隼人お前知らねぇの?このニュースだよ、ニュース!」
声を掛けられた男子が携帯を取りだし、見せてくれたネットニュースには…『レオ・グリシヤの今!何故、一般教員としての道を選んだのか!?』という見出しと共に、レオの写真が何枚か載っていた。
記事を見せてくれた男子が携帯をしまうと周りの生徒も数人、話に食い付いて来た。
「どこのニュースも綾城の事ばっか!!」
「こっちの記事には一時期、学生と暮らしてたとか書いてあるよ?」
「それ綾城ヤバくないッ!?」
「この学校の生徒だったりしてッ」
「まさか、親戚の子とかじゃない?」
「だったら記事にならないでしょ?」
「た、確かに」
「綾城、学校辞めんのかな?」
「えぇー!ヤダ~!」
そんなザワつく生徒達を前に、隼人の袖を掴んだ私は「大丈夫…かな?」と少し震えてしまう。自分を助けたばかりにこうなってるなら、申し訳なさが込み上げてきた。
けど隼人は優しく微笑んで「いつかはなる事だった」と励ましてくれた。
ーーーーーレオside
1時間前
俺はいつも通りの時間に家を出て、学校へ向かった。校内の駐車場に車を停め職員室へ向かう途中、早々と来ていた生徒達が俺に走りより囲まれてしまう。
まだ7時だぞ?
こいつら早くね?
「お前ら早いな」
「先生、元世界俳優ってホントッ!?」
「俺、レオ・グリシヤの作品は全部見てる!」
生徒達と言葉に俺は驚いた。何故彼らが知っているのか?誰かが話したのか?だが、学校内で俺の正体を知ってるのは莉緒たち四人組と倫太郎…そして校長だけの筈だ。彼らが口を滑らして広まったのも考えにくい。
「私も子供の頃から見てた!ってか知らない人がいないレベルの大俳優だよねッ!?」
「待て待てッ!何言ってんだお前ら、何で俺が…」
「これだよコレッ!綾城、ニュースになってんの」
混乱していると生徒の1人が携帯を取り出し、ネットニュースを見せてくれた。そこには俺の家や髪を解いた姿の写真など、言い逃れの出来ない記事が載っていた。
ミアを追った記者か?
俺の対策が甘かったせいか…
どちらにせよ、先ずは校長と話す必要がある俺は生徒を掻き分け職員室へと急いだ。
「金木先生ッ!教えて下さいよッ綾城先生とは幼馴染ですよね?!」
「そう言われましても…あっ本人が来ましたよ」
職員室では先生方に詰め寄られていた倫太郎。彼は俺を見るなり、厄介事を押し付けるように教師の視線を俺に向けた。
「綾城先生ッ!これは一体どういう事ですかッ!?」
「記事の一文には学生と生活して居るというのもありますが、まさか我が校の生徒じゃありませんよねッ!?」
「すまん、校長と話してからでいいか?」
校長と話を終えるまで何も言うことが出来ない…なんとか落ち着いて貰おうとすると、俺はタイミング良く校長に呼ばれ隣接する校長室へと逃げ込む事が出来た。
「派手にバレてしまったね」
「悪い…」
「いえ、ですが未成年との同棲…この事について詳しく話して貰えますか?」
「…俺のクラスの山本莉緒。彼女とは真剣交際をしている。山本が家を追い出された日からアパートが見つかるまで、一時的に保護した…って意味でなら共に住んでいた」
「そうですか。親御さんの許可は?」
「もちろん得てる」
「でしたら交際に関しては目をつぶりましょう…しかし教員として、学生との交際は見過ごせない行いですね」
そりゃそうだ。
生徒との交際など辞職ものだ。
だが、俺は今辞める訳にもクビになる訳にも行かない…この校長は俺がレオ・グリシヤだと分かった上で雇ってくれた恩人だ。迷惑を掛けたくは無いが、俺はダメ元で深々と頭を下げた。
「ッ…お願いです。せめて今の二年生が卒業する迄は…」
「分かってます。多少の問題はあるとは言え、貴方は生徒達にとって大きな存在です。直ぐにクビとはしません。ただ、この騒ぎはどうします?」
「生徒達には俺の正体を全て話すつもりです。もちろん、これ以上の迷惑は校長にもお掛けしません」
「遅かれ早かれこうなる事は分かっていましたから。マスコミの方もしっかりお願いしますよ?」
「はい。ありがとうございますッ」
結局、処罰は今の2年が卒業と同時に辞職する事で話はまとまり、校長室を出た俺は教員たちに頭を下げ全てを説明した。
「お騒がせして申し訳ない。今の2年生が卒業すると同時に、俺は職務を退職する事が来まった」
「じゃぁ貴方は本当に…」
「あぁ、記事に書かれた通り俺の前職は俳優。だが学生との同棲に関しては誤報だ。親戚の子を預かってた事はあるが、その時に撮られたんだろ」
俺の言葉に納得してくれた教員達。問題は生徒の方だ…暫く莉緒に構う事が出来なくなるが、これ以上の揉め事は避けたい。
莉緒への申し訳なさを抱えながらも、全てを話すため生徒の前に顔を出す事にした。
ーーーーーーー莉緒side
登校してきた葵達とも合流する中、内心ソワソワして落ち着かない私は職員室へ近寄る事も出来ず、ただ群れる人混みを呆然と眺めていた。
すると突然、生徒達は騒がしくなる…どうやらレオが職員室から出て来た様だ。
「先生ッ学校辞めちゃうのッ!?」
「本当の事教えてよ綾城!」
そんな質問が飛び交う中、生徒に落ち着くよう促すレオ…そして彼は自分が“レオ・グリシヤ”だと話してしまう。キャーと盛り上がる生徒の中には、驚きのあまり倒れる生徒まで現れた。事実に納得すると、話は学生との同棲についての説明要求に移り変わる。
「親戚の子を預かってた」
そう説明するしかないのは分かってた。
頭では理解出来てるのに、何故か私は酷く落ち込んでしまった。何故なら…今後は卒業するまで彼と今まで通りに会えない、話せないと理解してしまったからだ。
けれど辞められるよりはマシだ…と自分に言い聞かせる事にした。
こうして大きな不安を抱えたまま、私は2年生最後の学期を過ごす事となった。
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